関 建築+まち 研究室

 建築やまちについて考えてみたい方へ ・・・ いっしょに考えてみませんか ・・・

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■団体活動随筆記・・・これまでに係わってきた団体活動に関する随筆を紹介しています

■新着随想
 2018・3・23   長野のまちづくりと災害対応  を追加しました
 2018・3・23   建築と都市の未来に備える  を追加しました

長野のまちづくりと災害対応

■村野藤吾との出会い
 モダニズムのプレーンな造形に強く惹かれていた学生時代(早稲田大学理工学部建築学科)。建築家事務所(丹下健三、槇文彦、宮脇檀、大高正人、藤本昌也、新建築社等)で、ずっとアルバイトをしていました。
 大学院に進んでから、村野藤吾の作品のことが気になりだしました。モダニズムとは違う造形に魅力を感じるようになってきたのです。村野藤吾のもとで学びたいという思いを、研究室の教授に相談したら、幸いにも村野藤吾に面接することができました。事務所に伺った際、その場で「いつから来られるの」と言われ、びっくり仰天したことを記憶しています。
■村野・森建築事務所で
 勤務地は大阪でした。全く初めての地で、いろいろと不安はありましたが、村野藤吾の本拠地なので、期待に胸を膨らませていました。
 しばらくは粘土で模型をつくるのが仕事でした。学生時代にはバルサ材を刻んでつくっていたので、全く勝手が違いました。スタイロフォームなどを下地にしてボリュームをつくっておいて、そこに粘土を盛って形を整えますが、曲面や曲線も多いので本当に苦労しました。
 その模型に先生が直に手を加えて、それにしたがって修正を加えることの繰り返しでした。まさに「デザインを練る」という言葉のとおりの作業でしたが、自分としては充実した時間でした。
 先生の脇で作業を見ていることができたときは感激でした。あこがれの建築家のもとで修行するという感覚は、今の時代では難しいことかもしれません。箱根プリンスホテル、新高輪プリンスホテル、京橋三丁目ビル、大阪建物麹町ビル、松寿荘、甲南女子大学などの模型を造っていたと記憶しています。パースも描きました。
 また、図面保管庫を再整理する機会もありました。長い期間かかったので大変でしたが、過去の作品の図面を全部見ることができたのは貴重な経験でした。
 佐賀県の現場監理の補助で一年半ほど常駐していました。事務所を離れることは少し不安でしたが、今に活きる経験になったと思っています。
 大阪事務所では、先生から主任に指示が出て、それが私たちに伝達されるという仕事のスタイルでした。先生は主任の前で延々とスケッチを続けたり模型を触ったりしていましたが、製図室の中央のテーブルで黙々と仕事をしているときは、回りにいる私たちにも緊張感がありました。かつては先生自身が各自の製図版を回って製図板上の図面(美濃紙)に濃い鉛筆でスケッチを重ねていったので、始めから書き直しをしなければならないこともあったそうです。大変だったかもしれませんが、喜びを伴う苦労だったのではないかと思いました。
■関西での暮らし
 関西での暮らしは初めてで、何もかもが物珍しかったので、休日には大阪市内や京都、奈良、神戸に出かけて、新旧を問わずいろいろな建築を見て回りました。奈良に住んでいたのですが、歴史を感じさせる自然豊かな環境は素晴らしいものでした。若い時期に様々な建築を見て回ることができたのは良い経験でした。
■村野藤吾から学んだこと
 新高輪プリンスホテルの料亭(秀明)を手がけていた頃、急に故郷の長野に戻らなくてはいけない事情ができて、たった6年で事務所をやめることになってしまいました。事務所を辞すときは、うしろ髪を引かれる思いでした。その後、先生から受け取った手紙には「君のようなつとめ方をした人はいません」と書かれていたのを覚えています。伊東忠太の小さな絵をいただきました。
 私が学んだのは、個々の建築の手法や造形デザインの継承のようなことよりも、先生のひたむきな建築への思いを見ることができたということです。先生は自分自身でデザインするタイプの建築家でした。全ての時間が建築のことだけに費やされていた人だったと思います。今の時勢では、あれほどの時間をかけてじっくりと建築をつくっていくというプロセスは許されないだろうと思います。そういう意味で、建築一筋の姿勢を目の当りにできたことは、かけがえのないことでした。
■長野に戻って
 故郷に帰ってからは、父の建築事務所に入りました。仕事のギャップ感はものすごいもので、建築に求められている価値がまったく違っていて、滅入るときもありました。寒冷地であるとかローコストであるといった制約の多い設計ばかりで、大阪で学んだことを伸ばしていけるような状況ではありませんでした。自宅を建てて以後、住宅設計の依頼も増え始め、やりがいのある仕事が少しずつできるようになってきました。
■まちづくりへのきっかけ
 ある頃、母校の長野高校の建替え問題が起こりました。論点は歴史のある木造校舎の保存でしたが、木造校舎の一部を保存するが、他は建替えるという結論が出た段階で、私が提案した「ゆとりと刺激」という考え方が受け入れられました。
 その一部始終を見ていた商店街の方が、長野市善光寺からJR長野駅を結ぶ中央通り(今は表参道と言います)の電線地中化事業のアドバイザー役として私に声をかけてくれました。これが、私がまちづくりに関わるきっかけとなりました。
 JR長野駅側から始めた事業は、徐々に善光寺門前の大門町のゾーンにかかってきました。大門町の住民は従前からまちづくりに関心が高く、善光寺門前にふさわしいグレードの高い街路空間をつくることにこだわりました。ランドスケープデザイナーにデザインを描いてもらったのですが、簡単に受け入れてもらえるはずもなく、大変な思いをしながら進められていきました。
 私は、行政の一方的なやり方でも住民との対立でもない形で進められないかと思い、両者をつなぐ役割を努めたいと考えました。住民の熱い思いによって、長野冬季オリンピック・パラリンピックの直前に、街路空間は道路というよりも庭園のような素晴らしい姿に生まれ変ったのです。
 また、善光寺の勉強会に呼ばれてレクチャーしたのがきっかけで、「まちづくり基本構想」なるものを作成しました。それが後に「街なみ環境整備事業」をお手伝いする動機になりました。そこまではボランティア活動でしたが、街なみ環境整備事業は業務として臨みました。対象エリアの住民の方々とは既にだいぶ親しくなっていたので、地元感覚で取り組むことができました。
 この事業によって、変化の少なかった街なみが少しずつ変わっていくことになったのは良かったと思っています。業務には終わりがありますが、まちづくりや景観整備に終わりはありません。今もボランティアとして継続した取り組みをしています。まちづくりの成果が出て来てきているので、嬉しい限りです。
■長野県の震災対応
 長野県では、2014年末に白馬村や小谷村を中心とした神城断層地震、2011年の東日本大震災の際にも栄村を中心とした長野県北部地震などが起きています。木曽の土石流や御嶽山の噴火などもあり、災害が続きました。それ以前にも、隣県の新潟県で中越沖地震、中越地震などが起きています。東日本大震災のスケールと比べれば小規模ですが、どんな地震であれ、人間や建築にとって大変なことに変わりありません。
 これらの地震の際には、応急危険度判定士が緊急に動員されました。建築士が勝手な判断や行動をして、事故を起こしたり余震などの被害に巻き込まれたりしてもいけませんので、行政などと連絡を取り合って、被害状況や現地までの交通事情などの正確な情報を把握することが重要です。
 長野県北部地震の時には、ただでさえ広い上に決して交通事情が良いとは言えない栄村内を、回り道をしながら、手分けして公共建築物の被災状況現地調査や住宅等の応急危険度判定、住宅相談などに出向きました。罹災証明書の発行補助なども行い、地域の人々に建築士の存在を理解してもらえたと思います。
 神城断層地震の際は、すでに長野県との「災害時における建築物災害応援活動に関する協定」が結ばれていましたので、建築士会が中心になって応急危険度判定の手配などを行いました。長野県では、新潟県の地震の時にも支援に出向いており、出動のノウハウ的なことを熟知して指導に当たれる人材も多く、会員の意識も高いため、迅速な対応が可能となっています。
 最近はいろいろな団体が、それぞれに支援活動を行っています。そのこと自体は大変心強いことだと思いますが、団体が先を争ったり実績を主張したりといった活動の姿勢には苦い思いを覚えます。支援活動は自分たちのためではなく被災者のために行なうことですし、被災地の人々は団体名の相違などよくわからないはずですから、団体間であらかじめ連絡調整をしておいたほうが良いかもしれないと思っています。
■復興住宅への取組
 長野県北部地震の時には、迅速かつ丁寧に対応した建築士会に復興住宅の設計を委託したいといううれしい話になりました。そこで青年女性委員会を中心に取り組んでもらうということにしました。集団で手分けをして取り組むということや、何度も現地に出向いて調査をするということは大変なことでしたが、とても熱心に頑張ってくれました。被災して仮設住宅に住んでいる住民に対して早く対応しなければならないということだけでなく、豪雪に対する対策、地域産木材の使用、建設コストなど多くの調整条件が重なってきますが、復興住宅ということを考えると、迅速さと正確さが大切だと思いました。青年女性委員会のメンバーにとっては良い経験になったと思いますし、ある人はそれをきっかけに公共の仕事に取り組むステップになったようです。
■長野県との災害応援活動協力協定
 私たちは、大きなパニックによって想像を絶するような事態が起こり得るということを学びました。対策を講じていても、現場で適切な判断や行動がなされなければ意味がないということもよく理解しました。そんなことが背景になって、長野県と長野県建築士会の間で「災害時における建築物災害応援活動に関する協定」を結ぶことになりました。
 主な内容は、応急危険度判定やその他災害の応急活動において、長野県建築士会が応急危険度判定士の参集を取りまとめるなどです。大変かもしれませんが、きちんと対応できるようにしていきたいと思います。
この協定は、その後の神城断層地震の際などに有効に活かされています。
■応急危険度判定士連絡網
 長野県建築士会では、応急危険度判定士連絡網と災害対応マニュアルを一体にした「緊急災害時における長野県建築士会の対応」を作成しています。応急危険度判定の出動については、行政との協定に沿って、建築士会が名簿を整備して、主導的な役割を果たしています。
また、県内での災害を想定した「大規模災害等緊急時の連絡体制」をまとめてあります。
 それでも緊急時には、電話などでの連絡は限界もありますので、現在ではスマートフォンを活用した「オクレンジャー」という安否確認・連絡網システムを導入しています。例えば、応急危険度判定士を登録しておいて、地震時に一斉に出動の可否を問い合わせると、各自から可否の回答が戻ってくるというような使い方をします。日常的に会議の出欠などを問い合わせる場合にも使えるので便利だと思います。
■災害への心構え
 長野県北部地震の後、宮城県建築士会の砂金会長をお招きして勉強会を行いました。いかに実効性のある対応をとれるかが重要であるということをしっかりと学んだように思います。いつ起こるかわからない異変に対して緊張感を持って備えるということは並大抵のことではありませんが、建築士は、震災や災害に役立つ専門家としてスタンバイしていなければならないと思います。
 もう一つ感じていることは、普段から他県の建築士会とネットワークをつくっておけると良いということです。公的な関係でも私的な関係でも良いと思います。長野県建築士会では、テレビドラマ「真田丸」の縁で、大阪建築士会と交流協定を締結しました。災害の相互支援を目的としたものではありませんが、つながりがあれば、いろいろな局面で現実的な支援が可能になると思います。
■建築士会の活動
 大阪にいたときに一級建築士に合格していましたので、長野に帰ってしばらくすると、市役所の建築指導課の方で長野県建築士会の会員になっている方から入会を勧められました。今では行政に在籍する会員さんは少なくなってしまいましたが、その頃はけっこう大勢いたように記憶しています。
 県の委員長になってから企画した長野県建築文化賞や「楽集会」や「建学会」などは、今でも形を変えながら続いています。
 連合会の会議に出て思ったのは、自分でも頑張っていたつもりでしたが、全国にはさらにすごい人たちがこんなに大勢いるんだ、ということでした。その後は情報部会のメンバーとして「ABA-NET」の立ち上げなどに関わりました。多くの方々と親しくなれたのは、かけがえのない財産です。
 今は、6年間務めた長野県建築士会会長を退任しましたが、連合会の建築技術委員会地域木造部会長として木造住宅の構造セミナーの普及や中大規模木造建築設計セミナーの企画を行っています。長野県建築士会では、連合会の木造企画を「信州木造塾」というセミナーで実現し、有効に活用しています。
 私は、地域に戻り、建築士会をはじめ周囲の方々に育てていただいたと、つくづく思います。これからも、地域に根付いた仕事や活動に取り組んでいきたいと考えています。

(社)日本建築士会連合会:「建築士」2016年3月1日掲載

建築と都市の未来に備える

■都市社会の高齢化
 都市は、人間が自らの安全を確保するために集団で住むところから始まった。そしてより便利であることを、さらにより豊かであることを求めてきた。そのピークが、高度経済成長とかバブルと呼ばれるものだったのかもしれない。増え続ける人口に対応するために、質よりも量が優先され、文明は極まったかに見えたが、国土づくりはなりふり構わぬ呈を残した。これからの都市は美しくなることを求めていくと言われている。
 しかし、わが国では平成20年頃を境に人口は減少に転じた。今から約15年後には、1000万人程度減少するという予測も出されている。数的には昭和50年代中頃に戻るということだが、戦後生まれが多く物不足だった当時と、高齢者が多く物余りとなった現在とでは状況は大きく違う。人口減少と少子高齢化は、成長を前提に描かれた社会システムを歪めている。就職も結婚もせず人生を終える人たちが増えてくれば、次々代のことが気にかかる。これから“都市社会の高齢化”現象が顕著になってくるのは間違いない。
■建築の変貌
 こうした状況は、新築主体だった建築のあり方自体にも影響を与えている。住宅はすでに相当余ってきているし、商業・業務系建築をはじめ、高齢者施設ですら余り始めていると言われている。使われなくなった建築をどう扱うのかは、今の時点ではまだ判断が難しい。解体されるものも少なくないと思うが、減築やリフォームなどして使っていく場合もあると思う。現在の建築基準法には、改修などに関する細かい記述は少ない。単なる量の問題だけでなく、内容面に新たな局面が発生することも考えられる。
 建築行政にしても、改造やコンバージョンといった行為の実態を正確に把握したり指導したりするのは極めて難しいだろうと思われる。無届行為や違法行為が増える可能性もあるのではないかと思う。
■都市の変貌
 建築の再利用のされ方によっては、都市の様相も変わってくると思われる。空地化や用途変更が無秩序に進行し、これまで築いてきた都市形態や機能配置がなし崩し的に変わっていくことも想定される。都市計画やマスタープランにおいても、用途地域や容積設定および開発のあり方などを見直すことが必要かもしれない。建築と都市の中間にある“まちづくり”的なルールが有効になるのではないかとも考えられる。
■状況に対応した施策と法律
 人口減少や少子高齢化だけでなく、情報化や国際化なども含めた複合的な社会変化に対して、都市再生特別措置法による対応がとられているが、これからは、きめ細かい建築・都市施策が必要になってくるだろうと思われる。全国建築審査会長会議でも既存建築物の活用事例が取り上げられるようになっており、来たるべき社会への対応を感じ取ることができる。建築審査会の役割や責任も、より重要になってくるはずである。
 建築士についても、“少士高齢化”状況が進行している。建築需要が減れば、建築士や建築士事務所が減っても問題ないと考えられているようであるが、資格者が少ないからと言って無資格者がクライアントと接していくことは無責任なことだし、法順守を徹底していくためにも資格者の適正数と資質を確保しなくてはならないと思う。

全国建築審査会長会議:60周年記念誌 2015年2月掲載

木造建築への思い

 近年になって木造建築が注目されるようになっています。そこには、可能性と検討課題が含まれているように思います。
 公共建築の木造化は、今年改定されるJIS等に合わせて、今後拡大していくと思います。今のところ経験の少ない状態ですが、発注行政や意匠及び構造設計者を含めた設計体制・供給体制の整備が課題だと思われます。
 木造住宅の多くは、意匠設計者が構造も検討しています。ただ、設計者が木構造を熟知していない場合や伏図などを作成していない場合もあるようです。行政も建築基準法4号特例により構造のチェックをしません。現場の大工さんたちも自分なりに伏図を検討することも少なくなりましたし、プレカット工場でも専門家が扱っているとは言えない状況があります。そう考えると、誰も住宅の構造をチェックしていないという実態が浮かび上がります。
 それでは設計者自身が構造の理解を深めないといけない、という観点から、長野県建築士会では、在来工法住宅の構造計画について体系的に学んでいます。クライアントに安心を届けたいという一心です。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2015年1月1日掲載

建築士会の未来予想図 

 平成になって27回目の春を迎え、お喜びを申し上げます。この年が皆さまにとって平和で明るい一年となりますよう、そしてまたそれぞれの企業のご発展が維持されますよう、心からお祈り申し上げます。また年末に発生した白馬村や小谷村を中心とした地震被害に対するご協力に対して、この場を借りて深く感謝申し上げます。
 昨年は、青年女性委員会の地域実践活動発表や信州木造塾をはじめとした委員会事業が精力的に行われ、充実感のある一年だったと思います。一方で、少子高齢化問題等がクローズアップされ、忍び寄る厳しさを予感させる一年でもありました。長野県は長寿日本一ということですが、単純に喜ぶこともできない心境です。この先に到来するはずの人口減少問題は、産業経済にとどまらず、都市計画やまちづくりにも影響する大きな社会問題だと考えられます。建築のリニューアルに加えて都市のリニューアルについても考えていかなければならなくなるでしょう。
 効果の見えない経済対策に人口減少が加わり、建築業界は厳しさを増すことでしょう。それに伴って関連団体も厳しくなっていくと考えられます。建築士会にとって『少士高齢化』対策はこれからの最大の課題です。会員数の変化は財務運営に影響してきます。数年後には今よりも厳しい現実が待っていると考えると、戦々恐々とした思いにかられます。今言えることは、本当に厳しくなってからでは遅いということです。建築士会の未来予想図を会員すべてが共有して取り組んでいかなければ、生き残っていくことはできません。
 私たちが将来の会員のためにしておかなければならないことを考えていきましょう。過去の歴史や地域の独自性などについても理解できますが、今私たちが考えなければならないのは、やはり建築士会の未来のことです。できること、やる決意、結果を出す覚悟を心に止めていくことが大切です。厳しさに屈せず頑張る年にしていきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2015年1月1日掲載

長野県建築士会の記録としての「建築士ながの」

 「建築士ながの」が、ここに600号という輝かしい節目を迎えたことを心より祝したいと思います。かつては「ニュース」という名で発行され、私の父(関昌寿・故人)が編集を担当していたということもあり、感慨深いものがあります。編集担当者のたゆまぬ努力によって、脈々と発行され続けてきたことに深い敬意を表したいと思います。
 「建築士ながの」及び各支部の機関紙は、その時点での長野県建築士会の姿を映しだした歴史の断面です。インターネット時代になっても、バーチャルとリアルを並行して継続してきたことの意義は大きいと思います。掲載されている記事はかけがえのない記録です。次の節目を目指して着実に歩み続けてほしいと願うものです。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2014年12月1日掲載

国土交通大臣表彰受賞に関するご報告と御礼

 このたび、平成26年度国土交通大臣表彰の栄に浴しました。建築士会に入会以来30年余に及ぶ活動実績に対する評価ということで、皆様に深く御礼申し上げます。
 私は大阪で一級建築士試験に合格し、長野に戻って建築士会に入会しました。建築文化賞・楽集会等の事業企画や、法人移行・会計に関する組織改革に取り組んできたことを思い返すと感慨深い思いです。
 このたびの受賞は、私にとって一つのマイルストーンだと思っています。仕事は未熟ですし、建築士会活動においてもやらなければならないことがあります。今後は、長野県としての結束を大事にしつつ、連合会や地域社会に密接に関わっていくことが必要です。引き続きよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2014年10月1日掲載

いま建築士と建築士会に求められていること

 一般社団法人元年の建築士会は、数多くの事業に取り組み、とても忙しい一年となりました。新年度においても継続する事業がありますが、各事業を通して、いま建築士に求められていることを見てみたいと思います。
 環境分野の講習会の頻繁さを見るとわかるように、このところ建築における環境対策が急速に進んでいます。東日本大震災後の復興まちづくりなどを機に、次代のまちづくりや建築づくりにおいては、省エネや省CO2対策を徹底する必要があるという指針が明確になってきています。2020年には省エネ基準適合への義務化というロードマップもありますので、今から先を見た学びをする必要があります。この取組みは、既存建築物にも及ぶことになりますので、ストックの活用とともに考えていかなくてはならない大きな問題だと思います。
 木造建築への取組み拡大も、環境対策の一環と言えるものとなっています。住宅だけでなく、一定の公共建築も木造化が進みそうです。我が国がこれまで培ってきた木造技術の伝統を守っていくことも大切なことだと思いますが、幅広い視点で木造建築をとらえていくことも必要になりそうです。
 まちづくりへの協力も建築士にとって大きな使命になってきていると思います。佐久支部の皆さんが取り組んできた佐久穂町のまちづくりは、建築士会の活動に元気を与えてくれました。県内では、これから高速交通網の整備に伴ったまちづくりなどが進むものと思われますし、一方で伝統的な建築や街なみの保存などの場面で活躍を期待されるヘリテージマネージャーも養成していかなくてはなりません。
 それから、建築士法の順守も強く求められています。業務上の問題で処分を受けた建築士もいますが、定期講習受講義務者が未受講のために処分を受けた事例も出ています。せっかくの資格を大切にしていただきたいと思います。また、建築士会・建築士事務所協会・建築家協会の三団体が共同要望してきた建築士法改正について、契約の義務化などいくつかの項目が6月には実現することになりそうです。
 次に、建築士会に求められていることです。
 このところ建築士の合格者数が著しく減少し、会員の高齢化も加速しています。今に始まったことではありませんし、長野県に限ったことでもありませんが、こうした傾向は、これから社会に向けて貢献的な活動をしようという建築士会の運営や活動自体に影響を与えかねません。根本的には、若い人たちに魅力を感じてもらえる建設業会を再構築していかなければならないというスケールの大きな問題ですが、団体としての組織基盤を強化して魅力ある活動を展開し、多くの資格者から建築士会に入りたいと言ってもらえるような体質や雰囲気を作っていかなくてはならないと思います。
 新年度においては、求められるものに対して答えていく活動を充実していきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2014年6月1日掲載

平成25年度事業報告と平成26年度事業計画

平成25年度事業報告  新法人としての第一歩
■新法人としての心構えと活動
 時の経つのは早いもので、平成25年5月25日(土)に長野市内で開催された通常総会を経て、「一般社団法人長野県建築士会」としての歩みが実質的にスタートしてから一年が経過しました。この年は、長野県建築士会の60年に渡る長い歴史の中で、最も大きな節目の年として記憶に残ることと思われます。
 法人の選択や会費の統一などについて議論を重ねてきた経過はあったものの、最終的に一つに方向に集約することができたのは、各支部、各会員の建築士会という団体組織に対する強い所属意識や仲間意識を共有できたからだと思います。
 法人が移行したことにともなって、建築士会の組織や活動がそれまでと変わってしまったということは全くありません。専門資格者団体として、資質向上を図りつつ、会員間の交流を通して前進し続けているところは、むしろ建築士会の原点のようにも思えます。たった一つ変わったところは、より社会に目を向けていく姿勢を意識するようになったという点だけだと思います。震災復興支援などの特別な状況下における活動に限らず、地域社会との密接な関係を求めていきたいものです。そこに、建築士や建築士会にとっての新しい活動のフィールドを形成していきたいと、改めて思わされます。
 会員減少が続く中での組織体制や運営に関する見直しは、新法人への移行以後も、継続課題として各ブロックを主体に検討を進めてきました。更なる改革に向けては慎重に進めなければなりませんが、一方で、先を見た取組が求められているという面もあります。
■活発な事業
 今年度事業の最大の特徴は、各委員会を中心に諸事業が非常に活発に行われたという点にあろうと思います。実施に関わっていただいた関係者には、この場を借りて深く御礼を申し上げます。主な事業についてふれておきたいと思います。
 ○信州木造塾実務編
  これまで10年間に渡って取り組んできた「信州木造塾」の内容は、講師・内容ともにかなり充実したもので、初心者にとっても経験者にとっても、木造建築に関して幅広い知識を吸収できる素晴らしい機会だったと思います。今年度は、これまでとやや趣を変えて、日本建築士会連合会建築技術委員会地域木造部会が企画した研修セミナーのカリキュラムを取り込む形で実施しました。それは、「一般的な在来工法木造住宅の構造計画を体系的に学び、建築基準法第六条1項4号の特例扱いの有無に関わらず、意匠と構造の整合性のとれた設計をすることによって、建築士としての業務的社会的責任を果たせるようになる」ことを目指したものでした。実務に直接反映できる講習内容になったこともあり、平日の開催にも関わらず盛況で、充足感のある「信州木造塾実務編」になりました。新年度も、同様の内容で実施することが決定しています。
 ○省エネ関係講習会
  環境問題がクローズアップされ、“低炭素社会に向けた住まいと住まい方”を目指して建築物における省エネや省CO2対策が推進されつつあります。大規模建築物だけではなく、住宅においても省エネ施工の義務化が予定されています。これまで意匠を競いつつ安全な構造を心掛けてきた多くの建築関係者にとって、省エネは必須だとわかっていても、まだまだ手探り状態なのではないかと思います。
  そうした状況を受けて、昨年から実施している住宅施工技術者向けの住宅省エネ施工技術講習会(断熱材の扱い)に加えて、今年は設計者向けの同講習会も実施するに至りました。また、長野県地球温暖化対策条例に基づく環境エネルギー性能評価指標取得講習会も実施しました。こちらは県の定める指標に伴って四つのコース(エネルギーパス・Qpex・CASBEE戸建・CASBEE建築)を設定しましたが、大勢の方々に関心を持っていただきました。平成27年4月以後は、建築物のエネルギー性能について建築主に対して説明をしなければならなくなりますので、今から対応を学んでおく必要があります。来年度も継続して実施することになっています。
 ○定期講習
  義務化された定期講習も三年を経過し、実務に携わっている建築士事務所数、建築士数の実態も浮かび上がってきました。一方で、未受講の建築士に対する懲戒処分も行われるようになってきました。講習会が大変多くなっていますが、定期講習は確実に受講していただいて、有資格者としての義務を果たしていただきたいと思います。
 ○地域実践活動全国最優秀賞受賞
  青年女性委員会が毎年実施している地域実践活動発表において、佐久支部の皆さんが関わってきた「佐久穂〈まちなみ〉再考プロジェクト」が、6月28日(金)に千葉県千葉市幕張で開催された関ブロ青年建築士協議会千葉大会で最優秀賞に選ばれ、それに引き続いて10月18日(金)に島根県松江市で開催された建築士会全国大会しまね大会における発表で、全国最優秀賞の栄冠に輝きました。テーマも活動内容もプレゼンテーションも大変立派なもので、圧倒的に高い評価を得ていました。長野県の発表が最優秀賞に選ばれたのは久々のことですが、今後も身近な地域に向けた活動に意欲的に取り組んでいってほしいと願うものです。
■建築士フォーラム2013in飯田
 回を重ねて定着してきた建築士フォーラムですが、今年は「環境とエコ」をテーマに、南信ブロック飯伊支部の協力によって、飯田市を中心に広い範囲で開催されました。当日は市内から天竜川や下栗の里に及ぶ全6コースに分かれて見学研修をしていただき、飯伊支部の会員の誘導もあって充実したフォーラムとなりました。地元となじみのある北川原温氏による「木造都市の夢」と題した講演会においては、一般や高校生たちの参加も見られ、とても良い企画であったと思いました。懇親会も大変盛大に行われ、飯田らしさを満喫できたのではないかと思います。

平成26年度事業計画  社会と未来を見つめる建築士会に
■建築情勢の変動
 消費増税だけに限らず、目まぐるしく流動化する社会経済情勢の中で、将来の変化や方向性を予測するのは困難な時代になっていますが、今の建築界や建築士会にとっては、少し先の建築情勢を読み取ることが必要だと思われます。この先、私たちに迫りくる建築に係る変化の一端について簡単に整理しておきたいと思います。
 ※ストック活用の時代
  少子高齢化傾向の加速は、社会基盤全体に影響を与えることになると思います。建築における新規の需要は増加せず、既存ストック活用が大きな課題になるでしょう。リフォームやコンバージョン技術の問題だけではなく、都市構造の再構築についても検討しなければならないでしょう。またさらに、就職も結婚もしないといった人たちの増加が、住宅需要に影を落としてくる日もそう遠くないのだろうと思われます。
 ※環境対策の時代
  東日本大震災の復興にあわせて、日本の建築やまちづくりにおける環境対策が国家的な課題になっています。人間の生存や生活・産業に関わる広範囲なテーマや手法があり、ライフスタイルや価値観など様々な転換が起きると思われます。環境指標は視覚的にとらえられない感知しにくい問題ではありますが、建築における環境・省エネ対策仕様は、義務化を経て当然のテーマになってくるものと考えられます。
 ※木造建築の時代
  近年の木造建築への関心の高まりの背景には、環境対策を持ち出すまでもなく、人間からかけ離れていくテクノロジーに対する制動意識や人間の感性の深層に内包された自然素材への帰求感などがあるのではないかと考えられます。人間が人間らしい暮らしをするために、木造建築や日本文化が顧みられていくように思われます。公共建築物を始めとした大規模建築物の木造化・木質化も推進されていくでしょう。
 ※まちづくりの時代
  日本の都市づくりや建築づくりの諸制度の中で欠落していたのは、都市と建築をつなぐ“都市デザイン”や“まちづくり”の視点でした。まちは、快適で環境に配慮した建築の集積であることを目指すにとどまらず、人間を育てるふるさととしての愛着を感じられる場所でなければなりません。地域住民や行政と一体になりつつ、建築的視野から取り組むまちづくりの成果が求められてくるものと思います。
列記した項目は一部の局面をとらえたにすぎないかもしれませんが、このような変化の兆しや予測に対して、業務上で取り組むのがふさわしいテーマも多いと思います。しかしそれと同時に、建築士会の今後の活動を模索する上でのヒントもたくさんひそんでいると考えられます。社会と未来を見つめ、地域と結びつくためのニーズを探り、新しい事業を自力で開発していく前向きな姿勢がいまの私たちに求められているように思うのです。
■信頼につなげる情報発信
 身近な建築士の存在や建築士会の社会貢献的な活動に関する情報が、いわゆる消費者や住民に十分伝達されているとは言えない実態があります。建築士の社会的認知度や地位の向上は永続的なテーマです。多様化・高速化する情報通信の利点を活かして、社会の信頼や要求にこたえられる情報の開示にも取り組んでいきたいと思います。また、災害時や緊急時などに必要となる連絡通信ネットワークの整備も急がれるところです。
■建築士が『学ぶ時』
 昨年に引き続いて、省エネ関係講習会や信州木造塾実務編といった講習会が行われることになっていますが、今年はさらに「建築士業務の責任と処分」や「融資制度」等についての講習会も実施したいと思います。放置しておけば失われてしまう可能性のある身近な建築文化財の保護などに携わることができる「ヘリテージマネージャー」の育成といったこれまでになかった分野にも取り組んでいきたいと考えています。
 建築士にとって、今は、この後にやって来る『動く時』に対する準備として、しっかりと『学ぶ時』なのではないかと思います。
 さらに、連合会、行政、関連業界などとの連携も積極的に計ることによって、活動を広げていきたいと思います。
■『少士高齢化』への対応
 長野県に限ったことではありませんが、建築士資格試験の受験者及び合格者が年を追うごとに減少しています。背景には、成熟化及び少子高齢化社会を迎えて、建築需要の減少という現状と予測があるのだろうと思いますが、その最も顕著な影響は企業や業務に関するところに表れることになりますし、建築主にも何らかの影響を及ぼすことになるかもしれません。技術資格者の不足は、需要と供給の関係においてアンバランスな事態を引き起こしたり、資格に関する不正行為が発生する可能性さえもあるということです。建築士会にとっても、当然ながら新規の会員が増えないといった状況が発生します。このようにして『少士化』が進む一方で、既存会員の高齢化も着実に進んでいっています。
 こうした事態は、緊急ではないとしても建築士会の存亡に関わる可能性のある憂慮すべき兆候ですが、それ以前に建築士会の組織体制の見直しをしていくうえでも慎重に考えていかなければならない問題です。支部体制や事務体制などの在り方にも影響のあるものになるかと思われます。
 対策としては会員増強と退会防止いうことになりますが、口で言うほど簡単ではないのは誰しも承知していることかと思います。私たちにできることは、建築士会の活動や交流を通して、「自分自身が建築士会に強い魅力を感じている」ことを伝えていくしかないのかもしれません。建築士の仕事は大変かもしれないがその先に楽しい充実感や達成感があるということ、建築士会でたくさんの仲間ができ、自分自身の成長や仕事に役立つ最新情報等も得られることなどを、もっと良く知ってもらう努力をしようではありませんか。

(一社)長野県建築士会:「第64回通常総会議案書」2014年5月24日掲載

『少士高齢化』時代

 建築の世界を志す若い人たちが少なくなって、建築士受験者数もその合格率も急激に低下しています。受験者数の減少は、創造に対して強いモチベーションを感じる人が減ってきたためだと考えられますが、合格率の低下は、今後の成熟社会では多くの建築士を必要としなくなるという予想図が描かれているためだと思われます。これからは「少士高齢化」の様相が加速していくでしょう。
 しかし、方向性として間違いはないと思っても、数字合わせのような情況だけが現実化されていくことに、少なからず疑問を感じてきました。適正な建築士数とはどれくらいなのでしょうか。資格未取得者であっても建築士と同様にクライアントやユーザーを前にして技術分野の業務をこなしているという避けがたい実態をかんがみれば、信頼を維持できる需要と供給のバランスを目指すという理念も必要だと思います。
 ニーズに対して必要な数量を充足すれば事が済むというわけではありませんが、さらに建築士制度や試験制度を見直し続けていくことも必要なのではないかと思います。建築士会は、多くの建築士が集い、資質向上のために世代を超えて真剣かつ楽しく交流できる場であり続けたいと思います。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2014年1月1日掲載

新法人にふさわしい活動を

 平成26年を迎え、新春のお喜びを申し上げます。この新しい年が会員の皆さまにとって良い一年となりますよう、またそれぞれの企業がますますご発展されますよう、心よりお祈り申し上げます。
 私たちは、昨年5月25日に行われた創立60周年記念式典において、これまでの壮大な歴史を振り返り、同日行われた通常総会を経て一般社団法人としての本格的な歩みを始めました。思い返せば、新法人移行に至るまでの道は平坦ではありませんでしたが、長野県建築士会が無事に且つ立派に生まれかわることができたのは、全会員の深い理解と強い結束によるもので、感慨深いものでありました。ただ、名称や形式などの変化は、言わば表面的なものだと考えられます。これからは、新法人にふさわしい実質的な活動に取り組んでいってほしいと強く思っています。そのためには、会員一人ひとりの前向きな意識が非常に大切だと思います。
 今年度の事業をみると、講習会が盛りだくさんに開催されています。省エネや環境に関連するものが多いのは、近年の傾向やら今後の建築の行方やらを示しているものだと思います。恒例の「信州木造塾」も内容を一新し、木造住宅の構造を体系的に学ぶことができるスクールとしたところ、大好評のうちに終了しました。「建築士フォーラム」も大盛況でした。時代や社会のニーズと会員のモチベーションが出会うところに、タイムリーで有意義な活動が生み出されるヒントがあるのではないかと思います。
 社会情勢は、短期間に目まぐるしく変化する時代になっています。社会経済の影響を直接受けとめざるを得ない企業の状況は、私たちのような団体組織にも色濃い影響を及ぼすことになります。建築需要が減ったことにより建築士を受験する人たちが減り、合格者の減少によって必然的に会員数が減少しています。私たちが、公益社団法人を目指すためには、『団体力』が必要だと思います。そのためには、「人・カネ・事業」を整えていなくてはなりません。今年も皆で、元気に頑張る年にしていきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2014年1月1日掲載

式辞

 本日ここに長野県建築士会創立60周年並びに新法人移行記念式典を開催できることをうれしく思います。
 長野県建築士会は、昭和27年に創立総会を開催したところからその歩みを始めました。その後社団法人となり、昭和52年には長野県建築士会館が竣工し、平成11年には建築士会全国大会長野大会を開催しました。
 そして本年、創立60周年と一般社団法人への移行を同時に迎えることができました。これまでに在籍されたことのある全ての会員の熱い思いがあったからこそだと思います。また同時に、行政をはじめとした地域社会の皆様のご理解やご支援をいただいてきたことも大きな支えでした。
 自己研鑽と交流のために集まった仲間たちは、現時点で約3000名です。戦後復興から高度経済成長とともに時代を駆け抜けてきた建築士の集団は、成熟化から人口減少へと転じつつある社会の中で求められる新たな要請を受け止めなければならなくなっています。建築士のモラルに関する問題や東日本大震災といった建築士に関わる衝撃的な事態が発生しています。建築士は適正な業務遂行や責任を強く求められる一方で、まちづくりや環境、被災時の復興支援活動のような社会貢献をも期待されています。巨大集団が時代のパラダイムに則した柔軟な対応を続けることは大変ですが、専門資格者団体であるがゆえに避けて通れない道でもあるように思います。
 長野県建築士会は、一般社団法人に移行しました。会員のためという考えと社会のためという考えの狭間で悩みましたが、無事に移行できたことは、団体としての結束を示すものになりました。新しい歴史を粛々と積み重ねていくことが、60年の歴史に報いることになるのだと思います。
 私たちは、さらに大きく飛躍する団体であろうと決意するものです。自分のことばかりでなく社会に向けて貢献できる団体、建築だけでなくまちづくりや環境など幅広く取り組める建築士を目指して歩んでいきたいと思います。
 式典におきましては、50周年以降にご功績のあった方々の表彰等を行なわせていただきます。記念講演では、東京駅丸ノ内駅舎の復原プロジェクトの総指揮をとられた田原幸夫さんからお話を聞かせていただきます。
 この創立60周年記念行事を実施するに当たって、多くの方々にお世話になりました。深く感謝の意を表します。

(一社)長野県建築士会:創立60周年並びに新法人移行記念式典2013年5月25日

一致・改善・前進

 私たちは昨年の総会で、一般社団法人に移行するという決断をしました。そして4月1日より、「一般社団法人長野県建築士会」がスタートしました。会員や行政等の方々のご理解ご支援をいただいた結果です。感謝と合わせ、今後の建築士会に対してもご協力をお願いいたします。
 本年の総会から代議員制を取り入れました。できるだけ多くの会員に参加していただきたいので、支部においても理解を広めていただきたいと思います。理事の改選方法や収支計算書も変わります。
昨年度は、財政健全化の検討をしました。会費統一は段階的に実行することになったので、厳しい状況はすぐに改善されないかもしれませんが、組織維持のための会費ということではなく、活動のための会費ということについて理解を深めていただきたいと思います。今後も厳しい社会経済情勢が続くことを勘案すれば、更に健全化を推進する必要もあります。
 CPD制度も全員で取り組むことになりました。本年度は環境に関する講習会が頻繁に開催されます。信州木造塾も4号確認マスター講座とも言えるものにします。近いうちに、会員カード(CPDカード)を用意します。
 法人移行や創立60周年は、ゴールではなく、スタートです。そこで、新しいテーマとして「一致・改善・前進」を掲げたいと思います。最も重要なのは、戻ったりとどまったりするのではなく前に進むことです。そのために一致が必要ですし、改めるべきところは改めるという姿勢が求められます。移行を機に、組織運営検討委員会を法人推進委員会とし、この新たなテーマの実現に向けて検討を進めます。
 栄村震災復興住宅の記録もできました。建築士会の新しい活動スタイルを切り開くステップとして受け止めていただくと良いのではないかと思います。
 決算は厳しい状態で、放置できません。活動を増やしつつ収支状況が改善されるように取り組んでいただきたいと思います。
 いよいよ新しい建築士会としての第一歩が本格的にはじまります。飛躍の年となるように、よろしくお願いいたします。 

(一社)長野県建築士会:第63回通常総会2013年5月25日

建築士会の実践的社会貢献

 「建築士会とは何をする団体なのか」という問いかけに対して、どのように答えるのが適切なのでしょうか。同じ資格を取得した仲間として親睦を重ね交流を深めていますし、技能向上にも積極的に取り組んでいます。建築行政に対する協力もしていますし、建築士の社会的地位向上にも努めています。こうした答えは、建築士会の不易的な活動をとらえているもので、間違ってはいないと思います。しかし、建築士会の活動や使命は、その時代のパラダイムによって流動する部分もあるように思います。
 数年前から、建築士会の活動は社会を強く意識したものに変わってきました。「新しい建築士像」を求める中で、社会の役に立つ建築士でありたいと考えるようになりました。CPD制度や専攻建築士制度はそうした路線の延長線上に位置づけられるものだと思います。折しも手抜き工事・悪徳業者・構造計算書の偽造・なりすまし建築士といった資格に対する信頼を失墜させるような事件が次々と起きたことも加速度となって、より積極的に具体的な社会貢献活動を模索してきたように思います。
 震災などの非常事態における奉仕的な支援は、建築士でなければできない活動として、今や建築士会の対外的な活動の柱のような位置づけになってきています。起きてほしくない災害であることは言うまでもありませんが、いざという時に途方に暮れて助けを求めている人たちのために専門知識を活かす場面に携わることができるということは、建築士という資格に伴う義務や使命といった犠牲的な思いよりも、むしろ熱く滲み出してくる資格に対する誇りのような思いを感じさせてくれる瞬間でもあると言えます。
 東日本大震災に続いて県北の栄村で発生した長野県北部地震に際しては、青年女性委員会をはじめとする多くの会員の真摯な協力をいただきました。発生直後の機敏な対応、応急危険度判定・住宅相談・罹災証明の発行と続く一連の支援活動に対する丁寧な対応は、住民や行政から暖かく受け入れられるものとなりました。最も心強い存在として映っていたのは、何をおいても身近な建築士だったのではないかと自負するところです。
 そうした活動の結果が、復興村営住宅の実施設計という業務につながっていきました。最初から目論んでいたものではありませんが、利害を顧みない純粋な熱意があったからこそ与えられた貴重な実践的社会貢献の機会であったと感じています。具体的な作業には並々ならぬ労力を要しましたが、31戸の住宅が無事に完成し、住民の明るい表情を見た時の爽やかな思いは筆舌に表しがたいものとなりました。
 ここに、長野県建築士会として初めて取り組んだ実施設計業務の記録をまとめることができるのは、関わった者の喜びであるとともに、建築士会としての重大な記録となるものです。役に立ってほしいという思いと、役に立ってほしくないという思いが交錯します。大きな地震が予測されているという状況もありますので、あらかじめ知っておきたい情報の一つとして活用していただくのも有益であろうという気がします。
 最後に、関係各位に対して、心より感謝を申し上げたいと思います。

(一社)長野県建築士会:「長野県北部地震災害支援活動の記録」2013年5月25日掲載

創立60周年と一般社団法人元年

 このたび、長野県建築士会が創立60周年を迎え、さらに又、一般社団法人長野県建築士会としての第一歩を踏み出すことができたことを、心よりうれしく思います。
 これまでの60年の歩みを簡単に回顧して見ますと、建築士法が施行された翌年の昭和27年1月20日、県内の建築士たちが長野市の長野工業高等学校に集まり、長野県建築士会の創立総会を開催したところから歴史が始まっています。日本建築士会連合会も、この年の夏に発足しています。
 その後、昭和34年に社団法人の認可を受け、当初500余名であった会員数は飛躍的に増加しました。昭和52年には長野県建築士会館の竣工祝賀会が挙行されています。昭和57年には作家の城山三郎氏を招いての記念講演も行われました。昭和58年には会員数が4900余名となり、長野県建築士会にとっての最大会員数を記録した年となりました。平成11年10月に長野市のビッグハットを主会場として開催された建築士会全国大会長野大会のことはまだ記憶に新しいのではないかと思います。
 そして平成25年に至り、創立60周年と一般社団法人への移行を同時に迎えることができました。通常総会と同日開催で記念式典が挙行され、式典に続く記念講演においては、現役の重要文化財である東京駅丸の内駅舎の復原プロジェクトの総指揮をとられた長野市出身の建築士である田原幸夫氏から、その経過や特徴についての興味深いお話を聞かせていただきました。
記念すべきこの年を迎えることができたのは、何よりもこれまでに在籍されたことのある全ての会員各位の長野県建築士会に対する熱い思いや活動の蓄積があったからこそだと思います。また、行政をはじめとした地域社会の皆様のご理解やご支援に対しても、心から御礼申し上げたいと思います。
 建築士としての交流と自己研鑽のために集まった仲間たちは、現時点で約3000名となっています。戦後の復興から始まり、高度経済成長とともに時代を駆け抜けてきた建築士の大集団は、いま成熟化からさらに人口減少へと転じつつある社会から求められる新たな要請を受け止めていかなければならなくなりました。創立50周年以後の10年間においても、建築士のモラルに関する問題や東日本大震災といった建築を取り巻く衝撃的な事態が発生しました。建築士は適切な業務遂行や責任を求められる一方で、被災時の復興支援活動のような主体的な社会貢献をも期待されています。まちづくりや環境などの問題についても、建築との関連が深まっています。一人の建築士ではできないことであっても、専門資格者集団として取り組んでいかなければならないことはたくさんありそうです。
 このたび実施された公益法人制度改革によって、長野県建築士会は、民法による社団法人から公益法人関連法に基づく一般社団法人に生まれかわりました。国の税制改革の一環としての法人制度改革は、建築士会の歴史の中で最も難しい問題の一つであったと思います。しかし最終的に、無事に移行できたことは、団体としての結束を示すものになったと思います。晴れがましい気持ちで、一般社団法人としての初年を喜び合いたいと思います。確固たる未来を築いていくことが、これまで築いてきた歴史に報いることになるのです。
 新しく誕生したばかりの一般社団法人長野県建築士会ですが、課題を抱えていることも事実です。不況や少子高齢化といった時流の中で、業務も資格者も減っていくことが予測されています。究極状態になる前に組織体制や効率的な運営について冷静に検討していくことは、事前対策であると同時に、一般社団法人長野県建築士会がさらに大きく飛躍していくための胎動ともいえるものだと思います。建築士会の基本的な使命は大きく変わるものではありませんが、時代のパラダイムの変化に伴って、活動の内容は変化していくと思われます。会員一人ひとりが、新しい建築士会の道を切り開いていかなくてはなりません。
 創立60周年記念を実施するに当たって、多くの方々にお世話になりました。最後になりましたが、ここに深く感謝の意を表します。会員一同さらなる建築士会発展のため邁進する所存ですので、引き続きよろしくお願いいたします。

(一社)長野県建築士会:「創立60周年記念誌」2013年5月25日掲載

平成24年度事業報告と平成25年度事業計画

平成24年度事業報告  新生長野県建築士会への準備を終えて
 平成24年12月19日、池田雄三副会長が急逝されました。長野県建築士会の発展のために多大な貢献をいただいた方でありました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
■法人移行完了
 昨年度の通常総会において、「一般社団法人」への移行について決議をしていただきました。その後、必要書類を整え申請手続きを進めたところ、平成25年3月22日に長野県知事より認可をいただくことができ、かねてからの計画通り、平成25年4月1日をもって「一般社団法人長野県建築士会」に移行することができました。
ここに至るまでの数年間を振り返ると、幾多の紆余曲折があったことが思い起こされますが、最終的に「解散しない・分裂しない」で移行することができたのは各支部・各会員の寛大なご理解によるものと思います。これからは「持続する」ことに加えて、一般社団法人として広範囲な事業に積極的に取り組んでいきたいと思います。
■組織改革
 法人移行に合わせて、いくつかの改革を実施することになりました。
最も大きなことは、会費の統一です。私たちは、法人の選択に先行して会計の統合を実施してきましたが、一連の議論の中で、長野県建築士会として会費は統一されるのが妥当であるとの意見が出され、理事会において決議されてきた経過があります。正確に言うと、連合会と本会の会費額はこれまで通りに据置き、支部の会費額を同額にするということです。様々な試算を経て、正会員の会費年額は24,000円(準会員は14,400円、高齢者会員は12,000円)とすることで決定されました。ただし、変化の大きい支部もあるため、過渡的な緩和策として平成25年度と26年度においては、22,000円とします。今年度の予算編成においては厳しい状況が残ると思われますが、収益事業などを積極的に企画していただきたいと思います。また予算配分についても、元会費額の相違による支部間の不均衡が出てしまいますが、徐々に解消されていくものと思いますのでご理解をお願いします。
 また、CPD制度の参加費用についても、上記の会費額に含めることになりました。言い換えると、会員はすべてCPD制度に参加するということになります。そもそもすべての建築士は継続的に学習していくことが必要であるという認識に基づいた制度であることや、連合会ではすでに全会員が参加することを決定しているという経過もありますので、会費統一にあわせて実行することにしたものです。ただし、これを制度上だけの形式的な変更としてはなりません。これを機に、CPD制度に積極的に参加していくことが大切です。徐々に社会的な評価をいただけるようになってきた経過もありますので、自己研鑽だけでなく業務拡大のためにも積極的にCPD制度に取り組んでいただきたいと思います。
 さらに、確認申請に伴う協力費の徴収についても、問題を抱えたまま長年の懸案となっていましたが、廃止することを確認させていただきました。他団体との関連もありますし、これまで徴収していた支部にとっては単純に収入減になるわけですが、重要な転換を成し遂げたことに理解を深めていただきたいと思います。
事務局経費についても、共有して負担していくことになりました。
■栄村震災復興村営住宅完成
 長野県北部地震による栄村復興村営住宅の実施設計について、平成24年度から青年女性委員会を中心に具体的作業に携わっていただきました。豪雪や条件変更に翻弄されての大変な状況でしたが、平成25年7月に入って建設工事が始められ、雪の季節になる前に完成しました。11月末の竣工式には長野県建築士会も参列させていただきました。地域住民の大きな期待に対して大きな責任を果たすことができ、胸をなでおろす思いです。
 今回のように、建築士会のボランティア活動が具体的設計業務に結びついたという事例は、これまでほとんどなかったと思います。長野県建築士会にとっても、参加してくれた青年女性委員各位にとっても、非常に貴重な実績や経験になったのではないかと思っています。連合会の「建築士」誌面(平成25年2月号)にも経過報告を掲載していただきましたので、全国の皆さんにも知っていただいたものと思います。
■長野県との建築物災害応援活動協力協定に基づく体制整備
 長野県と長野県建築士会は、平成24年度に建築物災害応援活動協力協定を締結するに至りました。従前は、被災時の応急危険度判定士の動員は県からの指示で行なわれていましたが、現状では建築士会がイニシャティブをとらなくてはなりません。そこで、これまでよりも被災時における迅速な対応を可能にするための体制を整備する必要があります。
 社会貢献委員会を中心にその作業やチェックを進めていただきつつあります。一人でも多くの方に応急危険度判定士の講習を受けていただきたいと思います。
■第11回長野県建築文化賞
 長野県建築文化賞の実施にあたり、審査委員長は内藤廣氏に依頼しました。忙しいのは承知の上でしたが、東日本大震災以後、氏のスケジュールが想像以上に多忙化してしまい、審査は予定通りには進みませんでした。それでもなんとか結果をまとめることができました。応募作品のレベルは確実に上がっているように感じられます。
 前回に引き続き会員外の応募も受け入れましたが、いつもに比べて応募数が少なかったのは、社会事情が反映された結果だろうと思われます。
■建築士フォーラム2012in安曇野
毎回開催地の特色を出しながら行なわれている建築士フォーラムは、中信ブロック安曇野支部の協力によって、安曇野市一帯で開催されました。安曇野はアルプスの山々を背景にしてのどかな田園が広がる懐かしい雰囲気の地で、それらと調和した建築や文化が形成されている素晴らしいところです。当日は数コースに分かれて見学していただき、安曇野支部の会員の活躍の一端をも知ることができました。また、地熱利用に関する講演も行われ、時節柄よい企画であったと思います。建築士にとっての学習の場であると共に、地域と建築士をつなぐ大切な機会でもあることを、改めて感じとりました。

平成25年度事業計画  一般社団法人としての第一歩
■創立60周年と一般社団法人のスタート
 昭和27年1月20日、長野市の長野工業高等学校において産声を上げた長野県建築士会は、創立60周年を迎えるに至りました。戦後の復興から高度経済成長を経て今日に至るまでの歴史の変遷を思い起こしただけでも感無量ですが、最大時会員数4900名余を数えたこの組織が、大変多くの先輩会員の熱意と努力に支えられて、強固な連帯のもとに様々な事業を展開し続けて来られたことに対して、私たちは大きな誇りと喜びを感じるものであります。この場を借りて諸先輩方に対し、深く感謝の意を表したいと思います。
 そして、この良き節目の年に古い法律による社団法人から、新しい法律に基づく「一般社団法人長野県建築士会」として生まれ変わり、記念すべき新たな第一歩を踏み出すこととなりました。このたびの法人移行は時代の要請とでも言うべきもので、私たちにとって内在的な動機付けではなかったかもしれません。しかし、最終的に、長野県建築士会の歩みにとって有益な経過や結果を得ることができたのではないかと思っています。
 新法人への移行に伴って、新しい定款が適用されることになりました。建築士会としての基本部分は変わりませんが、組織体制、諸会議の運営、権利と責任などの様々なことが変化していきます。評議員会はその役目を完了し、通常総会も各支部からの代議員による開催に変わりました。この先も組織運営に関してさらなる変化があることと思われます。重く積み重ねられた歴史を大切にしつつも、新生建築士会の未来のために、意識においても事業においても、時代にふさわしい建築士会に向かって進化・成長していくことを、すべての会員が共有していきたいと思います。
■活動の充実化
 私たちは、この法人移行を単なる名称変更のように受け止めてはなりません。折しも社会は、建築士に対して厳格な仕事と地域貢献を期待しています。今の私たちにとって最も重要なことは、建築士としていかに行動していくかということです。個人でできることもあると思いますし、業務として取り組むこともあると思います。しかし建築士会という名の資格者集団として社会の期待に応えていくことが最も重要だと思います。このことは、平成25年度の事業計画というにとどまらず、今後の長野県建築士会の重要な方向性となるものだと思いますので、継続して取り組んでいく必要があると思います。
 成熟化・少子高齢化といった社会変化の中で、業務環境はさらに厳しくなっていくと予想されます。そうした状況に屈することなく、真剣に社会に向き合っていきたいと思います。そのためには研鑽も親睦も大切なポテンシャルとなるはずです。
■新たな課題
 一般社団法人に移行する私たちにとって、すべての課題が解決したという状況ではありません。社会貢献を積極的に推進するためには、財政だけでなく組織そのものについても継続して見直しをしていく必要があります。組織運営検討特別委員会を発展的に改称して法人推進特別委員会とし、懸案事項について引き続き検討する場を維持していきます。
 また、にせ建築士が社会問題となっていますが、真の建築士として更なる技量向上を図らなければならない状況です。特に木造住宅の設計について図面作成や監理に不安を感じる実態もあるようなので、連合会で企画されている体系的な木造住宅設計セミナーを実施し、確実な技能を身につけていただきたいと考えています。
 CPD制度についても全会員が義務として参加するということになりました。繰り返しになりますが、建築士として必須のことは、だれであってもいつであっても、しっかりと学習していかなくてはなりません。講習会等に、積極的に参加していただくことを期待しています。

(一社)長野県建築士会:「第63回通常総会議案書」2013年5月25日

長野県北部地震復興村営住宅設計への取組み 長野県建築士会青年女性委員会を中心とした社会貢献活動

■地震直後の行動
 以前にも報告させていただきましたが、東日本大震災発生から24時間も経たない2011年3月12日午前3時59分に、長野県最北の豪雪地である栄村で震度6強の地震が発生しました。東北各地の被災報道を見て心を騒がせていた矢先に、不意を突くように身近な地で起きた大地震でした。東北ほど広範囲ではないもののかなり強い揺れで、人的被害は少なかったのですが、春を待ちこがれる寒村各地区の道路施設から農地、学校、一般住宅に至るまで甚大な被害を引き起こしました。
 行政と連絡を取り合って、地元最寄りの建築士がすぐに現地に向かい、その日のうちに応急危険度判定士の出動要請も始められました。最も揺れが激しかった地区では、避難所となるはずの公民館が倒壊したというショッキングな状況もありました。3日後には、村行政の依頼を受けて、建築士会の会員が分担して、村民の避難所となる全学校の被災状況を調査しました。栄村はその大半が山地で、集落は山間の斜面に点在するように形成されていますので、調査地にたどり着くだけでも相当の時間を要しますし、余震の心配も残る中で不安を感じる行動でしたが、夜遅くまで結果を整理して熱心にまとめをしてくれた姿が強く印象に残っています。一部の学校では、プールやグラウンドが使えなくなったり体育館の天井が落ちたりといった被害がありました。緊急事態ゆえの混乱した状態でしたが、機敏に対応してくれた建築士会の会員に頭が下がる思いでした。
 現地では、すぐに住宅の応急危険度判定が始まりました。建築士会の応急危険度判定士が大勢かけつけて、2mも積もった雪と格闘しながら一軒一軒調査しました。住宅相談に当たっては、相談会場で待機するのではなく、現地まで出かけて詳細に被災状況を見ながら丁寧に相談に応じました。罹災証明書の発行補助についても、引き続き現場をまわりました。高齢の住民が多いので、建築士はことさら頼もしい存在と思われたようです。
■復興住宅の設計
 建築士会の内部でも、さまざまな動きがありました。長野県との建築物災害応急活動協力協定が締結されたり、建築士会の非常時における災害対策本部体制を確認したりしました。青年女性委員会では、わが目でつぶさに被災状況を視察するべく、現地視察研修を実施しました。報道写真がいかに生々しいものであっても、現場で実際に見るリアルな印象や発見などは全く違うものであろうと思います。行動世代の建築士として何かできることはないのか、 復興の一助になりたいという気持ちが醸成されていったと思います。
 村行政では、プレファブの応急仮設住宅55戸を建設しましたが、自立再建が困難な人々が窮屈な耐乏生活を余儀なくされる仮設住宅から一日でも早く自宅に戻れるようにするため、また被災者の村外流出を抑え定住を維持促進するために本格的な復興住宅の整備を急いでいました。県行政が設置した栄村村営住宅整備検討会議に建築士会の会員も加わり、復興住宅の素案の提案をしていきました。
 自分たちの内に芽生えた建築専門資格者としての熱い思いに、行政や住民の思惑や建築士会の精力的な活動に対する評価が重なり合って、やがて建築士会が復興住宅の設計に参画するという願いが現実化するに至ったのです。
 栄村としての復興住宅整備の基本方針は、被災者が震災前に住んでいた付近に戻って暮らせるようにするということでした。結果として、村内8地区に分散して全31戸の住宅を建設することになりました。整備手法としては、栄村が長野県住宅供給公社に建設を依頼し、完成したものを栄村が買取るという形がとられました。豪雪寒冷地での建築ということで、おのずから雪対策・寒冷対策が求められ、加えて地元産の木材を活用するという条件でした。また、翌年の雪の季節が来る前に入居して落ち着いた生活に戻れるということも、建設スケジュール上の重要なポイントになっていました。
 建築士会としては、住宅供給公社に協力するという位置づけになりましたが、青年女性委員会を中心に精鋭部隊を急編成し、作業分担を決めて取り組みました。設計を始めた途端に折悪く大雪が降り、敷地状況調査もできないまま具体的な設計作業に突入することになってしまいました。また作業途中で、基本的な設計条件が変わってしまい、大きな手戻りが発生するなど、限られた時間のなかで悪戦苦闘しながらの作業となりました。作図に関する細かい調整のための打合せ、現地確認、住民説明、行政との打合せ、木材手配の連絡協議などが頻繁に行われ、休む間もないほどでした。関わった建築士は皆熱心に取り組んでくれましたが、諸事情により設計は予定通りには納まりませんでした。施工にかかってからは、手際よく工事が進められ、結果的に雪の季節を目前にして全住戸が完成し、無事竣工式を迎えることができました。
■建築士会の行く先
 建築士会として設計実務に取り組んだということは、いままでにない画期的な活動実績となりました。身近で起きた今回の災害は、建築士会に大きなインパクトを与えてくれました。災害復興支援という特殊な状況下で建築士会が設計したものができあがったという純粋な感動も得難いものでしたが、その行為が、その建物が、如何に社会から求められているものであるかということを、身をもって実感できたのはそれ以上に価値あることだったと思えます。設計作業の進め方や内容について反省すべき課題も挙げられていますが、付与された資格に伴う社会的責任の重さや、地域貢献への意思あるいは決意のようなものを自覚させてくれたマイルストーンと言うことができると思います。
建築概要
  特徴:自然落雪屋根(敷地や接道に合わせて切妻と片流を使分け・雪割設置)
      栄村産杉材及び唐松材使用(根羽村産杉材+大桑村産桧材+川上村産唐松材使用棟が一棟あり)
      性能評価公営住宅 構造の安定 等級2
                   温熱環境 等級4
                   高齢者等への配慮 等級3 など
  構造:木造在来工法2階建  1棟1戸タイプが5棟、1棟2戸タイプが13棟(合計18棟31戸) 
  床面積:78.83㎡/戸
  設計期間:平成23年11月~平成24年6月
  工事期間:平成24年6月~平成24年11月
 図1*栄村震災復興村営住宅1階平面図(1棟2戸タイプ)

 図2*栄村震災復興村営住宅2階平面図(1棟2戸タイプ)

 写真1*栄村震災復興村営住宅(1棟2戸タイプ・切妻屋根)

 写真2*栄村震災復興村営住宅(1棟2戸タイプ・片流屋根)

(社)日本建築士会連合会:「建築士」2013年2月1日掲載

創設60周年そして新法人元年

 皆さま、新年あけましておめでとうございます。
 混沌とした政治経済情勢が続いていますが、この年が皆さまにとって希望に満ちた明るい年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
 東日本大震災及び長野県北部地震が起きてから、もうすぐ2年が経とうとしています。この間に、私たちは、栄村の震災復興支援に協力する機会を与えられました。被災直後の応急危険度判定から住宅相談や罹災証明書の発行補助などの取組みに対して大きな評価をいただきました。そして昨年においては、震災復興村営住宅の早期建設に向けて、実施設計に当たるという建築士会にとってかつてない事業に携わることができました。限られた時間の中で、青年女性委員会を中心に実務部隊を急編成し、分担して作業をしてもらいました。思わぬ変更が続出して、参加してくれた方々には多大な迷惑をおかけした面もあったかと思いますが、年末に全31戸が無事竣工し、雪の降る前に入居するという目標を果たすことができました。公共の仕事特有の難しさを学ぶと共に、地域の人々の期待に応えることの喜びをも実感することができたのではないかと思います。建築士会に対する社会からの期待と、今後進んでいく道筋の上に広がる大きな可能性とを同時に感じました。
 大震災以後、日本の建築のあり方が大きく変化しつつあるということを感じている方々も多いと思います。被災地の復興も大きな問題ですが、私たちが身の周りで取組む建築においても、新たに示されてくる省エネ対策などが急激にレベルアップしています。新しい情報を正確に受け止めていくように心がけていただきたいと思います。
 さて、昨年の総会において、私たちは一般社団法人への移行を決議しました。移行に必要な申請手続きは進められており、今年の4月から一般社団法人に移行することができる状況となってきました。今年は長野県建築士会創設 60周年に当たる年でもあり、一般社団法人初年度でもあります。大きな節目の年となりますので、来たる5月25日(土)の通常総会の開催に合わせて記念式典と祝賀会を実施したいと思います。現時点では詳細未定ですが、この機会を分かち合いたいと思っていますので、ぜひご参加いただきたいと思います。総会の開催形式もこれまでと変更されますが、ご理解をお願いしたいと思います。
 組織の基盤確立も重要なテーマであることに変わりありません。引き続き、皆さまといっしょに考えていきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2013年1月1日掲載

長野県建築士会が県と建築物災害応急活動協力協定を締結 長野県における震災への事前対応と事後対応

■長野県建築士会における災害対応
 長野県の県歌「信濃の国」に歌われているように、長野県は日本の屋根と呼ばれるような高い山々の連なりとその谷間を流れ下っていく河川とが地形的な特徴となっています。海とは無縁ですが、急峻な山谷に囲まれて暮らしてきた信州人は、自然の驚異と恩恵を肌で感じています。立ちはだかる連峰連山が盾になり台風の直撃といった事例は少ないように思いますが、地震による地滑りや土石流、豪雨による河川の氾濫などが県内各地で度々発生してきたことは、私自身の記憶にも残っています。
 昭和時代後期から唱えられてきた東海大地震の発生予測に対する備えとして、長野県でも平成8年より応急危険度判定士が、平成14年より木造住宅耐震診断士が誕生し、長野県建築士会・長野県建築士事務所協会・長野県建築物防災協会が行政に協力する形で、住宅の耐震診断及び耐震補強工事の促進に取り組んできました。県内の応急危険度判定士数は、現時点で1341人(内建築士会会員848人、63.2%)になっています。
長野県建築士会としては、応急危険度判定後に行われる住宅相談等への対応を想定し、支部別応急危険度判定士連絡網と災害対応マニュアルから構成される「緊急災害時における長野県建築士会の対応」を平成18年より整備し、毎年更新しています。東日本大震災後には、県内での災害を想定した「大規模災害等緊急時の連絡体制」を定め、情報収集に務めつつ、役員及び発生地直近の副会長等が前線指揮に当たることを確認し合いました。
 また、長野県建築士会(15支部)には、応急危険度判定士委員会を設置している支部もあります。あるいは支部域内の行政庁との間で、「災害時の応急措置などの協力に関する協定」を結んでいる支部もあります。平成17年12月には、静岡県に近い飯伊(はんい)支部で飯田市と県内初めての協定調印が行われました。地震が発生した際に避難所となる公共施設等について行政の指示がなくても建築士会が自主的に応急危険度判定を実施するという内容でした。その後いくつかの支部においても同様の協定が調印されました。
 隣接の新潟県で発生した中越地震(平成16年10月23日)・中越沖地震(平成19年7月16日)の際には、長野県建築士会会員はじめ多くの建築関係者が被災地にかけつけ、応急危険度判定や住宅相談に携わってきました。地震による被災建築物に対する対応について、生々しい状況を直接的に経験してきたことは、建築士でなければできない得難い蓄積であり、その後の長野県建築士会にとって大きな自信となり、今や建築士による社会貢献活動の中心的なテーマになりつつあるように思います。
■長野県と建築物災害応急活動協力協定を締結
 私たちは、東日本大震災の経験を通して、何らかのパニックの際に誰も想定していなかった状況が起こり得るということを学びました。完璧な対策を構築しても、実効性のある判断や行動が伴わなければ無意味であるということも思い知らされました。そうした認識の中から、長野県と長野県建築士会の間で「災害時における建築物災害応急活動に関する協定」を結ぶという協議が急速に進みました。
 調印は2012年1月18日に長野県庁災害対策本部室で行なわれ、県担当者及び建築士会役員が陪席する中で、署名を交わしました。協定の主な内容は、被災建築物の応急危険度判定の実施及びその他災害の応急活動について、長野県建築士会は県から口頭または電話で依頼される応急危険度判定士の参集を取りまとめることとなっています。そのために事前に県から交付される応急危険度判定士名簿によって連絡網を整備しておくことが求められています。署名後に長野県知事と私がそれぞれ挨拶をし、調印式は終了しました。
 写真1*建築物災害応急活動協力協定調印式 正面右が阿部守一知事、左が筆者(長野県庁にて)
 この様子はテレビニュースで放映され、翌日の新聞にも掲載されました。マスコミを通して報道されることによって、改めて緊張を覚えました。今後私たちが主体的に応急危険度判定士の出動を取り仕切らなければならないので、迅速且つ正確な情報収集に務め、適切な指示を伝えていかなければなりません。過去の地震の経験を活かし、地形や交通事情などにも配慮した臨戦態勢を再構築することが大切になっています。
■長野県北部地震への対応
 あまりにも巨大であった東日本大震災の影に隠れたようになっていますが、長野県内でもその翌日未明に震度6強の地震が発生していました。新潟県に接する県内最北端の栄村で発生した地震は、「長野県北部地震」と呼ばれています。人的被害は少なかったものの、住家被害については栄村内で全壊33棟、半壊169棟、一部損壊486棟となっています。避難施設である学校体育館の天井が落ちたり、地域の公民館が倒壊するというショッキングな事態も発生しました(被害状況については栄村ホームページ参照)。
 この時点では先述の長野県との協定はありませんでしたが、長野県建築士会の会員は、公共建築物被災状況現地調査、住宅の応急危険度判定、住宅相談、罹災証明書発行の補助など多岐に渡る支援活動に精力的に取り組んでくれました。栄村は県内有数の豪雪地域として有名なところで、春先にも関わらずまだ雪の残る山谷を越えて一軒一軒訪ね歩いての住宅相談は住民に強い安心感を与え、建築士会への信頼をいただいたようでした。その後も会員から募った見舞金を栄村に届けたり、被害状況や復興状況の視察も行いました。
 写真2*震災御見舞金を手渡す 左が島田茂樹栄村長、右が筆者(栄村役場にて)
 2011年6月に松本市で開催された関東甲信越建築士会ブロック会青年建築士協議会長野大会においては、防災をテーマにした分科会を急設し、東日本大震災及び長野県北部地震に関する情報を共有しました。
 そして、栄村産木材を多用した豪雪対応型の復興村営住宅31戸(18棟)の建設に向けた実施設計業務を長野県建築士会青年女性委員会のメンバーが中心となって取り組むに至りました。こうした取り組みはこれまでなかったもので、地域貢献活動が実務に結びつくという新局面になりました。次の冬までに入居が完了するように進められる予定です。
 写真3*長野県建築士会青年女性委員会による栄村復興村営住宅建設予定地視察(栄村にて)
 私たちは、これまでの経過を通して、震災等の非常時における建築士への期待が想像以上に高いものであることを感じ取ってきました。建築士には、専門家としての使命感や理念と同時に、力強い行動力も強く求められています。平常の地道で真摯な建築士会活動を通して、建築士がさらに地域に密着した存在となっていかなければならないということを改めて痛切に感じています。

(社)日本建築士会連合会:「建築士」2012年8月1日掲載

建築士会の構造改革

 法人制度改革に沿った長野県建築士会の新しい一歩を踏み出すため、長きに渡って検討してきましたが、自らの実状を冷静に見極め、現段階においては一般社団法人へ移行することを決断しました。さっそく移行申請手続きを進めていくことにしていますが、一方で、建築士に求められる社会的使命を体現するために将来的に公益社団法人へ移行することを目指して活動していこう、ということも確認しあいました。法人移行問題において、選択の決断がゴールではありません。これから新しい道を歩み始めるにあたり、法人運営の持続が大きな課題となってきます。
■組織の構造改革
 これまでも繰り返しお伝えしてきたように、現状の財務状況のままでは、一般社団法人の維持ですら厳しい現実が顕在化してきました。早い時期に団体組織としての基盤を立て直していかなければならない、ということについて理解を深めていただいているものと思っています。そのためには、一人ひとりが活動に対する意識や体質を変えていかなければならないということも言ってきたつもりです。その場しのぎ的な応急処置だけでは、長期的な維持体制の確立は難しくなっています。私たちは今、組織の体制や財務に関わる構造そのものをしっかりと見直して、新生長野県建築士会にふさわしく変えていかなければならないのではないかと考えています。
■活動の構造改革
 栄村の震災復興に対して、多くの皆さんに協力していただきました。並行して長野県と建築物災害応急活動協力協定の調印も交わしました。私たちは、災害時において住民や行政から大きな期待を受けていることを感じています。災害時の緊急活動体制などについて、万全の体制を整えなければなりません。また平時の活動についても、社会との接点を広げていくような意識が大切になってきています。
 将来的に公益社団法人を目指すということにした以上、共益的なことよりも公益的な活動を拡大していかなければならない、ということを真摯に受け止めていただきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2012年6月1日掲載

総会挨拶

 本日の総会は、将来のいつの日か長野県建築士会の歴史を振り返った際に、創立以来の大切な意味を持つ総会であったとして記されていることだろうと思います。と言いますのは、法人改革に対して、解散せず存続していこう、長野県は一つにまとまって進んでいこうということで、数年間かけて検討してきました法人移行の選択について、いよいよ結論を出し、新しい道へ踏み出そうとしているということです。
 昨年の総会において、法人移行の結論については一年間先送りしたいということでお願いしてきた経過があるわけですが、その後、それまでに検討してきた方向付けやシミュレーションなどについて再検証してきました。その結果、新しく生まれ変わる長野県建築士会は、一般社団法人として歩んでいこうということにまとまりました。本日は、それに伴って全面改正となる定款も含めて議案とさせていただきます。
 ただ一方で、国民の財産を築き、時代の文化をつくるという社会的に重要な使命や責任を持つ資格者団体として、業務を超越した社会貢献にも積極的に取り組んでいきたいという強い思いを踏まえ、いつか状況が整った時点で、公益社団法人としてさらに生まれ変わることを目指していこうというビジョンを付け加えました。このビジョンは、不確定な内容であるため、議決事項にできません。変則的なことですが、法人移行の議案とあわせてご覧いただきたいと思います。簡単に要点の説明をさせていただきます。
 法人選択の判断根拠については二つの理由に集約できます。証紙の販売・会館の運営といった事情もあって、法律が求めている公益事業比率が満たされないことが、直接的な理由です。また、公益社団法人になって公益活動中心の活動を展開していくことによる組織や活動内容の変更などについて、まだ全会員の共有意識になっていないということが不安要素で、少し時間をかけなければならないだろうという判断です。
 課題については、財務状況の立て直し及び公益事業比率確保のための組織構造の根本的な改革ができるかということになります。基盤を確実化することが重要です。役員や理事だけではなく、会員一人ひとりが真剣に取り組んでいかなければ到達できません。
 次に、震災の復興支援活動についてふれておきたいと思います。
 昨年3月の長野県北部地震の復興支援について、大変多くの会員の皆様からご協力をいただきました。気持ちのこもったお見舞金もいただき、役場までお届けすることができました。特に青年女性委員会の皆さんには精力的に取り組んでいただきました。この場を借りて、厚くお礼申し上げます。震災復興村営住宅の設計については、地域貢献活動が業務に結びついたという、かつてない局面を迎えることとなりました。関わっていただいた方々には、むしろご迷惑をおかけした部分が多々あると思いますが、私たちにとっては貴重な実績であり、今後の活動のモデルにもなっていると思います。
 長野県知事と調印を交わしました建築物災害応急活動協力協定について、一部の会員とか社会貢献委員会の活動とかいうことではありません。できるだけ多くの方々に応急危険度判定士の資格を取得していただき、緊急活動にご協力いただきたいと思います。
 先日、被災地の一つである陸前高田市に行ってきましたが、そこで思ったことは、災害の起きる前、つまり平常の設計や施工において災害に強い建築やまちをつくっていくことが重要であるということでした。今後の社会貢献活動のヒントになるのではないかと感じています。
新しい年度は、新生建築士会への助走の年になります。求められている新しい体制、新しい活動に対して、柔軟に受け止めていただき、将来の長野県建築士会が、ますますステップアップしていくことができるように共に頑張っていきたいと思います。業務環境も厳しくなり、高齢化社会が拡大するといった情況が続きますが、よろしくお願いいたします。
 最後になりましたが、今回の総会から、会計統合によって、決算書の内容がかなり変わりました。わかりにくい印象ですが、よろしくお願いいたします。また、定款の全面改正によって、来年の総会から、代議員の出席という形で開催させていただくことになります。定款改正の要点についてもご理解をいただきたいと思います。

(社)長野県建築士会:第62回通常総会2012年5月26日

新生長野県建築士会の将来ビジョン 「公益社団法人」を目指して

はじめに
 長野県建築士会は、平成19年度から5年に渡り、公益法人制度改革に伴う新法人への移行問題について検討してきました。検討が始まった頃には、まだ新しい法案は施行されておらず、詳細な内容についても確定的な情報は多くなかったと記憶しています。今日までずっと「社団法人」(新法案施行後は暫定的に「特例民法法人」)を掲げて、真摯に活動してきた私たちにとって、組織の具体的な事業内容についてではなく、組織の性格や今後の方向付けを問われるという経験は初めてのものであり、議論や会議を重ねるなかで、大きな岐路に立たされているということを実感してきました。その後、平成20年12月1日に公益法人制度改革関連法案が施行されたのを受けて、最終期限である平成25年11月30日までの移行完了に照準を合わせた検討が進められ、先行して本会と支部の会計統合などを実施してきましたが、いよいよ最終的な移行選択の決断をしなければならない段階になりました。
 この問題に費やされた5年の間、長野県建築士会に対する約3000名の会員の深く熱い想いや、15支部の熱心な取り組みをひしひしと感じながらも、公益法人制度改革法案が定めている諸条件との相克に、悩みとまどい続けてきました。新法人への移行選択という最終目標に向けた議論の波紋は、長野県建築士会の将来について、真剣に考え語り合う機会の広がりとなっていきました。結果として、理想や夢ばかりではなく、いままで表面化してこなかった財政面における大変厳しい現実・会員間の意識の差・支部毎の基盤の相違といった難しい問題が次々と浮き彫りになってきました。これらは、新法人への移行問題とは直接的に関係のない枝葉の問題のように見えるかもしれません。しかし、そこには何一つ無駄になるようなものはなかったと思っています。なぜなら、それは、長野県建築士会にとって、初めて訪れた非常に有意義な集中議論・意識共有の場であったということができるからです。
ここでは、これまでに検討してきたことの要点を集大成的に整理しながら、公益法人制度改革に伴って誕生する“新生長野県建築士会”の“将来ビジョン”をまとめておきたいと思います。長野県建築士会が、今後、より強固に団結して歩んでいくための指針にしていただくことを強く望みます。

第1節 基本的な状況
 このたびの公益法人制度改革は、明治29年の民法制定以来、約1世紀ぶりとなる大きな改革で、官の立場ではできにくい公益を民の立場から補完することが狙いとされていますが、実際には、今日まで一元的に管理してこなかった曖昧な許可基準を明快にして、優遇税制を悪用した脱税などの不正行為や天下りを防止しつつ、新たな税管理体制を整えるといったことも含まれているように思われます。
私たちのような既存の社団法人に対しては、自らの意志による選択の自由が与えられましたが、その選択はそれほど単純なことではありませんでした。
■建築士会の使命
 私たちは、公益法人制度改革を機に重ねてきた議論や研究の中で、“建築士の使命は社会に尽くすことにある”と改めて認識してきました。そう考える背景には、そもそも「建築」というものが、単に建築主の必要に応じた物理的な資産であったり経済的な行為であったりというだけではなく、人間の生活に希望やうるおいや幸福をもたらし、さらに歴史や文化の一端を築いているという時空を超越した壮大な認識があるのだろうと思います。私たちは、日々淡々と業務に取り組んでいますが、そうした崇高な「建築」の世界に関わっていることに強い自負を感じています。
 その「建築」に関わる専門資格者団体が、社会に貢献できる活動をしたいと強く意識するのは、“ありたい姿”であり“あるべき姿”であると言えるでしょう。一部の不誠実な建築士による反社会的行為によって失った信頼は、東日本大震災などの災害復興支援に対する精力的な協力活動などによって回復しつつありますが、今後は、そうした緊急事態に限らず、さらに広い分野での「社会貢献」活動にも意欲的に取り組んでいくべきだと思います。また、周囲からもそうした期待が高まってくるものと予想されます。身のまわりの地域や住民との接点は原点的な意味において大切にしていかなければならないものだと思いますが、県レベル・国レベル・国際(地球)レベルに向けた視野と活動も、建築士や建築士会にとっての「社会貢献」の対象となっていることも認識しておかなければなりません。
■公益法人制度改革が求めているもの
 改正された公益法人制度では、「公益社団法人」の認定に際して、総支出金額に対する公益目的事業比率が50%以上であり続けることを条件としています。言い換えれば、公益目的事業比率が50%以上であり続けることができる社団法人組織だけが「公益社団法人」の認定を受けられるということになります。50%という数字を超えることよりも、むしろそれを持続できる組織であるということによって、税制優遇措置が悪用されることを防止しようとしているのだろうと考えられます。この条件を下回った場合には、法律に基づいて公益認定が取り消され、強制的に「一般社団法人」へ移行させられることになり、所有している残余財産を同種の公益社団法人又は国若しくは地方公共団体に贈与しなければならないというリスクをはらんでいます。したがって、長野県建築士会が存続する限りにおいて、公益目的事業比率を50%以上確保したまま走り続けることができるという確証は、移行選択にあたって非常に重要な判断基準となります。
 「一般社団法人」が比較的簡単に設立認可を受けられ、税制面での特典も少ないという側面から、「一般社団法人」より「公益社団法人」の方が上位の格付けにあるという解釈が流布され、移行判断に混乱が生じたことがありました。しかし、これは誤った解釈であったことがわかり、それぞれに性格が異なっているという理解が正しいとされています。一般的には、寄付金などで運営され不特定多数者を対象にした事業を行っている組織は「公益社団(財団)法人」に、会員の会費で運営されている“共益”的な組織は「一般社団(財団)法人」に移行するのが妥当であるとされています。その団体の存在目的や事業内容にふさわしいユニフォームを着ることが重要であるとも言われています。
 また、団体内部における支部の存在や活動は認められていますが、その収支会計については“一つの団体”としてまとめられていることが必要です。これは、今後の税制管理体制を集約し合理化していくための方策だろうと考えられます。
■長野県建築士会の特徴と現状
 長野県建築士会は、建築士法が制定されて間もない昭和27年に創立されました。それから60年に渡り、専門資格者団体として、会員個人の資質向上としての「研鑽」や仲間づくりとしての「交流」といった“共益”活動を主軸に、数々の事業を展開してきました。有資格者の長野県建築士会への加入率は全国的に見ても高い数字を示しており、県内全域にネットワークを持つ大規模な団体組織の一つとして位置づけられるまでになっています。近年は、対社会的な“公益”活動としての「社会貢献」にも取り組んでいますが、会員としての優先的メリットを求める意識が強いという現実があることも事実だと思います。
 また、長野県の地理的特性を反映して、各支部の自立意識が強いところが長野県固有の特徴のようですが、県内全域に及ぶ交流・連合会との連携も活発で、会員にとって欠くことのできない精神的な拠り所になっているものと考えられます。それぞれの地域で、行政機関や他団体とも密接且つ良好な協力関係を保っており、専門資格者団体としての社会的役割や責任を果たしています。
 会員数は、創立から約30年後の昭和58年に4900人余に至りましたが、それ以後は減少しています。近年は、成長社会から充足社会への転換に伴う建設需要の縮小化、建築士の高齢化、新規資格取得者数の鈍化などによって、全国においても減少傾向は著しくなっています。会員増強は日本建築士会連合会にとっても大きな課題となっていますが、なかなか成果に結びつかないのが現状です。
 財務状況は、会員減少に伴って、組織としての基盤であり運営の主財源である会費収入が減少しており、講習会を始めとした各種事業収入や補助金収入なども不安定で、厳しい運営が続いています。会計統合をしてみてわかったことは、本会ばかりではなく、各支部においてもその内情においては厳しい財務状況に置かれているという実態でした。長野県建築士会館の運営(耐震診断はすでに完了しており、耐震補強工事が必要となっています)や証紙等販売などの収益事業をこれからも継続していかなくてはならないのは、このような厳しい財務状況に起因しています。収益事業の金額が圧倒的に大きいため、現時点での公益事業比率は25~30%となっています。

第2節 基本姿勢
 次に、移行問題を検討する際と結論をまとめる際の基本姿勢について、改めて確認しておきたいと思います。
■検討に対する基本姿勢
 新法人への移行問題は、通常の事業内容に関する課題とは異質の重要なことであり、一部の役員だけで考えれば事足りるという内容ではありません。基本的な事項は組織運営検討特別委員会及び移行推進会議で研究してもらうことにしていましたが、できるだけ多くの会員に、将来の長野県建築士会の活動に関する問題として、それぞれが正面から向き合ってほしいということを呼びかけてきました。それは、将来において、長野県建築士会が自らの意志で活動していくことができるようになる基礎を培うことに結びついたと思っています。
■判断に対する基本姿勢
 検討の経過においてどのような道筋を進むかはわかりませんでしたが、最終的な局面における判断にあたって堅持したい基本姿勢について、初期の段階から繰り返し述べてきました。組織体制の改変や会計統合などの諸手続きの検討にあたってもこの基本姿勢から外れた議論は避けなければならないと考えてきました。今後も検討しなければならない内容が控えていますが、その際においても下記の姿勢だけは崩さないで進めていただきたいと考えています。
  ・解散しない―選択しなければ解散となってしまうため、どちらかの法人に確実に移行する
  ・分裂しない―長野県全域が一つの団体としてまとまっていくという方針のもとに会計も統合していく
  ・持続する ―移行することだけが目的ではなく、その後も行き詰ることなく活動を継続する

第3節 新法人への移行選択
 上記の諸事情を踏まえ、移行選択判断について総括していきたいと思います。
 改めて振り返ってみると、私たちが費やした5年間の前半期における議論は、精神論的なニュアンスの強いものであったと思います。つまり、「建築士会の使命」を高くかざし、「公益社団法人」に移行するために求められている条件に合致するように自身の現実を整備しようとする研究だったと言っても良いだろうと思います。
 最終的な移行までの限られた時間の中で結論を導くために、最終段階に入ってからは、現実論的なニュアンスの議論に至りました。先述したように、“長野県建築士会が、会員の精神的拠り所として、さらには「社会貢献」活動の基盤として、永続的に持続していく”という基本姿勢を崩すことはできませんから、現実と理想の一致を将来に渡って持続し続けていくことができるかという模索は非常に重要なものでした。様々な局面からシミュレーションを繰り返した結果、定められた条件整備と会員の意識共有のためには、容易に予測できない期間が必要だろうということが確認されました。
■現実的な選択
 現時点での長野県建築士会にとっては「一般社団法人」に生まれ変わるのが現実的であるというのが、最終的に導かれた結論です。
そこには、大きく分けて二つの理由があります。
 一つは、会員の会費で運営されているという基本状況はともかくとしても、長野県建築士会全体における現在の事業構成や収益事業への依存体質のままでは、法制の定めた50%以上の公益事業比率という条件の領域に入ることができないという事実です。改正された公益法人制度が定めている条件は、「建築士会の使命」意識とは全く別次元のものとなっています。私たちは、公益活動に取り組んでいる団体であれば、あるいは公益活動に対して積極的な意欲を持っている団体であれば、「公益社団法人」になるのが当然であると理解してきたと思います。しかし、公益法人制度改革法案は、公益目的事業に対する使命感の有無ではなく、あくまでも数的基準によってのみ区分けをしているのです。
 もう一つは、公益事業や「社会貢献」活動に対する会員間あるいは支部間の意識の共有には、今後それなりの時間(年数)を要する可能性があるだろうという認識です。「公益社団法人」への移行にあたっては、上記の数的基準条件を満たすこと以上に、不特定多数者や非会員である建築士をも対象とした公益活動といった類の外に対して開放的な価値観を共有していくことが大切だと思われます。60年間に渡って築かれてきた長野県建築士会の体質は「研鑽」と「交流」でした。それは長野県建築士会にとって良い意味での持ち味を形づくってきたと思われますが、「社会貢献」という視点から見れば閉鎖的な共益的な体質となってしまっているところも感じられます。徐々に開放的な事業を展開し始めてはいるものの、今後より広く一般社会に向けた「社会貢献」を根付かせて、“新生長野県建築士会”としての新しい体質を形成していくためには、会員一人ひとりが意識を変えるべく理解を深めていかなくてはなりませんし、社会の時勢を見ていく必要もあるだろうと思います。

第4節 将来ビジョン
 私たちは、法制が定めている条件と組織の現実に沿って「一般社団法人」へ移行しますが、それでもなお、心のどこかで「建築士会の使命」を強く感じています。社会に貢献したいという建築士たちの思いと、一般にはわかりづらい専門的な知識を活かして社会に貢献してほしいという地域の期待とが交差したところに、私たちの新たな展望や活動の可能性というものがあるのだと思います。公益活動や「社会貢献」事業に取り組みたいと考えている会員もいますし、すでに積極的に取り組んでいる支部もあります。そうした思いを優先して、当然「公益社団法人」に移行するべきだと考えれば、「一般社団法人」への移行は後ろ向きの不本意な結果であり、卑屈な思いすら漂ってしまいそうです。しかし、今はまだ状況が熟していないという理解が、最も的確な表現なのではないでしょうか。
 長野県建築士会が「一般社団法人」に移行することによって、私たちが望む公益目的事業に取り組むことができなくなるということではありません。法制の条件とは関係なく、「建築士会の使命」に従って積極的に活動することについて、何の問題もありません。むしろ、“自由に”「社会貢献」に取り組んでいくことができると考えれば、胸を張って歩んでいくことができます。そして、そうした活動の蓄積の先に「建築士の使命」を具体化していくのだという将来ビジョンを掲げたいと思います。全会員が一致団結して、“新生長野県建築士会の将来ビジョン”を共有していきましょう。今後、社会からきちんと評価されるような内容の公益目的事業を展開できるか否かが、このビジョンの実現を左右することになると思います。
■「公益社団法人」を目指して
 私たちは今、胸を張って「一般社団法人」に移行し、自信を持って精一杯の公益活動や「社会貢献」事業を展開していきたいと思います。その歩みの時間を、新しい体質の構築に向けた準備のための時間にしていきたいと思います。そしていつの日か、「建築士会の使命」を社会に向けて、さらに明確に表現するための「公益社団法人」へ移行したいと思います。
 社会に向けた公益の理念と会員としての共益の価値観との相克意識が、しばらくの間、続いていくのは仕方のない状況だと思います。公益の理念が社会的弱者救済のような感覚であってはなりませんが、建築士会の社会貢献が会員一人ひとりにとってアドヴァンテージになる日が来るように、今は静かに期待したいと思います。
 一部の会員だけが先走っても、足並みが乱れるだけに過ぎません。また一部の会員が無理解であっても、同じ結果になります。建築士は専攻建築士の分類に見られるように幅広い業務分野で活躍していますが、建築士会の会員としては全員が平等の立場です。全会員が横一線に並んで、歩調をそろえて、たとえ少しずつであっても、ビジョン向かって歩んでいくことが重要だと思います。
■課題
 この“ビジョン”の実現への道が、決して平坦ではないことは容易に察せられると思います。漫然と歩んでいても、「公益社団法人」が向こうからやってきてくれるわけではありません。「公益社団法人」に向かっていくためには、明確な意志を持って、改善しなければならないところがたくさんあります。
 最も重要で且つ困難な課題は、繰り返し述べてきたように、一人ひとりの会員が公益に対する視野を開き、集団としてその価値観を共有していくことです。どれだけの時間が必要であるのか、現時点で推し量ることはできませんが、今からスタートするつもりで動き始めましょう。
 それから、事業内容を根本的に見直すことも必須の条件です。長野県建築士会館の運営という事業を抱えている限り、今の状況は変わらないと思います。また、証紙等の販売についても、それに代わる新しい財源を確保しつつ手放していくことを考えなければ、変化は起きません。これらを超える大型の公益事業を計画していくという選択肢もあろうかと思いますが、継続できる内容でなければなりません。
 さらに、慢性的に逼迫した財務状況を改善し、健全な運営ができる団体組織になることも最低限必要なことだと思います。今はまだ法人組織として一人前とは言えない状況にあるのです。基本的に会費だけで運営できることが最良ですが、経費削減についても避けて通れない事態になっています。支部のあり方についても抜本的な検討を迫られていることに気付き始めています。会費の使途に対する意識も開放し、広い分野や地域での社会貢献に充てられるようになりたいと思います。
 どれをとっても容易ではありません。いつまでも、過去や現状にこだわるのではなく、未来の長野県建築士会の生き様をイメージしてほしいと思います。

おわりに
 ここにまとめた“新生長野県建築士会の将来ビジョン”は、会員の声を元に、会長の立場で整理させていただいたものです。今日まで熱心に検討を重ねてくださった組織運営検討特別委員会、顧問・役員・理事をはじめ、全ての会員に心から御礼を申し上げます。そして、これからも共にビジョンの実現に向けて取り組むことを誓い合いたいと思います。

(社)長野県建築士会:「第62回通常総会議案書」2012年5月26日

平成23年度事業報告と平成24年度事業計画

平成23年度事業報告  過去と未来の橋渡しの一年
■会計統合化の実施
 公益法人制度改革の一環として、いずれの法人に移行するにしても会計の統合化が不可欠であるということについて、幾度となく説明をさせていただきました。そのための具体的な方策が組織運営検討特別委員会を中心に検討され、予定通り年度当初から実施することができました。これまでは一つの社団法人の内部であっても支部独立の会計方式を採ってきましたが、今年度からは本会と支部を一括して経理処理をするということに変わりました。いよいよ公益法人制度改革への第一歩を踏み出したと言うことができます。
 物事の急激な変化に対する不安や戸惑いはどんな場合にも付き物だと思います。支部の運営や活動が制約されるのではないかという懸念も強かったと思いますが、会計統合化はあくまでも事務手続きに関することであって、活動を抑制するものではありません。できるだけ早く新しい状況に慣れていただくことを、改めてお願いしておきたいと思います。
 結果的に、支部ごとの会計処理の実態もわかってきましたので、今後の財政健全化に向けて調整や検討が必要だと思われます。
■新法人への移行選択
 公益法人制度改革の核心である新法人への移行選択については、検討期間を順延して詳細な調査や研究を続けてきました。その経過においては、理想論やメリット論や現実論など様々な視点から多岐に渡る見解が出され、時間を要したものの内容的には有意義であったと思います。最終的には、現在の実力相応と堅実な将来状況予測の中で判断を下さざるを得ませんでした。本総会の議案として、『一般社団法人への移行』と改正した定款を上程することとなりました。悩みながらの判断でしたが、全会員が一致し、長野県が一体となって進んでいくことができるように理解と協力をお願いいたします。
 なお、議案に加えて『公益社団法人をめざそう』という将来ビジョン(別掲)を掲げることとしました。これは安易に断定することができない課題ですので議案とは別扱いとしますが、全会員に共有しておいてほしい重要な位置づけにあるものとして理解していただきたいと思います。その内容は、社会に向かって働きかけていこうとする私たち建築士の職能に基づく使命感や責任感に従って掲げる理想となっていますが、その道筋は生易しいものではないようにも思います。法律が定めている諸条件を満たすためには、現在の私たちの中にある意識・体質さらには組織の仕組みを大幅に変えていかなくてはならないのは明らかです。過去の歴史や現在の居心地の良さは、私たちが築いてきた良き伝統ではありますが、いつまでもそれに固執していては何も変わりません。ビジョンの実現という大目標を見失わず常に意識していかなければ、新生長野県建築士会を築いていくことはできません。一人ひとりの立場から見れば、意に沿わない部分があることは十分承知していますが、私たちは今こそ大同団結して将来に向かっていく覚悟をしなくてはならないのです。
■震災復興への協力
 東日本大震災直後に県北の栄村で発生した長野県北部地震の応急対応について、多くの会員の方々に協力をいただきました。その後の復興支援については、青年女性委員会の皆さんが積極的に取り組んでくれました。現地視察にも大勢参加し、東北の現状及び復興住宅の視察にも出かけていただきました。また、多くの皆さんから協力いただいた義援金も栄村にお届けいたしました。栄村からは大変大きな評価をいただくに至りました。
 その後の経緯の中で、復興村営住宅の実施設計について、委員会を中心に具体的作業に携わることになりました。例年にない豪雪に見舞われた栄村で、復興住宅の完成を心待ちにしながら仮設住宅での生活を余儀なくされている地元住民の期待に応えるべく、建築士の本領を活かした貴重な社会貢献ができたと思っています。
■長野県と建築物災害応援活動協力協定の締結
 東日本大震災は、多くの教訓を与えてくれました。地震に加えて津波や放射能被害などが発生したこともあって、文明と生活・都市と地方・まちと防災・家づくりと安全等々、現代社会があまり深く考えてこなかった国家基盤に関する問題を一気に露呈しました。
 長野県においても東海地震などの可能性に備えて、耐震診断や応急危険度判定などに取り組んできていますが、いざという時に機能しなければ意味がありません。すでに、いくつかの支部では域内市町村と震災時の協力協定を締結してきた経緯がありますが、このたび、長野県との災害応援活動協力協定を締結するに至りました。応急危険度判定士の連絡ネットワークはすでにできていますが、不測の災害に対してさらに万全の体制を整備していかなくてはなりません。建築士にとって、社会からの要請に応える重要な機会となりますので、会員一同の協力をお願いしたいと思います。
■関ブロ青年連絡協議会長野大会
 東日本大震災によって全国大会大阪大会が中止されるといった事態を受けて、青年建築士連絡協議会長野大会も開催が危ぶまれましたが、“集まって絆を確認し合うことが復興につながる”という判断で、6月に松本市において無事に開催することができました。むしろ例年以上に大勢の方々が参加してくださり、内容や運営を含めて、立派に所期の目的を果たせたものと思います。関係各位に深く感謝したいと思います。
 また、この大会をきっかけに東京理科大学小布施まちづくり研究所との交流も始まり、小布施まちづくりシンポジウムのステージで発表をする機会もありました。対外的な接触が刺激的な展開となっていく可能性を実感しました。
■建築士フォーラム2011in松代
 今年度の建築士フォーラムは、北信ブロック更級支部の協力によって、長野市松代で開催されました。松代は真田時代の名残をとどめる落ち着いた雰囲気の地で、貴重な歴史遺産が豊富にあります。当日は悪天候にも関わらず、大勢の方々が町なかを歩いてくださり大いに楽しんでくださいました。一般の方々の参加もあり、地域と建築士を結ぶ大切な機会になりつつあることを感じとることができました。

平成24年度事業計画  新生長野県建築士会に向けて
■新法人への準備と組織の見直し
 昨年度は、関係各位の尽力と会員一同の理解によって、懸案であった新法人への移行選択について結論を出していただき、新法人に向けての定款改正も検討していただきました。これから移行申請手続きに取り掛かり、平成25年4月1日に新生長野県建築士会がスタートできるように進めていきたいと考えています。
 定款改正にあたっての大きな変更点は、総会開催における代議員制の導入と評議員会の廃止です。全員参加型の総会では成立要件を満たすことが難しいという実態を踏まえ、代議員参加型の総会に変えていきます。これはある意味で会員の権利を制約することになりますが、今後の建築士会運営を円滑に推進するためですので、理解をいただきたいと思います。来年の総会から実施することになります。また評議員会の廃止は、新しい法人法に沿った処置ということになります。
 私たちは、本総会において『公益社団法人を目指そう』という将来ビジョンを掲げました。これを実現するためには、公益社団法人にふさわしい事業活動や財政支出を意識していかなくてはなりません。より正確に言うと、意識を変えていかなければならないということになります。支部毎に異なる会計処理判断は、公益シフト型にしていきたいと思いますし、それに伴って会費の統一化も早期実現に向けて検討を進めたいと思います。
 財務基盤の改善については、従前から言ってきた通りですが、いよいよ急を要する課題となってきています。会費の統一に加えて、支部組織運営体制の根本的な見直しは回避できないと感じています。会計統合が今後の建築士会財政の再建となるように検討していきたいと思っています。
■災害応援活動協力体制の再構築
 長野県北部地震の対応を通して、建築士会あるいは建築士という存在がいざという時に非常に心強い存在であるということについて、自他ともに認識されたことと思われます。その理由は、私たちが中越地震や中越沖地震等の経験を活かして、迅速且つきめ細かい対応ができたということであろうと思います。
 昨年、長野県と締結した災害応援活動協力協定は、建築の専門家として、改めて災害への備えの心構えを確認する機会となりました。災害はいつどこで発生するか予測がつきません。一年経った今でも、依然として各地で地震が続いているような実情もあります。いざという時に、実質的に稼働できる万全で有効な体制を構築しておかなければ無意味だということを強く実感しています。応急危険度判定士を軸とした緊急時の支援活動は会員に限定されるものではありませんが、建築士である限りにおいて重要な責任のひとつであるという意識を持って、積極的に取り組んでいただきたいと思います。応急危険度判定士の増員も課題となっていますので、協力をお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「第62回通常総会議案書」2012年5月26日

建築士会の社会貢献活動

 昨年は誰ひとり予想だにしなかった地震と放射能による災害によって、忘れがたい一年となりました。戦災以来の深く大きな傷跡を残した年であったと思いますが、新しく迎えたこの年が希望にあふれた明るい年になることを心より祈念します。
 東日本大震災直後、長野県最北部の栄村においても大きな地震が発生し、公共建築物をはじめ多くの住宅などにおいて被害が発生しました。長野県建築士会では、地元県内で発生した地震ということで、応急危険度判定から住宅相談や罹災証明書発行に至るまで、さらに避難施設である学校等の被災状況調査にも即座に対応し、被災者や行政に対して全面的に協力させていただきました。余震が続く危険な状況下でしたが、中越地震などの支援経験を活かし、積雪や山奥地といった悪条件を乗り越えて精力的に活動してきたことに対し、大きな社会的評価をいただいています。
 かつて建築士は、社会的信頼を失ったことがありました。今建築士は、被災地支援活動を通して社会的信頼を回復し、自信を取り戻すことができたと言えるように思います。緊急事態に限らず、平常的に社会と密接に結び付いた活動に取り組むステップの年にしたいと思います。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2012年1月1日掲載

新しい道

 謹んで新年のお喜びを申し上げます。
 昨年春に起きた大地震や放射能の被害がいまだに解決しないでいることを思うと、そう明るい気分になれないという方々もおられると思います。特に、栄村の震災復興に対して、多くの会員はじめ建築士が労をいとわず機敏に動いてくださったことに対し御礼申し上げます。こうした人知を超えた厳しい現実を目の当たりにして、普段の当たり前の生活の中にあるさりげない幸福といったものの有難さを改めてかみしめてしまいます。新しい年が、皆様にとって少しでも明るい年となりますよう心から祈念いたします。
 昨年は、公益法人改革に伴って実施しなければならない会計の統合を行いました。事務手続きが変わるということは、各支部の最前線にいる事務局職員の皆さんにとっても、責任者である支部長さんにとっても、細かいことが目立って大変だと思います。変化に戸惑いは付き物だと思いますが、本会を預かっている立場にいる者も、より良い方法を求めて手探りで取り組んでいるような事態ですので、お互いに協力し合って、知恵を出し合ってこの過渡期を乗り切っていきたいと思います。
 いよいよ今年の総会では、懸案の新法人への移行について、最終的な選択を決定しなければなりません。私の呼びかけに対して、会員一人ひとりが長野県建築士会の将来の歩みについて一生懸命考えてくれたことに対し、深く感謝申し上げます。大勢いるがゆえに、簡単に一致をみることは難しいと思いますが、まずは解散を避け新しい法人に移行すること・長野県がひとつにまとまっていくことが最優先だと考えていただきたいと思います。この難局に対して、協調して“新生長野県建築士会”を持続していきましょう。
 総会では、新しい定款についても承認していただくことになります。定款は新しい法人における運営の基盤となるものです。最上位の公益法人制度改革関連法案に従って、いろいろな変化を受け入れざるを得ないのは必定ですが、長野建築士会にふさわしい仕組みを考えていきたいと考えているところです。
 それに連なる具体的な問題も控えています。財務の健全化という大きな問題については、会費・事業・経費について、支部という垣根を越えて長野県全体を見渡す視点で、議論をしていただきたいと思っています。過去や現在の状況に固執しているのではなく、将来の長野県建築士会のあるべき姿について語り合うという姿勢を忘れないでいただきたいと思います。新法人への移行の最終局面に向けて、ますます一致団結が必要になっています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2012年1月1日掲載

総会挨拶

■地震に対して
 約2ヶ月前の3月11日に東日本大震災、翌日には栄村を中心に長野県北部地震が発生し、日本はおろか世界中が震撼する悲惨な事態となっています。原子力発電所の被害拡大については、簡単に手が出せませんが、地震や津波や火災による被害への対応は、私たちが建築士という資格を与えられることと同時に負っている責務だと思います。
 栄村の被災支援については、緊急の出動、余震や土砂崩れなどの危険が続く中での作業にも関わらず、連日、大変多くの会員に応急危険度判定・住宅相談・罹災証明の発行申請などの具体的な活動をしていただきました。建築士が良い社会的評価をいただけなかった時期もありましたが、この資格を有することによって、建築士会という専門資格者集団組織を介して、被災地の皆さんの役にたつことができたという事実は、自負してもよいと思います。この後も、復興に向けて、専門家として協力できる場面があると思いますので、引き続き精力的に取り組んでいただければありがたいと思っています。
■会計統合化と法人の選択
 公益法人制度改革への対応の一環として、会計の統合化の検討を進めてきました。統合の仕組み、組織体制の調整、会員への周知といった難題をかかえ、各支部に対する説明会や臨時総会なども順次お願いしてきましたが、限られた時間の中で柔軟に対応をしていただきました。この四月から統合を実施しています。
 法人の選択についても検討しましたが、今回は見送りすることになりました。
 全国では、公益社団法人を選択した県が14、一般社団法人を選択した県が21、未定が12となっています。連合会は、臨時総会で新定款の案を承認して、手続きを進めています。
 会計統合を先行したことによって、厳しい財務状況が見えてきました。最も重要なことは、長野県建築士会を持続していくことです。どちらの法人になるにしろ、組織の基盤である財務状況を再構築することが急務です。
■事業について
 「建築士フォーラム2010in上田」をはじめ、第10回記念長野県建築文化賞、信州木造塾、景観写真コンテスト、エココンテスト、各種講習会など多くの事業を実施することができました。
 6月17日~18日には、「関東甲信越建築士会ブロック会青年建築士連絡協議会長野大会」が松本市の「まつもと市民芸術館」・「ホテルブエナビスタ」で開催されます。震災被害を乗り越えて集う各県の会員をお迎えする場となります。開催して良かったと言える大会となるように、サポートしていただきたいと思います。
 今年の「建築士フォーラム」は、長野市の松代地区で開催する予定です。専攻建築士制度も、更新のタイミングになりますので、対象の方々は継続の手続きをしていただきたいと思います。いろいろな活動に一生懸命取り組んでいくのが、建築士会の基本のスタイルだと思います。震災に伴う建築界全体の不安定な状況はまだ続くと思いますが、「がんばろう建築士」・「がんばろう建築士会」という気持ちで、前を向いて!

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2011年5月20日掲載

予防と支援

■いま、私たちがすべきことは
 恐いもの番付は、「地震~雷~火事~親父」から「放射能~地震~津波~火事」に変わった。
 日本の都市・建築政策の基準は、災害のたびに対症療法的に強化されてきたが、私たちが根本的に考え直さなければならないのは、この国に相応しい「住み方の知恵」であろう。
 私たちは文明や技術によって災害を克服できると信じてきたが、どんなに都市化や情報化が進んでも、安全な場所に家を建て生活するということを忘れてはならないことを改めて認識させられた。
 非常事態の発生や拡大を「予防するまちづくり」を進めたい。
■地域の在り方について
 このたびは長野県北部でも地震が起こり、局所的ながら被災した。突然の災害にも関わらず、長野県建築士会の会員は応急危険度判定・復旧対策調査・住宅相談・罹災証明発行等のために迅速に行動してくれた。
 いざ非常事態が発生した際には、あらゆる面での救援が必要となる。避難生活から完全復興に向けて、地域内の結束と支援体制の整備が求められる。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2011年5月20日掲載

平成22年度事業報告と平成23年度事業計画

平成22年度 事業報告
■会計統合化への調整
 私たちは、いち早く公益法人制度改革に対応するための検討に取りかかり、その後も非常に熱心に議論を重ねてきました。改革の概要の周知や「建築士会のあり方」の検討に引き続いて、いずれの法人を選択するにしろ実現しなければならないとされている会計統合化について先行して検討を進めてきました。
 会計統合化というのは、言い換えれば、本会と支部の経理事務を本会が一括して実施するということです。支部の活動や支出が本会の管理下に置かれるかのような誤解もあったのかもしれませんが、会計統合化によって活動が窮屈になるということではありません。
 全支部への概要説明や支部臨時総会が過密な日程の中で実施され、新年度からの会計統合化の実行に向けて準備が進められました。
 一方で、会計統合化によって明らかになってきた問題もあります。本会と支部を合せた会計の全体像が見えるようになったことにより、本会も支部も財務状況が想像以上に厳しい実態にあるという事実を改めて認識するに至りました。これは、当会の運営基盤に関わる重大な問題であり、財務体質の改善は優先度の高い課題となってきました。
 法人選択についても議論をしてきましたが、理想を求める声と現実を受け止めようとする声の両方があると感じています。今の私たちは、財務基盤整備についての課題を受け止め、最終的な法人選択についてはもう少し時間をかけるべきだと思われます。全会員の理解が必要だと思われますので、今後、支部・ブロックで議論を重ねていただきたいと思います。
■東日本大震災への対応
 年度末を目前にして発生した東日本大震災は、地震と津波によって町全体が壊滅するという未曾有の大規模被害をもたらしました。更に原子力発電所の被災に伴って、パニック状況が続いています。今後、本格的な復興に向けて建築士会としての対応を求められた際には精一杯の取り組みをしていきたいと思います。
 また県北で発生した長野県北部地震に対しては、行政からの要請等もあり、栄村などへ応急危険度判定作業・災害復旧調査・住宅相談・罹災証明書発行のための調査等の活動に対応しました。危険が続く状態の中、大勢の会員に機敏に出動していただき、建築士会の力を発揮できたと思っています。
■重点事業
1 会計統合化への準備
  組織運営検討特別委員会・新法人移行推進会議・理事会が連携して、会計統合化の具体的な仕組みや組織・各種規程などの見直しを検討し、最終的に支部の理解を求めることに集中してきました。これまで支部がそれぞれに雇用してきた事務局職員についても、本会の雇用に切り替わりますので、関連する他団体との連絡調整も実施してきました。
  今までにない大きな切替えになりますので、万全の姿勢で臨んでいますが、細かい手続きなどにおいて実施しながら調整していく要素もあると思われますので、ご理解をお願いします。    
2 建築士フォーラム2010 IN上田
  従来の会員大会を公益型事業へ転換することになり、初めて公式に会員外の参加を募った「建築士フォーラム」が、東信ブロック上小支部の力強い協力によって、上田市街とその近郊で開催されました。開催地の歴史・文化・産業などの特徴を活かした特別な体験ができるイベントとなっていることが印象的でした。一般の方々も大勢参加してくださり、今後への期待が高まるものとなりました。
3 第10回長野県建築文化賞
  二年に一度開催してきた建築文化賞も今回で10回を数えることとなりました。節目の開催を記念して、今回は特別に公益型事業と位置づけ、会員外からも応募を募ることにしました。審査委員長は、東利恵氏にお願いしました。結果的に会員外の応募も見られ、充実した審査となりました。
  不景気な時代情勢を反映してか応募数はやや少なめでしたが、今後も公開募集にしていってもよいのではないかと思われます。
4 関東甲信越建築士会ブロック会青年建築士協議会長野大会への準備
  来年度に松本市で開催される青年建築士協議会に向けて準備が始っています。実行委員会が立ち上がり、開催概要もほぼ固まってきました。青年・女性建築士の集いでは、長野大会に向けて意気を上げました。
 今年度は茨城県水戸市で開催されたので、次回開催地としてアピールするために大勢の会員が参加しました。 
5 CPD制度、専攻建築士制度の推進
  連合会が公益社団法人を目指すことに伴い、両制度がオープン化され、会員外の参加も見られるようになりました。また施工管理技士の参加もありましたが、対応面でのとまどいもあるようですので、次年度に向けて積極的な対応を検討しています。
6 各種講習会
  義務講習である「定期講習」、かつての指定講習に代わる「すべての建築士のための総合研修」は、建築士会の責務として位置づけられる重要な講習会ですが、期待した結果にはなりませんでした。講習の意義が十分理解されていない可能性もあるのではないかと思われますので、周知や募集に力を入れていく必要がありそうです。

平成23年度事業計画
■財務の健全化と法人選択
 年度当初より、会計統合化が実行されています。公益法人制度改革において、会計統合化は新法人のスタートラインに立つために必要な組織体制の整備のようなものと考えられます。ですから、経理処理の手続きと組織全体としての整合を図るための組織体制については変更せざるをえませんが、支部の活動自体は今まで通りに継続していくことができます。しばらくの間、とまどいがあるのではないかと思いますが、本会と支部の連携がうまくいくように心がけてほしいと思っています。
 一方、法人選択についても結論を導きたいと考えてきましたが、会計統合化の検討を進める中で財務問題への対応が急務となったことは、昨年度の事業報告で先述したとおりです。建築士としての結束と、社会に対する集団的公益活動の母体としての建築士会が存続していくために、一日も早い健全化が必要です。その対策はいくつか考えられますが、具体的に実現できるかどうかが大変重要な鍵になると思われます。
 こうした状況ですので、法人選択についてはもう少し時間をかけて、総合的な状況を見ながら判断したいと考えます。組織の体制を整えながら、私たちにとって理想の建築士会とはどんなものなのか、どんな活動に取り組みたいのかといった基本姿勢についても、同時に考えていきたいと思います。
■震災復興への協力
 地震・津波・火災・放射能が重なった東日本大震災によって、史上最悪の事態が発生しています。東北・関東地方のみならず、当県も、翌日未明に起こった長野県北部地震によって、被災県の一つになっている状況です。被災した栄村などに対する震災直後の緊急対応は、社会的に非常に有意義な活動でありました。しかし、今後の本格的な復興にはかなり長い時間を要すると思われます。当会としては、復旧から長期的な視野に立った村の再生まで、地元とともに取り組んでいきたいと思います。
 いつどこで起こるかわからない自然災害などに対して、建築士としてできる限り幅広い対応をしていきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「第61回通常総会議案書」2011年5月14日掲載

平成23年4月1日より会計統合がスタート

 かねてより周到に検討を重ねてまいりました本会と支部の会計統合について、新年度早々より実施に入ります。事前準備として、支部説明会や支部臨時総会の開催、予算協議などをあわただしく行なってまいりましたが、おかげさまで無事にスタートできる状況になっております。今までになかった全く新しい建築士会の形ですが、本会と支部の連携がうまくいくように皆様のご理解とご協力をお願いしたいと思います。
 会計統合化というのは、言い換えれば、本会と支部の経理を集中して行なうということです。諸手続きは変わりますが、建築士会としての活動に変わりはありません。より広い視野に立った活動に取り組んでいきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2011年4月4日掲載

東日本大震災への緊急対応

■地震発生
 去る3月11日(金)の午後に地震が発生しました。ちょうど三役・委員長合同会議を開催している最中でした。ゆっくりとした横揺れが長く続いたので、携帯電話からネット情報を見ると、宮城県北部で震度6と出ていました。その直後、これが阪神淡路大震災をしのぐ非常に大規模な地震であることがわかり、強いショックを受けました。岩手県、宮城県、福島県、茨城県の海岸線を中心に、地震・津波・火災によって海岸付近の小さな町がまるごと壊滅してしまうというかつて誰も経験したことのない無惨な状況に、ただただ呆然とするばかりです。加えて福島県にある原子力発電所が被害を受けたことの影響によって、被災地域以外の広い範囲でもパニック状態が続いています。死亡者数、行方不明者数も日に日に増加しているような状況で、報道やネットを見ていてもいたたまれない気持ちにさせられます。
 また翌朝未明にも新潟県に接する栄村で大きな地震が発生し、津波こそないものの住宅や公共施設の損壊などの被害が出ています。
 改まって、被災された地域の皆様に対し、心よりお見舞いと哀悼の意を表したいと存じます。一日も早く平常を取り戻すことができますように、お祈り申し上げます。これほどの状況にあってもなお粘り強く生きようとしている被災地の方々の様子を見ていると、建築士だからこそできる協力をしたいと心の底から思わされます。
■長野県建築士会の対応
 このたびは、3月12日(土)の栄村の地震によって、長野県も被災地になりました。東北関東各県とは状況や程度の差はありますが、住民は生活に対して不安を抱えています。
 地震直後から、行政の要請による応急危険度判定の作業が行なわれ、現地に近い建築士会会員を中心に対応が行なわれました。
 避難場所となる学校施設なども被災しており、3月15日(火)には復旧対策調査も実施されました。まだ雪が深く、余震などによる危険も続く中、突然の要請にも関わらず約25名の会員が迅速に集合して現地に出向いてくださり、頭の下がる思いでした。
 3月25日(金)からは、新聞やテレビでも報じられたように、「被災住宅相談チーム」を編成して、村内全住宅の調査及び復興プランの相談のために、一週間に渡り延100人の会員を現地に派遣しています(長野県建設労働組合連合会と協同体制にて実施)。
■連合会・関東ブロックの対応建築士会の現実
 関東ブロック各県も被害や影響がありましたが、特に茨城県は大変な事態になっているようです。関東ブロックとしては、急遽東北被災県の建築士会に対して見舞金300万円を拠出することとしましたが、連合会が各ブロックからの見舞金を取りまとめてお渡しするということになりました。見舞金とは別に、自由意志による義捐金も各県の判断で実施することになりましたので、長野県としても義捐金を呼びかけていきたいと思います。本格的な復興は少し先のことになると思いますが、その際には惜しまず協力していきたいと思います。
 8月に予定していた全国大会大阪大会は中止することとなりました(鎮魂イベントとして別の形で実行するようになると思われます)。茨城県の全国大会(来年)予定会場も被災して使用できないとのことで、今後の検討課題となりました。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2011年3月28日掲載

法人の選択の前に解決しなければならない問題

■財務状況の悪化
 法人制度改革に伴う会計統合をすることになり、本会と支部の会計データを集計してみて気がついた事実があります。それは、長野県建築士会の財務の悪化の実態が、かなり深刻だということです。将来的に厳しくなることは予想していましたが、現時点においても重症だと思います。
 今までは、本会と支部の会計が別々だったこと、決算書が支出超過(赤字)にならないように調整(収入と支出を合わせる等)されていた等の事情で、表立って大きな問題になることはありませんでした。担当者は、繰越金や基金・貯金などの蓄えを流用しながら、なんとかと帳尻を合わせるということに腐心していたというのが内々の事情なのでしょう。また、支出の費目をやりくりしてきたというようなことも実態をわかりにくくしてきたのだと思います。
 今後収入が減少することについての予想はすでに示した通りですので、今のままの体質や運営方法を続けていれば、本会も支部も、間もなくその蓄えを使い果たしてしまうのは間違いありません。そのときには、もうどうしようもない事態となってしまうのです。
 私たちは法人の選択決定に先立って会計統合の検討を進めてきました。その理由はどちらの法人を選択するにしても実現しなければならない会計統合について検討する中で新法人の方向性が見えてくるのではないか、他の団体等の動きを見たいというようなことでした。結果的に、選択の前にこうした実態がわかってきたことは良かったと考えられます。
■どちらの法人のなるにしても解決しなければならない問題
 私たちは、この事実を重く受け止めるべきです。これは、新しい法人に移行するということ以前の論点であり、この事態を解決しなければ、長野県建築士会は破綻せざるを得ないということになります。
 いま私たちの実力は、法人制度改革のスタートラインよりもずっと手前の位置に立っていると言ってもよいと思います。公益社団法人になるにしろ、一般社団法人になるにしろ、財務の健全回復は最優先の緊急課題として急浮上してきました。
 冷静に考えて、この問題を解決しなければ、一般社団法人にすらなれないという気がします。晴れて公益社団法人になったとしても、間もなく長野県建築士会が消滅してしまってはどうにもなりません。これまで、法人の選択について、考えられる基準に沿って議論を進めてきましたが、財務問題によって、状況が急転してしまったという印象です。
■財務改善への対策
 財務回復の対策としては、当たり前のことですが、収入を増やし支出を抑えるしかありません。現実的に考えて、具体的に収入を増やすには会員増強か会費値上げしかなく、支出を抑えるには経費の削減しかありません。
 会員増強は常に私たちの課題ですが、少子高齢化、建設ニーズの減少などを考えれば過度の期待はできないと思います。
 会費値上げはこれまでにも実施されてきましたが、いつもそれに伴って会員の減少を引き起こしていました。今後会費への依存度が高くなれば金額的にも大幅にならざるを得ませんが、会費として許容される上限はどれくらいなのでしょうか。プライドを持って高額の会費を納めてくれる会員だけでも残れば良いという意見もあったかと思いますが、建築士会は本来幅広い会員層で成り立っている団体であることを忘れてはなりません。
 支出状況のうち建築士会としての活動費・委員会費は極めて僅かとなっています。裏を返せば、長野県建築士会は、維持のための固定費の比率が高すぎるということになります。財務の建て直しを推進するには、ここに着目していくしかないように思います。
 各支部においては、長野県全体を見渡した総体的な実情が正しく認識されていないのではないでしょうか。長野県建築士会が存続していくために、各支部及びブロックで、「固定費の削減」等について話し合っていただきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2011年3月5日掲載

検証と決断の条件

■建築士会の理想
 私たちの先輩方は、建築士会の設立にあたって、新しい法律や資格の下に嬉々として集まり、「生まれたばかりのこの資格に誇りを持って、結束して向上に努め、社会に認められる立派な存在になろう!」と誓いあったのではないかと思います。
 この大きな目標は、時代が移ろっても変わらない永遠のテーマかもしれません。今、法人の選択にあたって、この目標への強い決意を忘れてはならないと思っています。
■検証
 しかし、法人の選択という重要な決断を、理想や目標だけで決するのはあまりにも単純で軽率です。判断に必要と思われるいくつかの基準は既に示してきた通りですが、最も重視したいと考えてきた公益活動への取り組み意識が浸透しているのかは若干不明です。
 最終的な判断をするにあたって、自分自身の足元の現実の客観的な再確認は当然必要な手順だと言えます。これまでも会費額のシミュレーション等はしてきましたが、全体の会計状況や展望が見えてきた状態でトータルに実力を検証してみる必要があると考えます。
■建築士会の現実
 私たちが今ここで冷静に検証しなければならないチェックポイントは、財政面における会勢の現状と先行き見通しです。本会の会計実態はそもそも厳しいというのが現実ですし、会計統合をすれば余裕ができるというものではないということも、この際認識しておいていただきたいと思います。今後収入額が減少していきそうだということは以前から予測していましたが、具体的な少子高齢化や不景気等による会員の減少数、協力費の廃止方針、社会全般における業務総量の低下に伴う証紙販売等の手数料の減少、他団体の経済状況悪化による事務委託費の減少等々の状況が少しずつはっきりしてきました。一方、何かが増加する見込みや気配は今のところありません。このままでは、財政が破綻することになり、建築士会存亡の危機ということになってしまいます。
■法人の選択決断の条件
 財政の悪化は、新法人の運営に影響を及ぼすことになります。収入額が減少しつつ固定費が変わらないということになると、本来の目的である活動のために充てられる費用が必然的に減少するということになるからです。特に公益社団法人になった場合には要求される公益比率50%を維持できるか不安になるという事態に至るかもしれません。
 一般社団法人を選択するにしても存続に必要な財政の健全化に務めなくてはなりませんが、公益社団法人を選択するとなれば、財政の健全化に加えて公益比率の確保は何が何でも死守しなければならない必須条件ということになります。そのための対策としては、会員の増強、会費の値上げ、固定経費の削減ということが考えられます。これらの対策が実現可能か、さらに効果が確実なのかが、判断に際しての鍵になると思われます。実現するためには、会員の皆さんがこの厳しい事態を理解して受け入れていけるかが問われることになります。建築士会を存続させるため、さらに新法人として歩み続けていくために、過去最大の決意と決断をしていかなくてはなりません。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2011年2月10日掲載

選択の時

 謹んで新年のお喜びを申し上げます。皆様には、お健やかにお過ごしのことと思います。再び景気が良くなることなどなさそうだと半ば諦めたように思ってしまう今日この頃ですが、この新しい年も皆様にとって堅実な年となりますよう心より祈念申し上げます。
 私たちは昨年、支部の実態調査・今後の建築士会のあり方・そして会計統合の骨組み等について着実に検討を重ねてきました。支部組織を持つ団体にとって、法人選択と会計統合は法人制度改革に関わる不可避の課題となっていますが、財政状況の建て直しもかなり緊急度の高い問題であることがわかってきました。私たちは法人選択については少し様子を見ながら検討することとし、選択に関わらず実行しなければならない会計統合の検討を先行するという進め方をしてきました。会計統合によって支部の意思で使える予算がなくなるというようなイメージが強いのかもしれませんが、もう少しわかりやすく言い換えると、これまで別々だった支部会計を本会で一元的に取り扱う(一法人一帳簿化)ということですので、支部活動自体に制約を与えるものではありません。ただ、建築士会には社会貢献という新たな使命を与えられていることを踏まえ、支部においてもこれまでより外に向けた事業を心がけていくことを頭に入れておく必要はあると思います。建築士及び建築士会の前進と発展のために、より意欲的に活動していただきたいと思います。
 今年は引き続いて、公益社団法人か一般社団法人かの選択をしていかなくてはなりません。あまり構えすぎる必要もないのかもしれませんが、建築士会の将来のために重要な決断であることは事実です。私としては、移行後の法人の持続について自信と責任を持てるように、私たちの現実の状況を踏まえて慎重且つ柔軟な姿勢で検討していかなければならないだろうと思っています。また、どちらの選択をしても異論や反論が出されることも予想できますが、これまでずっと言い続けてきたように、長野県建築士会は何としても一つにまとまって進みたいと強く思っていますので、ご理解をお願いしたいと思います。いよいよ正念場の年となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2011年1月1日掲載

団体長に聞く(アンケート)

①阿部県政に対する提言・要望を教えて下さい
  →いつまで経っても先の見えない経済情勢が続き、生きる意欲すら減退していくような重い雰囲気におおわれていますが、県政においては前向きな政策によって、県民が生き甲斐や働き甲斐を実感できる社会をつくりあげてほしいと思います。建設業を含む様々な産業において後継者がいない状況などを見ると、若い世代の人たちが自身の人生や将来に希望を持つことのできる生活環境・労働環境を整えていってほしいと痛切に思ってしまいます。活き活きと輝く郷土の未来のために、先見の明をもって取り組んでいただくことを期待しています。
②業界・団体の置かれている実情や課題と、その解決に向けて取り組んでいることを教えて下さい
  →建築士会の中で急浮上した課題というわけではありませんが、このところ気がかりなのは、業務状況の悪化・高齢化・建築士試験合格者の抑制などの理由によると考えられる会員数の漸減が続いており、それに伴って運営が非常に厳しくなっているということです。建築士の役割や建築士会の活動が拡大していくであろうと予測される時代の流れの中で、今後選択する新法人の運営にも影響する可能性があるのではないかと懸念しています。
③法人制度改革にどのように対応するのかを教えて下さい(移行を目指す法人を以下の選択肢から選んで下さい)
  →法人の選択は未定

 新法人への移行時期はいつ頃ですか。また、現在はどのような検討状況にありますか
  →目指す法人の選択は今年度内に方向付けしていきたいと考えています。選択の判断においては、形式論ではなく、会員の意識を確認しながら進めたいと思っています。
   現時点では、法人の選択に関わらず必須検討項目である本会と支部の会計統合(集中経理)について検討を進めており、同時にこれに伴う組織の変更等についても検討しています。 
④行政機関や一般社会への提言・要望を教えて下さい
  →将来展望を持ちにくい社会ではありますが、希望や夢を持って生きるために実現性のあるビジョンを描いていく必要があるのではないかと思っています。これまでのまちづくりは住民が行政に依存するということが多かったと思いますが、今では協調しあっていくことが必要だと思います。私たち建築士は社会貢献の一環としてその橋渡しをすることが可能だと考えていますので、身近な建築士に相談していただきたいと思います。
⑤平成23年度の団体長の抱負を教えて下さい
  →今年度から来年度にかけては、公益法人制度改革に伴う建築士会の組織環境の整備が最優先課題になるのだろうと思われます。まだまだ理解の温度差があるので様々な意見の調整は大変なことだと思いますが、今の組織が一つにまとまってより強固な絆を持ちながら持続していけることに思いを集中して進めていきたいと思います。

㈱新建新聞社:「新建新聞」2011年1月 日掲載

建築士会の本分

 新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 私たちはこれまで、真面目に仕事をすることが結果的に社会の役に立つと考えて、精一杯頑張ってきました。今の時代は、仕事ではないボランティア活動等を社会貢献と称しているように思います。建築士会の活動においても、資格者としての自己研鑽や仲間づくりだけではなく、こうしたオープンな活動が徐々に大きな比重を占めるようになってきたと感じています。このことは団体の性格をかなり変えさせるものとなるように思います。
 つまり建築士会(或いは建築士という職能)の本分というものが変わってきているのだろうという気がします。私たちの活動範囲は、建築の周辺に存在するまちづくり・環境・福祉等の広い範囲に広がっていく可能性があるのではないかと思います。ボランティアというのは単なる無償の労働奉仕という意味ではなく、仕事ではできない自己実現の場というのが本来の意義のはずです。団体としてのモチベーションを大切にしたいと思います。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2011年1月 日掲載

理想と現実の間

 新年あけましておめでとうございます。本年も希望に満ちた年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。いつまで経っても景気の好転は見られず、それぞれの建築士の置かれた業務状況には迫真の厳しさがありますが、専門資格者としての自己研鑽や仲間との交流親睦を大切にしながら、これから建築士会がどのように地域社会と深く関わっていったらよいかについて皆で考えていく年にしたいというのが今年の抱負です。
 昨年末に開催された評議員会において、私が次期会長候補者として引き続き推挙をいただきました。副会長及び監事候補者共々、当面の大きな課題と将来につながる布石について積極的に取り組んでいきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
■会計統合の実施に向けて
 昨年末に各支部に出向いて説明させていただいた会計統合について、理事会で承認されたのを受けて、来る4月から実施していくことになりました。これから年度末に向かって、急激にスケジュールが動き始めます。年始早々のお忙しい時期に大変申し訳ないと思いますが、今月から来月にかけて各支部で臨時総会を開催していただくことになっています。そこでは支部財産の名義変更(本会名義への切替)、支部規約の改正(基本的事項の統一化)、支部事務局の雇用終了(本会雇用への切替)等が議題として挙げられる予定です。会計統合への準備体制の第一歩となりますので、ご理解いただきたいと思います。
 支部と本会間での事務処理方法、事務局の配置、会費の統一化等は懸案事項として、今後引き続き検討していきたいと思います。
■法人の選択に向けて
 各支部に出向いた際、「公益的な活動に積極的に取り組んでいく気持ちがあるなら公益社団法人に、、、会員の権利を享受することが大切であれば一般社団法人に、、、」との問いかけをしてきました。もし公益社団法人を決断しようとする場合には、永続的に公益活動費が支出総額に対して過半を維持し続けていなければならないという条件があるので、それなりに覚悟は必要だと思っています。これは団体としてのあるべき心構えを確認する正統な質問で、建築士会が一丸となっていくために超えなければならない判断だと思います。
 一方、昨年から建築士事務所協会及び建築物防災協会との情報交換も行なっています。他団体も収支見通しが厳しくなっており、建築士会への事務委託料を減らしてもらうことになるかもしれないとの発言もありました。私たちも協力費は廃止の方向で検討しようとしていますし、証紙等の販売も激減してきています。賛助会員も減る可能性があります。このままでは、近い将来において会費外収入が大きく減る可能性が高く、経費を大幅に減らすか会費を大幅に値上げするかしかなくなりそうです。会員の減少に拍車がかかれば、公益活動費の比率確保が難しくなるかもしれません。この予想は会計統合によるものではなく、支部会計体制を続けていたとしても相当深刻な事態になっていくと思われます。
 このように不景気の影響を受けて急激に悪化していく現実を前にして、今後の選択をしていかなければならない状況に強い戸惑いを感じています。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2011年1月1日掲載

建築士会はどこへ行く

 11月後半に県内15支部を巡回し、会計統合の説明をし、法人選択の意見をお聞きしてきました。そこでの印象や課題を少し整理しておきたいと思います。
■会計統合と支部活動
 会計統合というのは、支部の会計を本会で集中的に処理するということですから、一極集中的な印象は拭い去れないのかもしれません。これまで通りの支部活動を続けられるのか不安だという気持ちも十分理解できます。しかし気持ちを切り替えて、集中経理方式になっても支部活動のモチベーションを下げずにやっていく方法を前向きに考えていく必要があると思っています。事業計画や予算の起案から実施に至るまで、会員がやりがいや達成感を感じられるような組織であることを失わないようにしたいと思います。
 ただ、会計統合の影で見えにくくなっている問題があります。それは、今後の収入減事態に伴って、組織維持に翻弄され支部活動費がかなり圧迫されることになるだろうということです。むしろそういったことが、支部活動に対するブレーキになったり公益事業比率の低下になったりしないことをひそかに願っています。
■法人選択と検討事項
 今後の事業の中で、非会員建築士をも対象にしていくことが要求されています。このことによって、会員としてのメリットがなくなると思われているかもしれませんが、会計統合の問題と同様に、プラス思考で事態に向き合っていかなければならないと思います。
 法人選択に伴う検討事項を改めて整理しておきますので、意見をお聞かせください。
 ○公益社団法人を目指す場合
  ※特徴
    ・不特定多数に向けた事業によって、社会に対して団体の存在をアピールでき、伴ってイメージやステータスが向上する
    ・公益活動比率50%超を維持し続ける必要がある
    ・公益事業は収支相償となることが求められる
    ・免税メリットがある
  ※検討事項
    ・外部から見たイメージと内部の実質的な気質が一致していることが肝要だと考えられるので、会員が社会貢献意識を高め、公益という意味を十分に理解し、事業を計画することが大切になる(中途半端な気持ちでは次世代まで持続できない)
    ・収入が減った場合、固定費を縮小しなければ公益事業比率が確保できなくなる
    ・公益活動比率が低下して、公益社団法人から一般社団法人になった場合には財産を失うリスクを抱えるので、永久に公益社団法人を維持するべく活動する
    ・建築士会が解散する際にはどのようになるか
    ・証紙販売(収益事業)は公益事業比率確保のためには切捨てとなるが、維持するとなれば可能な手法を検討する(現金納付化されると手数料収入はなくなる)
 ○一般社団法人を目指す場合
  ※特徴
    ・公益事業比率50%にこだわらない
    ・収益事業や親睦事業については自由度がある
  ※検討事項
    ・建築士会館の公益目的支出計画が具体的にどのようになるか
    ・税額試算が必要
    ・事務局を行政内で無料使用できるか
 ○一般社団法人となり、その後時期をみて公益社団法人を目指す場合
  ※特徴
    ・公益社団法人になることに伴う不安要素を当分の間保留にして、様々な状況が明らかになってから再検討する
  ※検討事項
    ・切替の時に財産などの扱いがどうなるか
■一致団結
 今後どちらかの法人選択をしなければなりません。どちらになっても異論反論が出されると思いますが、最終的には全員が心を一つにして新しい法人に移行していきたいと思いますので、ご理解をお願いします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年12月5日掲載

法人選択の議論に進もう

 今年度は、法人選択をする前に会計統合の議論をしようということで、組織の構成や会計のシステムの整備について取り組んできました。各支部が存続し、その活動もできるだけ変化のないようにしていきたいという私たち自身の基本的方向性に対して、法律に従って会計処理は本会に一元化していかなければならないという一見矛盾するような難しい課題だったと思いますが、組織運営検討特別委員会・新法人移行推進会議・理事会・三役会の繰返しによってなんとかその概要を整理できてきたと思っています。厳しい経済情勢の中で継続検討にせざるを得ない部分も残っていますが、この概要について、11月後半に各支部をお訪ねして説明させていただきたいと思います。当初から申し上げていますように、私たちがひとつにまとまっていくことができますように、理解を深めていただき、前向きの意見をうかがえればありがたく思いますので、よろしくお願いいたします。
 さて、引き続いて、新法人格の選択について意見をうかがっていきたいと考えています。連合会や関ブロに行くと、「まだ慌てる必要はない」といったような言い方も耳にするのですが、私たちは来年の5月14日の通常総会で方向性を出そうとしていますので、3月の理事会で事前確認をしていきたいと考えています。
 私はこれまで会員の意見を十分に聞いて考えたいと言ってきました。現段階でどちらが良いとかどちらにするべきだとか決めているわけではありませんので、議論はあくまでも白紙の状態からスタートしていただきたいと思っています。私の気持ちとしては、以前から申し上げていることで恐縮ですが、将来の建築士会を担っていく方々のご意見をできるだけ尊重していきたいと思っています。
■私が聞きたいこと
 私が支部をお訪ねしたりする際などに皆さんから聞きたいと思っていることは、単純にどちらがよいかということではありません。どちらを選びたいかについての『理由』を聞きたいと思っています。
 以前(本HP4月)に、三つの判断基準を言及したと思いますが、そのことは私自身のなかで変わっていません。再確認しますと、
 ○イメージで決める ○効率効果で決める ○活動方針で決める
ということでした。私としては、イメージや理想やメリットで結論を出すのは、きれいに見えるけれどもそれほど甘いものではないという気がしています。事務手続きなどの理由で決めるのも本末転倒だと思います。あくまでも正々堂々と活動に対する思い入れを見極めて決めたいと思いますが、強いて四つ目の基準を加えると、○実情(会勢)で決める ということがあるかもしれません。
 究極的な言い方をすれば、これから先の建築士会の活動を持続していく中で、社会に向けた公益的活動を積極的に取り入れていく覚悟や情熱があるのであれば公益社団法人として、会員としてより充実した研鑽や交流を続けたいというのであれば一般社団法人としての選択になるのだろうと思います。是非この点についての考えをお聞かせください。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年11月4日掲載

新法人移行アンケート調査結果

 連合会の役員・理事人事のタイミングは長野県と一年ずれているため、今年度になってから、出澤前会長に変わって私が連合会理事に着任しています。去る7月9日の理事会で、次のことをお願いしてきました。
 →連合会は公益法人に移行することを決定しており、単位会における選択判断は各県にゆだねるとしているが、各単位会の決断にも関心を持ってほしい。各県がどのような状況にありどのような判断基準に従って法人の選択をしているのか或いはしようとしているのかについて参考にさせてほしいので、現時点での全国各県の情報を一覧化してほしい。
 そして、このたび、そのアンケート結果がまとめられてきました。
■全国の様子
 既に定款等を定めて申請手続きを進めようとしているところからまだこれから検討を始めるというところまで、進捗については各県毎にかなり開きがあるように思います。
 法人の選択判断については、まだ決定していないところが多いのですが、公益法人に移行する予定の県が10、一般法人に移行する予定の県が12となってきています。私としては、どちらに移行するにしても、どのような判断基準によって選択結論をだしているのかを知りたいと言っているのですが、その辺りは明確にされておらず残念です。
 各県のコメントを見ると、会計の統合化について苦慮している様子がわかります。連合会はこの種の問題を抱えておらず、各県の切実な実態にあまり現実味を感じていないのかもしれません。神奈川県のようにそもそも本会が直接会員から会費を集めて支部に配分しているようなところを除けば、本会と支部の財務の動きが変わることに不安と困難を感じているようです。支部が建築士会活動の拠所だという認識は、どこも共通だと思います。
■関東甲信越ブロックの様子
 9月末日に関東甲信越建築士会ブロック会理事会が開催されました。この席で、連合会のアンケート結果を踏まえて、ブロック各県の移行検討の進捗と判断理由について質問させていただきました。長野県としては、これから法人選択の問題に触れていこうという矢先の段階ですので、各県の状況をここでお知らせするのは勇み足かもしれませんが、一応ホットニュースとして報告しておきたいと思います。結論的に言うと、連合会アンケートではまだ選択決定していないとしていた単位会も実はある程度方向性を固めており、未検討の長野県を除く全ての県が一般社団法人への移行を予定しているということでした。理由については各県ほぼ共通で、公益社団法人を選択した後の公益活動支出比率を継続的に保っていくことができるか、そしていざできなかった場合のリスク(一般社団法人へ強制的に移行させられて保有財産等を失う)は避けたいという判断のようでした。他ブロックでも同様の傾向が増えてきているようで、理想よりも現実をとろうとしている状況にシフトしていることがわかります。支部における共益活動の継続、会員数の減少に伴う財務状況の悪化等の背景も色濃く影響しているのかもしれません。
 長野県はどうしたら良いか、いよいよ慎重に検討していきたいという思いを強めました。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年10月4日掲載

建築士会の「絆」

 建築士会の集まりや行事に参加していると、いつも必ずと言っていいほど、仲間といっしょに楽しい充実した時間を過ごせてよかったという満足感を覚えます。会議等でいつも会っている人たちも大勢いますが、久しぶりに元気な顔を見せてもらえるようなこともよくあります。もちろん初めて顔を合わせる人もいますが、すぐに和気あいあいとした雰囲気に溶け込んでしまいます。会議だけでなく、懇親の場があれば、一段と口も滑らかになるのは言うまでもありません。自己研鑽とか地域貢献という崇高な活動目標も公な意味において重要なことだと思いますが、こうした熱い語らいを通じて得られる仲間意識はまさに建築士会の醍醐味そのものであると思います。私だけでなく、参加されている一人ひとりも、恐らく全く同じように感じているのではないかと思っています。
■「絆」ということ
 今の時代は、人と人とのつながりが以前とは変わってきています。人間として到底考えられないようなむごい虐待事件や目を覆いたくなるような殺人事件などが加速度的に増加して発生していると感じられます。これは、人に対する尊敬の念や愛情や思いやりが失われ、社会秩序や家庭内秩序が崩れてきたことの証明だと思います。突然このような事態になったわけではなく、元をたどれば恐らく子供たちへの道徳(死語か?)的な教育が希薄になってしまったことなども原因のひとつとして考えられるのだろうと思います。
 こんな時代背景だからこそ、「絆」という言葉の持つ重量感をずしりと感じてしまうのではないかと常々感じています。
■法人制度改革と「絆」
 建築士会における「絆」とは、会員同士の交流によって培われた“信頼”と言いかえることができると思います。同じ資格を有しながら共に行動することを通じて共有された達成感や満足感が、会員にとって最も重要な経験であり財産になっているのだろうと思います。会員の軸足や所属意識が身近な支部にあったとしても全く不思議ではありません。
 法人制度改革によって組織や会計の仕組みが変わることは前回のメッセージで簡単に触れましたが、そうした現象的な変化よりも、建築士会内部における人間関係が失われたり変わったりしてしまうのではないか、支部の活動や結束に対して何らかの影響が及ぶことになるのではないかという精神的な面での影響について無意識的に不安を感じている人が、もしかしたら少なくないのかもしれないと思うこともあります。
 しかし、私たちは目の前にある法人制度改革の問題に対して後ろ向きであることを許されない状況に置かれています。どんなに大変でも、意識の殻を突き破って、この問題を乗り越えるしか生き残る方法はないのです。議論するにあたって、これまで築いてきた建築士会の「絆」が絶対的に必要になります。それぞれが信頼しあうことが極めて重要です。
 まもなく建築士会の「絆」は新しい局面を迎えることになるのかもしれません。支部内の「絆」を超えた更に大きな建築士会の「絆」を構築していけるように意識の変換をしていきたいものです。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年9月11日掲載

会計の統合

 法人格の選択とは別に避けられない問題として、会計の統合をしなければならないことは既に申し上げてある通りです。これまで、本会と支部は同じ組織の中に位置づけられながらも、それぞれの会計は全く別物として扱われてきました。そのことについて何ら問題はなかったと認識していますが、これからは法律に従って本会と支部をひとつにした会計をまとめていかなければならなくなりました。全国各県においても、支部の位置づけと会計の統合はなかなか悩ましい問題であるようです。
■統合の検討
 単純に考えれば、15支部の収支決算を合算すれば全体の決算書ができてしまいそうに思いますが、各支部の収支状況や会計手法等の実態を仔細に見ていくと想像以上に違いがあり、そう単純な問題ではないことがすぐにわかります。会計基準を事務的に統一化すれば済むということでもありません。統合の手法についていろいろな不安や抵抗感があることは十分理解しているつもりですが、組織運営検討特別委員会では、そうした実情や新たに要求されてくる課題(専門度の高い会計やリアルタイムに全県の状態を把握する必要等)を真摯に受け止めた上で、このたびの新しい法人のスタートに際して、本会を幹とした単純明快な一元的会計システムに切り替えることを検討しています。
■統合の手法(案)
 会費納付・・・各会員から本会へ口座振替を原則としたい
 支部活動費・・各支部の年間活動計画概要を事前に検討してもらい、それを基に前年度活動実績や全体のバランス等を考慮して、各支部の活動費をまとめたい
 会計帳簿・・・支部からの報告によって随時本会でまとめていきたい
 世の中のどのようなシステムであれ、それを切り替えるということは大変なことだと思います。建築士法や建築基準法が大きく変わった時のことを思い起こしてみれば少し理解しやすいかもしれませんが、まずはシステム下の全員が、少々の異論があっても切り替えを前向きに受け入れていかないと新しいシステムは稼動しません。いざ稼動してからも手直し的な調整は必要かもしれません。ただ、できるだけそうしたリスクを減らすように今後も引き続き検討していきたいと考えています。
■組織の変化(案)
 本会と支部の組織のあり方についても検討がなされています。例えば、理事という呼称も本会・支部間で混同しやすいと考えられるため、整理をすることになると思います。会計の統合化に合わせて、支部総会の位置づけも少し変わることになりそうです。
 ここでお伝えしたことは8月4日の新法人移行推進会議で説明をさせていただいた内容の一部ですが、まだ途中経過の状態です。今後の議論の中で、私たちは心をひとつに合わせること、お互いを信頼しあうことが求められていることを強く感じます。細かい部分での意見の違いが浮き彫りになってくる可能性もありますが、建築士会の信頼と絆で乗り越えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年8月7日掲載

今年度の事業について 

 公益法人制度改革の話題が優先してしまい、通常の委員会の活動の印象が希薄に感じられているかもしれませんが、各委員会の関係者には例年通り着実な取り組みをしてもらっています。通常総会の議案として資料に掲げた事業計画を合わせてご覧いただきたいところですが、いくつかのことについてピックアップしておきたいと思います。
■建築士フォーラム2010IN上田
 昨年まで会員大会と言っていた事業の名称を変更し、「建築士フォーラム+西暦年号+IN+開催地名」とすることになりました。これは一般の方々のオープン参加も可能にして(今までもそういう考え方でやってきたのですが、それをより明確にアピールしたい)、建築士と社会がふれあう場・時としたらどうかという方向性に従ったものとなっています。今年は東信ブロックの上小支部にお願いして上田市で開催します。上小支部の皆さんが非常に張り切って取り組んで下さっているのを感じています。近年は開催地周辺の建築やまちづくりスポットを見学する計画が中心になっていますが、観光とは一味違った視点で地域の魅力を再発見してもらえればよいのではないかと思います。大勢の参加を期待しています。
■第10回長野県建築文化賞
 隔年で実施している建築文化賞もいよいよ10回を数えることになりました。スタート時の企画立案をした者としては、多くの方々の協力をいただきつつここまで育ってきたことに深い感慨を感じています。今年は、節目の回数ということで、会員に限定しない募集を考えています。初めてのことなのでどうなるのか予想できませんが、枠が取り払われることによる新たな刺激になれば良いと思います。外部審査員は東利恵さん(私たちの世代にとって憧れの建築家であった東孝光さんの御令嬢で、軽井沢の星野温泉施設などの設計を手がけておられます)にお願いしています。初めての女性審査員ということですので、これまで応募したことのない方々にも奮って応募していただきたいと思います。
■信州木造塾
 第Ⅲ期後半年ということで、こちらは8年連続の開催になります。毎回華麗な講師陣をお招きして講義をしていただいており類のない貴重な経験をさせてもらっていますが、今年も期待の講師陣となっています。私としては講義を聴く楽しみもありますが、それを自らの仕事に活かしていくことがこの塾の最大の期待ではないかと思っています。言いかえれば、木造の学習を重ねることによって、木造建築文化の復権や新たな展開の実現を企てるというのが潜在的な大目標なのだろうと思っています。第Ⅳ期以降の方針や姿勢についても検討していかなくてはなりませんので、ご意見をお寄せいただきたいと思います。
■関東甲信越建築士会ブロック会青年建築士協議会長野大会の準備
 先ごろ茨城県水戸市にて今年の大会が開催され、大勢の方々にご参加いただいたところです。来年は10年振りに長野県での開催(6月16日(木)~18日(土)に松本市のまつもと市民芸術館)が決まっており、すでに準備が進められています。私も昨年の埼玉大会と今年の茨城大会の様子を見させていただきましたが、各地で繰り広げられている地道だが着実な若い建築士たちによる社会活動事例等を見ていると、そのエネルギーだけではなく、建築士という職能を地域に返していく可能性を見せてもらった気がしました。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年7月7日掲載

温故知新(通常総会「長野県建築士会の現況について」の要点)

 公益法人制度改革についての進捗状況と今後の考え方について説明します。 
■経過
 出澤前会長の時期には、移行期限である平成25年11月30日までのスケジュールを作成しました。その後、公益法人制度について本会と支部のコミュニケーションを良くしたいということで、組織運営検討特別委員会は全支部からの委員構成としました。
 この一年間にやってきたことを列挙します。
 まず、制度の概要についての学習。
 次に、各支部の実態アンケート。各支部の状況の差や経済的な厳しさなどが浮き彫りになりました。
 それから、15支部巡回の説明及び意見交換会。たくさんの疑問があることも、誤解があることもわかりました。
 そして、それらを元に、「建築士会のあり方」を整理しました。あわせて、今回の法人制度改革にあたっての姿勢もまとめました。重要なことですので、改めて挙げます。
   ①連合会・本会・支部の一連体制を維持する
   ②支部活動の自立の尊重する
   ③会計を統合する
   ④社会貢献的視野を導入する
 その後、いろいろな条件について検証してみる必要があることがわかりました。専門家にも相談しましたが、単純に結論は出せない、、、と感じました。そういうわけで、じっくり時間をかけて、選択の議決は翌年にしようと考えました。
 そして、改めて理解を深めてもらうことと、議論を広く深くしてもらうために、理事会とは別に、新法人移行推進会議を設けました。
 委員会では、問題点の洗い出しや整理を兼ねて会計統合の検討に入り、組織フレームと会計システムのモデル化等について研究しています。
■改革への対応
 すでに公益法人と呼ばれている団体はたくさんあります。建築士会も公益法人のひとつとしてやってきました。本会も支部も納税面においてその恩恵を受けてきました。例えば、建築士会館もその恩恵のひとつだとみなされます。
 そうした無数の公益法人の中には、税金優遇を逆手にとって、私腹を肥やしているような不心得なところがあったり、天下りの温床であったりもしました。あるいは活動の実態がなくなっているところもあると聞いています。
 それらを一元的に整理して、最終的に税金をとれるデータにして管理していきたいというのが、今回の改革の最大の眼目だと言われています。言ってみれば、いま流行の仕分けのようでもあり、公益法人の大掃除とでも言えるような企てになっているわけです。
 それはわかるけれども、私たちのように真面目に活動している団体にとっては、余計なお世話、いい迷惑、だと思われる人が多いと思います。私自身もそう思っています。一人の不心得な建築士の仕業が、建築士法や建築基準法を厳格化させ、真面目な建築士たちを右往左往させたのと全く同じ構図のようにも見えます。
ですが、法律に基づいてこうした大手術が決まった以上、受けてたたなければ最後は死んでしまう、つまり解散するしかないのです。建築基準法に不満を感じても、法を守らなければ罰を受けることになるのと同じです。
 今後の日本は、こうした二者択一の選択の時代になる可能性が高そうです。いままで日本の良さだと思っていた中間ゾーンの美学も、性善説もやがて色あせていくのかもしれません。言わば、物事の判断までがデジタル化しているかのようで、いままでの時代の持ち味であったアナログ的な部分は切り捨てられていくように感じられます。
建築士会は悪いことをしていないので今までと変わる理由はないと考えるのが、素朴で率直な気持ちだと思います。しかし、これが改革と呼ばれている以上、今まで通りではやっていけなくなる、、という現実もしっかりと受け止めなくてならないと思います。
 支部を中心とした会員同士の親密な雰囲気は残したい、というのは十分理解していますし、尊重するつもりですが、いつまでも古い殻に閉じこもっているだけでは何も解決できない、いま新しい風が吹いているのだということを機敏に感じ取ってより発展的に意欲的に次の行動を考えていかなくては激動の時代を生き抜いていくことはできない、マイナスをプラスに転換する、、、私はそれこそが、これからの建築士会が逆風の社会を前進していく際に必要な覚悟なのだろうと思っています。
 この問題は、感情的にならずに、冷静に立ち向かっていくことが大切です。繰返しですが、将来の建築士会のために、意識や体質を変えていただきたいと思います。
 現時点では、法人移行の進捗が極めて低調で、指導や判断が柔軟になっているとの情報もあります。これまた確認申請の円滑化と同じような対応です。今後、様相が変わる可能性もないわけではないので、できる限り最新情報を提供していきたいと思います。
■制度の内容
 まず、公益社団法人とは何か、一般社団法人とは何かということから始めます。
  ○公益社団法人
    ・公益性の高い事業、つまり不特定多数を対象にした事業に取り組んでいる団体
    ・活動内容は行政のチェックを受ける
    ・メリットは、税制の優遇
    ・数字的な条件は、支出の50%以上が公益性のある事業費
    ・公益社団法人を取り消されて一般社団法人になった場合には、公益目的取得財産残額を、行政や類似事業目的の公益社団法人に帰属させる
  ○一般社団法人
    ・新規であれば、二人の合意があれば設立することが可能
    ・活動の目的や内容は規制なし。行政のチェックもなし。ただ、建築士会には社会貢献活動が求められている
    ・税制上、利益が出れば納税
    ・今まで税制面で優遇されていたことによって所有できた正味財産(例えば建築士会館など)を、計画的に社会に還元(支出)していく
    ・一般社団法人から公益社団法人に移行するには、条件を満たせば、いつでも可能
 私たちのように既に社団法人であったものは、どちらかを選ぶことができます。選択しないでいると解散となります。
 公益社団法人の可否の判断は、民間人から成る判定委員会というところにゆだねます。
 公益性があるという判断の基準は、不特定多数のために貢献しているか、きちんとしたアピールができているかといった事業内容と、支出の50%以上を公益活動に充てているか、利益を出さないでやっているかといった経済内容とによるようです。
 会計統合については、法人の選択によらず実行しなければならないと県のほうから指導されています。支部活動は継続するとしても、支部の会計は統合しなければなりません。
■今問題になっていること
 問題点のうち、代表的なものをいくつか挙げます。
 具体的にどのような活動であれば公益性があると判断されるのかは、けっこう微妙でかなり重要なチェックポイントです。
 例えば講習会の場合には、会員限定とせず、一般の参加も促していけば、公益活動と捉えることができるというようなことはわかってきています。
 連合会の会費はどういう扱いになるのか、県証紙販売の取扱いは公益であるのかないのかといった点については現在調査中です。
 公益活動分の金額が所詮50%にならなければ公益社団法人になりたいと願ってもなれません。50%すれすれでも持続していくのが難しいので、相当の余裕があることが確認できなければ困ります。会員減少は、収支や活動に多大な影響を及ぼすと考えられます。
 支部の統合という話もありますが、まったく未定です。
 現在支部毎に差のある会費額についても研究中です。
 支部特別会計は、ひとまず本会にまとめなくてはならないと思いますが、内々で支部枠を設けて確保したいと考えています。
 理事構成や総会の形式、定款も変えていく必要があります。他にも細々としたことがたくさんあります。
■建築士会の姿勢
 制度改革を受け止める立場として守り抜きたいことは3点あります。
   ・解散しない―どちらかに移行する
   ・分裂しない―長野県が一つのまとまりを維持する
   ・持続する―移行後も活動を継続する
■みんなで考えよう
 最終結論を出すにあたって、私はあくまでも会員の声を尊重したいと思います。一般企業のようにトップの判断で結論を出すようなものではないし、役員や理事が密室で決めてしまうものでもないと思います。
 会員の多数決で決めるというのも無理ですが、すべての会員が自分の問題として考えてほしいというのが、私の基本姿勢です。
■最終判断の基準 
 最終的な判断の基準について、私が考えていることを整理してみます。
   ・イメージで決める・・・例えば、公益社団法人のほうが世間的なイメージがよい、というような基準に従って判断する 
   ・効率効果で決める・・・例えば、メリットがあるのはどちらの法人か、というような基準に従って判断する
   ・活動方針で決める・・・例えば、自分たちは今後どんな活動をしていきたいのか、というような基準に従って判断する
 イメージで決めるという判断は、もっとも容易で内容を十分理解していなくても可能です。しかし、私たちの選択は他人のためにするものではないし、適切でない選択をした場合にはやがてほころびが出る可能性があります。
 効率効果で決めるという判断は、一見理にかなっているように見えますが、負担感が少ないというだけがメリットだとは思えません。
 活動方針で決めるという判断こそ今私たちに求められているものだと思います。公益的な活動中心でいきたいのか、仲間の集団としていきたいのかという判断ということです。
■どちらの法人がよいのか
 私自身は、どちらの法人でもかまわないと考えています。
 公益社団法人が格上で、一般社団法人は格下だという人もいます。格下では恥ずかしいという考え方もあるようですが、私はどちらも立派な法人だと思います。私にとって恥ずべきは、この会が分裂したり解散したりしてしまうことです。
■最終判断への問いかけ
 公益社団法人がよいですか?一般社団法人がよいですか?と聞くつもりはありません。私からの質問は、公益的活動をしたいと考えますか?そんなことはしたくないと考えますか?ということです。特に若い世代の皆さんはいかがお考えですか?
■スケジュール
 たくさん課題がありますが、来年の通常総会で法人の選択をはかります。新会計システムへの移行をスムーズにするため、2週間ほど早めに開催したいと考えています。
■温故知新
 「温故知新」・・・古きを温めつつ、新しきを知る。
 改革への対応は、温故知新の精神で取り組んでいきましょうということをお願いして、終わりにしたいと思います。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年6月1日掲載

私たちの現況 

 3月末をもって平成21年度が終わり、来る通常総会に向けて様々なことが整理されつつあります。それによって、私たち自身の現況が確認されます。今日はそのことについて少しお知らせしておきたいと思います。
■会員数の減少
 会員数の減少傾向は依然としてとどまるところを知りません。この一年間における入会者83名に対して退会者203名となっており、結果として120名少なくなりました。昨年の期末には会員総数3384名だったのですが、今期末時点で3264名となっています。これは仕方のないことなのでしょうか。なんとかしなければならない問題ですよね。私たちは今までこうした事態をどれほどの危機感で受け止めてきたでしょうか。
 長野県建築士会が設立された昭和27年には会員数513人だったそうですが、時を経て約30年後の昭和58年には4919人となり、ピーク状態となっています。間もなく60年を迎える建築士会にとって、前半生は拡大、後半生は縮小になっていると言えます。特にこの数年間の減少はかなり急激です(平成11年度に4482人、平成21年度末に3264人)。ちなみに、現時点での会員数は北野幾三会長就任時の昭和46年頃の会員数とほぼ同じになっています。
 昨年、各支部にアンケートをお願いしました。その際、将来の支部会員数の予測をしていただいたのですが、5年後の予測数値に達するのに一年とかからなかったのです。
 会員数の減少が、この先の建築士会の活動に影響を及ぼすことは否定できません。予算の数字すら見当がつかない状態になります。だまって減少を傍観しているわけにはいかないのは言うまでもありません。会員の増強は建築士会の存亡に関わる課題だと言っても大げさではないような気がします。昨今は建築士を取得しようとする人が著しく少なくなっており、試験に合格する人も減っています(長野県は特に、、、)。また高齢となり実務から遠ざかっていく人も見られます。そうした背景については冷静に受け止めなければならないのですが、それでも尚、会員増強は真剣に取り組まなくてはならない重要な課題だということを自覚してほしいと思います。
■切迫した財政
 これまで決して財政が厳しくなかったというわけではありませんが、平成21年度の決算はかろうじて赤字を免れたというのが実情です。言うまでもなく平成22年度の予算は大変厳しくなっています。かつてない厳しさだと思っていただいてよいと思います。いよいよこれから会計の統合化をしなければならないという段階に来て、頭の痛い問題が顕在化してきました。予算が赤字というわけにはいきませんから収支予算書の見た目はつじつまがあっているように見えると思います。しかし予算の執行にあたっては、収入がこれ以上減っては困りますし、支出がこれ以上増えては困ります。綱渡りのようにぎりぎりのところを歩んでいかなければならないという非常に緊張を感じさせる状態になっています。
 原因は様々です。補助金などがカットされていくことも大きな要因です。会員増による会費増収ができればよいのですが、緊急対策としては、定期講習はじめ自己研鑽となる講習等を積極的に受講していただくことが効果的だと思っています。ご理解とご協力をお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年5月7日掲載

判断の基準

■現状と今後 
 例年、年度末から年度初にかけては、年度切替えに伴う様々な事務処理をしなければならないため、建築士会の活動は休止状態になるのですが、今年ばかりはそう言っていられない状況です。組織運営検討特別委員会では、公益法人制度改革に伴う会計統合及び新組織体制等の各論的な事項について、ノンストップで検討を進めています。新法人移行推進会議も過日開催することができ、各支部の具体的な悩みや意見をお聞きする機会となりました。目前の通常総会開催までにどこまで進められるかわかりませんが、一日も早く具体的な方針をまとめられるように努めていきたいと思っています。今後は、会計統合等の具体的な課題に関する検討は委員会中心で、公益か一般かの選択に関する議論は推進会議中心で、というような分担で進めていきたいというのが私の考えです。いよいよこれからが正念場だという思いを強くしています。
■判断の基準とは・・・
 公益社団法人と一般社団法人の違いについて前回整理させていただきましたので、(やや先走ったことになるかもしれませんが)引き続いて、どちらかを選択するという判断に臨んでの基準について私が考えていることを整理しておきたいと思います。
 ○イメージで決める・・・例えば、公益社団法人のほうが世間的なイメージがよい、というような基準に従って判断する 
 ○効率効果で決める・・・例えば、メリットがあるのはどちらの法人なのか、というような基準に従って判断する
 ○活動方針で決める・・・例えば、自分たちは今後どんな建築士会活動をしていきたいのか、というような基準に従って判断する
 公益社団法人か一般社団法人かという決断は、しっかりと現状や将来を見据えた上でしなければならないということは言うまでもありません。イメージで決めるという判断は、もっとも容易で内容を十分理解していなくても可能なことだと思います。しかし私たちの選択は他人のためにするものではないように思いますし、うかつに適切でない選択をした場合にはやがてほころびが出てしまう可能性が高いと思っています。効率効果で決めるという判断は、一見理にかなっているように見えますが、天秤にのせたところで、一長一短的な要素もあるので、歴然と差がつくかは難しいところだと思います。負担感の少ないほうを選択するというだけがメリットだとは思えません。活動方針で決めるという判断は、問題の核心をついたもので、今私たちに求められているものだと言うことができます。大雑把に言えば、公益的な活動中心でやっていきたいのか仲間の集団としてやっていきたいのかということに基づいた判断ということになります。最終的な判断は、ここから外れるわけにはいきません。それは、これまで積み重ねてきた「建築士会のあり方」の延長線上に位置づけられるものです。各支部の意見と並行して、今後の活動を背負っていく若い会員の意見を聞きたいと思っています。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年4月5日掲載

考えてほしいこと

 公益法人制度改革のことばかり続いて恐縮ですが、先月の最終部分について追記しておきたいと思います。
 総会が近づいてきていることや徐々に移行期限に近づいていることもあって、今後の方向性について気がかりな方も多いと思います。私としても早く方向性を出して早々に準備を進めていくのがよいと思っているのですが、現段階ではまだ検討中としか言えない状態です。以前から言っている通り、私としては、トップダウンではなく会員の意見を尊重したいという気持ちを強く持っています。多くの方々に自分の問題として考えていただくために、判断材料となる情報を適切にお伝えしていく役割と義務が私たちにはあるのだろうと考えています。組織体としての議論は、役員や支部長を中心とした新法人移行推進会議(新設)という場で進めていくことになると思います。
■公益社団法人になるべき・・・
 ・公益社団法人は公益性(社会性)の高い事業に取り組む団体です。その活動内容は行政のチェックを受けることになります。
 ・公益社団法人になることのメリットは、税制の優遇ということだと思います。
 ・公益社団法人になるための条件は、支出の50%以上を公益性のある活動に充てていくことです。現在委員会では、支部の会計を含め長野県建築士会全体支出のチェック計算を行い、さらに詳細な調査を始めようとしています。
 ・公益社団法人を取り消された場合には、公益目的取得財産残額は行政や類似事業目的の公益社団法人に帰属させることになります。
■一般社団法人になったほうがよい・・・
 ・活動の目的や内容は規制されません。行政のチェックもありません。ただそうは言っても、建築士会には社会貢献活動が求められていることは事実です。
 ・一般社団法人になると、税制上のメリットというのはなくなりますので、利益が出れば納税することになります。 
 ・今まで税制面で優遇されていたことによって所有できた正味財産(建築士会館など)を、計画的に社会に還元(支出)していく必要があります。
 ・一般社団法人から公益社団法人に移行することは、上記の条件を満たせば、いつでも可能になります。 
■判断にあたって・・・
 私としては、例えば公益社団法人を取得するために要求される条件をクリアできるか、といったチェックは基礎的な事項として重要なことだと考えています。しかし、現時点でクリアできているというだけでは不安が残ります。建築士会が持続していくためには、法人格に相応しい活動を維持しなければなりませんが、それは自動的にできることではなく、ましてや役員や一部の方々の活動で実現できるものでもありません。私が最も気がかりなのはこの点に集約されます。会員の一人ひとりが、決断した方向性のなかで精一杯の努力を積み重ねることによって始めて建築士会が建築士会であり続けられるということを意識して考えていただきたいと思います。今後の方向性判断には、活動目的に対する会員の“意思”あるいは“覚悟”が最重要だと思うのです。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年3月3日掲載

更級支部創立60周年を祝して

 このたび創立60周年を迎えられます更級支部の歩みは誠に偉大な足跡であり、心よりお祝を申し上げます。
 更級支部は、建築士法の制定に伴って早々に創立されたとお聞きしております。したがって常に本会よりも先に周年がやってくるということで、志の高い先輩方の強いリーダーシップと先見の明に改めて敬意を表したいと思います。各地で建築士会が創立される引き金になったのではないかと思います。更級支部は長野市隣接の篠ノ井市(当時)を中心としたエリアの建築士が核となって発足したわけですが、「更級」という由緒ある名称を冠しているところに強い愛郷心や誇りが示されているように感じられます。その後、篠ノ井市は長野市に合併されるという経過を辿りますが、支部はそのまま存続してきました。そういった事情によって、同じ市内に二つの支部があるという全国的にもユニークな存在となっています。会員数は多くありませんが、それゆえにむしろ強く団結しており、存在感のある支部として今日を迎えておられます。
 私が故郷長野に戻り建築士会に入会させていただいた頃は、芝田信夫副会長がご健在で、お元気な姿が記憶に残っています。更級支部の皆様方とのお付合いは、私が平成元年に本会の教育委員長をお受けした以降だと記憶しておりますが、統率力のある歴代の支部長のもと個性豊かなメンバーが元気に活躍している様子が印象的でした。今後も若さあふれるエネルギーと協調の精神を失わず、更級支部の持ち味を保ちながら歩んでいただきたいものだと念願しています。
 折りしも(社)長野県建築士会は公益法人制度改革の波を受けて、その存在の原点と将来を問われる大変な局面にありますが、更級支部におかれましては、ここで今ひとたび先見の明のあるご判断をいただきたいと思っております。
 最後に更級支部と会員の皆様方のますますのご発展を祈念しつつ、お祝の言葉とさせていただきます。

(社)長野県建築士会更級支部:「60周年記念誌」2010年2月18日掲載

長野県建築士会のあり方

 公益法人制度改革への検討が続いていますが、いわゆる公益か一般かの選択に移る前のステップとして、この改革に対応するための基本方針を固める必要があると考えてきました。組織運営検討特別委員会での調査・検討に加えて、支部を巡回した際の意見、理事会・役員会での意見などをまとめたものを、「長野県建築士会のあり方」として、理事会で承認していただきましたので以下に示します。

長野県建築士会のあり方(総括)
 ■組織について
  ①連合会・本会・支部の一連体制の維持
    本会は行政や社会からの要請に対する県レベルでのフロントにおり、大きな存在意義を有している
    連合会は全国的な連携、組織的な統一行動(法改正や制度実施などへの対応)などにおいて重要な役割を果たしている
    地域社会に向けた建築士会活動の成果や効果は、本会及び連合会の存在と相まって顕在化するものであり、既往の秩序を維持し活用したい
  ②支部活動の自立の尊重
    会員にとって支部の存在は身近なものであるので、活動の基盤としての支部体制は継続したい
  ③会計の統合化
    制度改革にともなって(法人の選択によらない)対応せざるをえない必要があり、組織を持続していくために実現しなければならないと考えている
 ■事業について
  ①社会貢献的視野の導入
    会員にとって有益な事業は持続しつつ、一方で建築士による地域貢献事業に積極的に取り組む必要がある

 これは、この先の選択にかかわらず建築士会という集団を継続していくための支柱となるものと考えています。前段の二項目は現状を維持するという内容であり、後段の二項目は現状を変えていかなければならないという内容になっています。中でも“会計の統合化”という項目については相当な作業量が予測されるので、早めに着手していかなくてはならないと思っています。
 公益か一般かの選択については、様々な局面から検討を続けている最中です。状況の検証を中心に作業をしていますが、もう少し詳しく研究していきたいと思います。ただ、最終的な判断に至っては会員の“意思”も重要になってくると思っています。以前から申し上げているように、意識や体質の改革も求められてくるでしょう。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年2月8日掲載

建築士会の社会性

 新年あけましておめでとうございます。大変厳しい社会経済情勢になってまいりましたが、この年も皆様にとって幸多き年となりますよう心よりご祈念申し上げます。
 年頭早々から固いことを言うのは少し気が引けますが、昨年より公益法人制度改革に取り組むにあたり、建築士会の存在意義あるいは社会との関係等について改めて考えさせられています。そもそも建築士会という組織が会員の交流や向上のために設立されたものであると考えれば、会員による会員のための集団であるというのが基本だと思いますが、一方で集団化することによって発生する影響力をもって社会と向き合っているという側面もあると言えます。職人気質的なプロフェッショナルとしての基本は真面目に自分に与えられた仕事をすることだと思いますが、そのプロフェッションに対する信頼感が薄くなってしまった昨今においては、当事者として社会に対して敏感に反応していかなくてはならないように思われます。集団に対しては、社会認識においても法制度においても、信頼回復や情報公開等における有効な窓口としての期待や責任が大きくなっています。これは公益法人制度改革を待つまでもなく真剣に織り組まなければならない重要課題となっているのです。多くの会員にとって建築士会は居心地のよい親近感のある存在なのだろうと思いますが、もしかしたらそのことが社会と向き合う姿勢や意識を少しスポイルしてしまっているのかもしれません。今が建築士会にとって大きなターニングポイントであることはまちがいありません。私たちは今こそ建築士会の社会性ということを自身の問題として意識していかなければならないと思います。その社会性のために長野県は一つであることが必要だと思いますし、連合会という存在も意義があるのだと考えられます。今後の建築士会組織を維持し活動を推進していくためにも、会員の皆様のご理解をお願いしたいと思います。
 本年も建築士会をよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2010年1月 日掲載

団体長に聞く(アンケート)

●民主党政権に対する提言・要望を教えて下さい
 予算を見直して“無駄”をなくすという大胆な具体性はかつての政権では見られなかったことで、画期的だと受け止めている。建設業にとってきびしい面もあるが、我が国の健全な将来のためには、時に利権と離れた視点での判断も必要かもしれない。さらに言えば、税金の再配分システムである補助金という仕組自体をも見直し、地域の主権や自立が可能になるような新しい国家モデルを構築してほしいとも思う。
●業界・団体の置かれている実情と問題点を教えて下さい
 建築士会は建築士法に基づく法定団体ということで、指定登録機関となり、名実ともに社会的責任は大きくなっている。一方で公益法人制度改革の波によって、組織のあり方や社会に対する姿勢も変化していくことになると考えられる。“資格者団体”の今後のあるべき姿や社会との関係について、会員が一丸となって真剣に考えていかなければならない時が来ていると思われる。
●会員企業や業界・団体が生き残りに向け改善・努力している事を教えて下さい
 個々の会員企業における努力は把握していないが、業務においてはコストと質をシビアにバランスさせていくことが最大の課題であることはまちがいないのではないかと思う。団体としては社会的責任の窓口となったことを受けて、積極的な講習会の受講や登録受付などを呼びかけている。これまでの親睦と研鑽といった体質を、社会貢献を含む幅広い活動にも積極的に取り組める体質に変えていきたいと思っている。
●行政機関や一般社会への提言・要望を教えて下さい
 いまの時代は非常に厳しい経済状況にあって、行政にしても民間にしても自分自身が生きることに精一杯の時代であろうと感じている。特に国レベルの行政は責任を回避するために社会に対して建前的な発想だけで対処しているように思われる。目前の現実に対する特効薬はないかもしれないが、問題を国民目線でとらえていくことができるような体質に転換していかなければ本質的な解決はできないのではないかと思う。
●平成22年の団体長の抱負を教えて下さい
 構造計算書の偽装事件以後、建築士は肩身の狭い思いを強いられている。しかし“建築”という人間の英知を集めた創造的な挑戦は、本来誇りを持ってよいものであると思う。建築士はそこにやりがいも責任も感じている。団体を基盤とした活動を通して建築士の社会的地位をリカバリーできるようにという思いを抱えて事業に取り組んでいきたい。会員の結束が必要だと感じている。

㈱新建新聞社:「新建新聞」2010年1月5日掲載

建築士のプライドとステイタス

 謹んで新春のお喜びを申し上げます
 構造計算書の偽装事件によって建築士への信頼は失墜したと言われています。すべての原因は建築士にあるかのように迅速に法律が改められ、業務が停滞したり建築士に対する逆風が強くなったりしています。厳しい社会経済情勢も依然続いています。しかしそんな辛い状況下にあっても建築士が胸に秘めた専門技術者としての情熱やプライドは何ら変わっていないと思います。我が国の建築士や建設業界に潜んでいる職人気質的なおおらかな体質は現代の管理型社会になじまないのかもしれませんが、設計から竣工までのプロセスを通じてたゆみなく試行確認しながら最良のものを建てあげようという比類なき煩雑な作業そのものにやりがいやプライドを感じているのです。
 いま建築士には責任が、建築士会には会員の資質やモラルの向上が求められています。しかし私たちは萎縮することなく、むしろ専門家として当然持っていなければならないプライドを磨きステイタスを向上させていくことが大切なのではないかと思っています。

㈱日刊建設通信新聞社:「日刊建設通信」2010年1月 日掲載

“資格者団体”は何をするべきか 

 建築士会は資格者団体であり、建築士事務所協会は業務団体である、とよく言われます。他にも建築家協会があり、建築士を取り巻く環境の中で似たような団体がいくつもあることについて疑問視する意見を聞くこともありますが、それぞれの目ざすところは確かに大きく違っています。建築士事務所協会は設計監理業務環境の改善を求め、建築家協会は設計者の尊厳ある新しい社会的地位の確立を求めています。このような活動指標は、社会的に十分な認知を得られない歯がゆい現実に対する苛立ちや不満を解消しようという明快な意図に基づいていると言えます。では建築士会は一体何を求めているのでしょうか?建築士という法律によって保証された資格を背景にして存在する団体ですから、そもそもネガティブなスタンディングポジションではないことは確かです。建築士の社会的地位の向上を掲げているというのが一般的な認識だと思いますが、その実態はどうなのでしょうか。
■建築士会活動の実態
 現状で実施されている活動をその目的によって類別してみると凡そ以下のようになるのではないかと思います。
         目的             事業内容                     対象者
       研鑽・研修      見学会・講習会・会員大会・機関紙など        会員
       会員サービス    機関紙・HP・CPD証明書・保険など           会員
       親睦・交流      ゴルフ大会・各種懇親会など               会員
       情報発信       新聞広告・講演会・指定登録機関など        会員外
 これですべてを網羅しているわけではありませんし、目的や対象者が重なっているケースも多いのは承知しています。ただ、このような作業から見えてくることは、建築士の社会的地位の向上をダイレクトに目指した事業は案外少ないのではないかということです。
■資格者団体は何をするべきか
 建築士会は資格者団体であると言うとき、私たちはもう少し社会とのつながりを意識しても良いのではないか、というのが今ここで申し上げたいことの結論です。実はこのことは、そのまま公益法人制度改革の問題に直結することであろうと考えています。古くて新しい議論であるメリット論や会費の意義論などについて、旧来の殻の中だけで語っていても、資格者団体としての展望は見えてこないと思われます。密度の高い交流や研修を減らすことを提案しているわけではありません。これからの時代、建築士会は社会の要請に従って社会に向かって積極的に働きかけられる団体になっていかなくてはなりません。
 どうすればよいのか、今まさに、会員がいっしょになって考える時が来ているのです。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2010年1月1日掲載

長野県は一つ・・・! 

 11月の前半約2週間かけて、公益法人制度の支部向け説明会を実施させていただきました。各支部の都合を聞いて日程調整して、組織運営検討特別委員長及び事務局長とともに県内全15支部を順次訪問しましたが、文字通り東奔西走の日々となりました。
 制度に関する研究は2年ほど前からスタートしていたのですが、確定した情報が不十分だったこともあって会員向けに具体的な情報提供をすることができないままになっていました。今期に入ってからも理事会席上で協議を行なった程度でしたので、支部の皆さんが聞かれるのは初めてであったかと思います。そのため今回は制度の概要や現時点でわかっている具体的なシミュレーションなどを中心に説明することになりました。
■制度概要のポイント
 制度改革による選択肢
 ・公益社団法人になると、税金の優遇が受けられますが、公益目的事業を50%以上実施することが求められます。
 ・一般社団法人になると、税金を納める団体ということになります。また従来税金の優遇を受けていたために取得したと判断される財産(例えば建築士会館)は公益目的事業として還元支出することが求められます。
 制度改革に伴う会計処理
  法人格の選択にかかわらず、長野県建築士会として会計を一本化する必要がありますので、支部活動は継続するとしても支部会計は統合を試みなければなりません
■各支部の反応
 初めて聞く内容なので理解できなくて当然なのですが、それでも事前に理解を深めるべく学習している支部もありました。支部がなくなるというような誤解もあるようでした。
 法人格の選択の前に支部と本会の関係がどうなるのかに関心は集中していました。どの支部も共通して、非常にまとまりの強いところが長野県の特徴です。支部内の親睦や活動が後退するのは納得がいかないという強い思いが感じられました。そのあたりは私どもとしても全く同じ気持ちで、支部活動にできる限り支障が出ないことを目指しています。会計の統合や会費額に関する具体的な問題解決は今後の検討課題になります。
■まとまろう
 細部が見えないとなかなか理解しにくいところもありますが、勝手な想像をして感情的になる必要は全くないと思います。これまで通り長野県が一つにまとまっていくことができますように、会員の皆様方のご理解をお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年12月3日掲載

CPD・専攻建築士制度のオープン化 

 建築士会CPD制度は、日本社会のパラダイム(その時代において当然のことと考えられている認識)が、馴合い型から責任型にシフトしつつあるのにあわせて、建築士にプロフェッショナルとしての責任を恒常的に意識させながら、リアルタイムな力量等を数値化して社会に向けて表現していこうというモデルととらえることができますが、この自己表現形を社会的評価指標の一つとして有効に活用してもらうということはスタート以来今なお大きな課題となっています。そうした課題に対する一つの方策として制度をオープン化(会員外の参加も受け入れる)するという情報はすでにご承知のことと思いますが、過日の全国大会山形大会の会議席上で決議されましたので、その概要をお知らせしたいと思います。オープン化のスタートは来年の4月からとなります。これに伴って専攻建築士制度もオープン化されます。詳細はまもなく「建築士」に掲載されてきます。
■新しいCPD制度の概要
 主な変更点は以下の通りです。
  ・建築士会員は全員参加となります。登録費用等は必要最低限化されます。
  ・会員外の建築士にも参加機会が与えられます。さらに建築士ではない施工管理技士等の参加も可能になります。登録費用等は非会員設定が行なわれます。
  ・非会員が参加することにより、会費を充当して運営するのは不適当となるので、プロバイダ等からの費用を徴収します。
  ・公的評価に応えられるようにするために、プログラムは原則として事前に認定されたものに限定されます。それに伴い、実務や委員会活動等の単位はなくなります。
  ・単位数は実時間により換算され、重み付けはされません。
  ・年間の最低必要単位数は12単位となります(これまでは36単位)。
  ・データ登録及び管理は、ICカードを使用することになります。
■新しい専攻建築士制度の概要
 主な変更点は以下の通りです。
  ・会員外の建築士にも認定機会が与えられます。
  ・認定のための単位取得基準が直近1年で12単位となります。更新のためには5年で60単位となります。
  ・CPDカードとあわせたICカードが登録証となります。
  ・設計専攻建築士が統括設計専攻建築士に、生産専攻建築士が建築生産専攻建築士に名称が変わります。
 かつて長野県方式と呼ばれていた内容に近いところがあると感じてしまうのは思い過ごしかもしれませんが、個人的には少し複雑な心境です。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年11月6日掲載

公益法人制度改革がやってきた 

 昨年12月から公益法人制度改革が施行されており、社団法人である私たちの建築士会もこの大きな波を避けて通れない状況に置かれています。この耳慣れない制度改革は、建築に関する法制度改正とはまったく異質な内容であり、それぞれの団体にとって存亡をかけた悩ましい問題になっているものと思われます。この問題は出澤前会長時代からの懸案事項で、今年度もすでに組織運営検討特別委員会において粛々と検討を進めているところですが、これまで詳しく説明することができない状態でしたので、まずは基本的な内容について少し説明しておきたいと思います。近いうちに各支部をお訪ねし、状況説明と意見交換をしていきたいと考えていますので、その節はよろしくお願いいたします。
■どんな改革なのか
 今や全国で約25000の公益法人があるそうですが、税制面での優遇措置を逆手にとった悪質な法人が現われたりしていることなどもあって、制度の抜本的な改革が実施されることになったということかと思います。すでに根拠となる法律は施行されており、従来の公益法人は現段階では「特例民法法人」という状態になっています(実際の内容は従来と何も変わりませんが、、)。これからは、公益性の高い活動を志向して税制面での優遇を受けられる「公益社団法人」となるか、そうした活動を特に規定しない「一般社団法人」となるか、どちらかを選択して移行する必要があります。選択しない場合には解散することとなります。移行期限は平成25年11月となっていますので、計画的段階的に手続きを進めていかなければならず、今年度は特に重要なステップとなっています。
■長野県建築士会としての基本姿勢
 新たな歩みへの生れ変りのための選択肢は二つしかないため、決断自体は単純です。ただ、長野県建築士会の会員は組織に対して人一倍熱い思いを持ってくれていますので、最終的な判断にあたっては一人ひとりの気持ちを大切にしていきたいと思っています。
 今後会員の皆さんと意見交換をするに際しての前提条件を整理しておきたいと思います。
  1 解散しない―二つの選択肢のどちらかに移行していきたいと思います。
  2 分裂しない―どちらの選択をするにしても組織が今まで通りであることはできなくなります。支部体制を維持することはできても、その運営は変わらざるを得ません。具体的な内容について多くの賛否が出されるものと予測していますが、結果的に長野県が一つのまとまりを維持していかなければ無意味だと考えています。
  3 持続する―どちらかの選択をするところまでの合意が成り立ったとして、その先の建築士会としての活動が継続できることが非常に重要なことだと思っています。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年10月1日掲載

嗚呼!怒涛の講習会 

 建築士法が改正されてから講習会が頻繁に開催されるようになりました。連日講習会に出かけているなどという冗談のような本当の話しも聞かれます。一体どの講習会を受けれいいのか、、。あるいは受けなければならないのか、、。混乱している人も多いのではないかと思います。しかし混乱しているのは受講する立場の方々だけではありません。長野県建築士会では資格に関連する講習会は資格委員会が担当することとしましたが、日程調整や会場手配、募集案内や受付、考査の管理等々、本当に神経を使うものとなっています。
■講習会の種類
 続々と案内されてくる講習会を勉強の機会としてとらえ、すべて受講すれば資格者としてベストなのでしょうが、あまり現実的とは言えません。自分にとって(或いは所属する企業にとって)必要なものを選択すれば良いのですが、どんな基準で見極めていけばよいのか、、について少し整理しておきますので、参考にしていただきたいと思います。
○定期講習(義務・有料) 
 建築士事務所に所属する建築士(管理建築士を含む)は、3年に一度定期講習を受けるように法律で定められました。終了後に考査があります。建築士会と建築士事務所協会から別々に案内が出ますので、どちらを受講してもかまいませんが、私の立場としては建築士会にお申込みいただければありがたいと思います。受講しない場合は行政処分を受けることがありますので、できるだけ早い時期に受講してください。
○すべての建築士のための総合研修(これまで指定講習と言っていたもの・有料) 
 建築士会主催ですが、会員に限定せず学習の機会を提供するものです。法的な処分はありませんが、建築士として最新且つ総合的な情報を学んでいただきます。
○管理建築士資格取得講習(管理建築士になろうとする場合は必須・有料)
 いままではどの建築士でも管理建築士になることができましたが、3年以上の経験者を対象に資格を取得しなければ管理建築士になれないことになりました。終了後に考査があり、一度合格すればOKです。建築士事務所協会から案内が出されます。
○住宅・建築関係事業者技術向上支援講習(任意・無料)
 国土交通省が、建築士の技術向上を支援するとしているものです。構造計画・耐震補強・省エネ・長期優良などのテーマがあり、基本から最新情報までが含まれています。申込み先は委託業者になっていますので、会場と日時を選んで申込んでください。内容によっては定員を超過する場合もありますので注意してください。
○新・建築士制度普及協議会による講習(任意・無料)
 昨年改正された建築士法の流布を目的につくられた組織による講習で、これから、新しい業務報酬基準の解説や工事監理ガイドラインの解説などの内容を取り上げます。
○建築士会連合会等の要請による講習(任意・費用は内容による)
 連合会等から要請されるものは随時開催します。内容はさまざまとなります。
○長野県建築士会独自の講習(任意・費用は内容による)
 委員会などが企画する講習も登場すると思います。テーマを見て参加してください。

このほかにも、構造設計建築士や設備設計建築士を対象にした講習などがあります。義務の講習は言うに及びませんが、その他の講習については自分自身が困ることがないように熟慮して受講していただくことをお願いします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年9月3日掲載

資格を維持する・・・  

 少し妙なタイトルだと思われるかもしれませんが、先月のメッセージのなかで、私たちが置かれている状況を正しく理解しておかないとせっかく取得した大切な資格を失ってしまうかもしれない、、、と書いたことについて、少し書き添えてみたいと思います。
■建築士法改正
 建築に携わる者の一人として、建築基準法や建築士法が改正されたことをご存知ない方はいないと思います。改正された内容を周知するために、幾度となく講習会が開催されました。しかし、重要事項説明などの業務上の手続きに関する部分等が強調されていたためでしょうか、懲戒や罰則については十分な理解がなされていないのかもしれないと思っています。建築士免許証明書申請や定期講習受講の極めて低調な現状を見ていると、そうしたことを強く実感してしまうのです。
 建築士法第10条には、懲戒に関する記載があります。また第38条から44条に渡って罰則が定められています。
 構造計算書の偽造事件以来、私たちの資格は「業務独占」等と言われることが多いのですが、私は、資格の本来の意義は「資質証明」あるいは「資質保証」であると思っています。資格というのは、専門家として訓練された者だけに許される社会的に高い価値を有するものであることを再認識していただきたいと思います。現状では、一度取得した資格は生涯失効することがないという状況ではなくなり、罰金に加えて業務停止や免許取消等の処分を受けかねないということを合わせて認識しておいていただきたいと思います。
■定期講習
 建築士法第22条の2には、建築士事務所に所属する建築士は法によって定める期間ごとに登録講習機関が行なう定期講習を受けなければならない、という内容の記載があります。定期講習を受けない場合も懲戒の対象となってきます。いきなり免許取消というわけではありませんが、知らなかったとか失念していたというようなことでは困ります。
 建築士会では、この定期講習を企画し、会員の皆さんにお知らせをしておりますが、3年間という期限が迫っていないという意識であるのか、あるいは受講義務を知らないのかは定かではありませんが、申込はかなり鈍い状況です。他県でも同じような状況のようですが、期限が来たときに急に申込をされても会場のキャパシティの関係などで受講できない可能性があります。私たちが今から心配しているのは、こうした事態についてです。余計なお世話のように感じる方々もおられると思いますが、早いタイミングでの受講をお勧めしておきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年8月12日掲載

ホームページのバトンタッチ  

■経緯と御礼
 4年前のこと。やっとのことでホームページ作成ソフトの操作を覚え、自分自身のホームページを細々と運営してきた者が、長野県建築士会の公式ホームページを担当することになりました。その当時はCPD制度と専攻建築士制度の内容を多くの会員に知ってもらうという大きな命題があったので、一ヶ月ほどで全面的なリニューアルを実行しました。
 ホームページを運営する上で最も大切なことは、どんなコンテンツ構成にするかということと、できるだけフレッシュな情報を早いタイミングでアップするということに尽きると思います。構造計算書の偽造事件に端を発した法制度改革はあれよあれよという間に進行し、知りたい情報・知らせたい情報には事欠きませんでした。行く先々で撮った写真も予想以上に反響があって、大変多くの方々に親しんでもらったように感じています。4年間に渡って運営を担当させていただいたことを誇りにしたいと思っています。長い間支えていただき、ありがとうございました。この場をお借りしてあつく御礼申し上げます。
 このたびようやく念願かなって後任の担当者が決まり、バトンタッチをいたしました。引き続き、長野県建築士会のホームページをご活用くださいますようお願い申し上げます。
■情報化時代の生き方
 日々マスコミ等から発信される大量の情報が情報化時代を象徴しているように見えるかもしれませんが、そうした状況は情報の流通劇場(或いはマーケット)を客席から傍観しているのと同じです。私たちの前に提供されてくる数限りない情報は利用可能な情報であるに過ぎず、私たちは無意識にそこから自分に必要な情報を選択しているのです。情報化時代における情報と私たちの関係はとてもパーソナルな関係であると言えます。自身で主体的に情報を求めていかないと必要な情報は得られないというのが、情報化時代の特性の一つだと思います。情報に対するそうした心構えや意識は、CPDの発想にもつながるものだと思いますが、いわゆるひとつの自己責任であると言ってもよいだろうと思います。
 昨年末までに建築基準法・建築士法などの内容が大幅に変わりましたが、建築士にとって必須の情報であるにも関わらず、未だ十分な理解が行き届いていないのではないかと少し気になり始めています。法に定められたことを怠ると罰則や懲戒処分によってせっかく取得した資格を失う可能性もありますので、大切な資格を維持していくためにも必要な情報知識を正確にストックしておくよう留意していただきたいと思います。
 というわけで、長野県建築士会のホームページも求められる情報提供を目指して、より充実した内容になるように心がけていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年7月12日掲載

考動する建築士

 私たちは今、大きな岐路に立っていると言ってよいと思います。これからの建築士会活動にあたって考えておきたいことをまとめてみたいと思います。
■建築士会の現状について
 まず最初に、私たちの組織が今どのような状況にあるのかについて理解していただきたいと思います。
 ○組織基盤の状況
  ・会員数 長野県建築士会の会員数の推移を見ると、10年前時点と比べ約1000人の減少となっています(今年度期首段階で3406名)。連合会においても全国会員総数が10万人を割ったと聞きました。退会される原因は、高齢化や企業経営不振などが目立つようです。また入会者が増加しない原因としては、建築士の合格者数の減少と若年層の組織離れが考えられます。抽象的なメリット論で入会に結びつくことは少ないと思われますので、具体的な動機付け(他県では合格祝賀会に招待したり講習会費を減免している場合もある)が必要なのかもしれません。入会を促進する一方で退会を抑えることも必要になっていると思います。
  ・財政 会員数の減少は財政の基盤である会費収入の減少に直結します。建築士会館も空室のため収益が減っています。近年は講習会による収入などで辛うじてバランスを保っている状況で、慢性的に厳しい運営を余儀なくされています。基盤収入を安定させる方策が必要になってきているように感じています。
 ○社会的存在意義の拡大
  ・指定登録機関 建築士法が改正され、建築士の登録関連事務を担当するようになりました。従前は行政機関が行なっていた業務を引き継ぐわけですから、その扱いについて細心の注意が求められ、重大な社会的責任を負うことになりました。建築士免許証明書を携帯しなければならなくなった現状などに対応して業務が徐々に拡大することになると予想されます。現在、登録事務の出張受付(交付)も随時開催していますのでご利用いただきたいと思います。
  ・行政(長野県)業務入札総合評価方式における建築士会CPD実績評価 建築士の自助努力の表現としてのCPD制度の社会的有効性を確立する第一歩として、総合評価方式におけるCPD実績の加点が認められるようになりました。CPD制度への参加は会員の自由意志となっていますが、このことを契機としてCPD制度への参加を拡大し制度自体の価値を高めなければならないだろうと思われます。
■行動指標について
 上記のような現状に対して、私たちはどのような姿勢で活動していけばよいのかについて理解していただきたいと思います。
 ○「考動する建築士」になろう
  ・資格と信用 今や建築士は実に様々な努力を要請されています。資格を維持すること、資質を高めること、ミスのない業務を遂行すること、地域社会のために専門知識を活かすことなどを心がけていかなければならないと考えると、気を緩める暇もありません。私たちは自分の置かれている状況と進むべき方向について慎重に考え、主体的に動かなければ、資格者としての役割を果たし信頼を獲得していくことができなくなると思われます。私たちは意識変革を求められているのです。
  ・仲間づくりと成長 建築士に限らず何かを創造しようとする人は自分自身の成長を心がけていると思います。そのために読書や見学などの学習を積み重ねていくのだと思いますが、そうした地道な努力に加え、仲間を増やすことはより有益な手段だと思います。若年層の組織離れは幼い頃からの生活スタイルの中で身についていることなのだろうと思いますが、建築士同士の出逢いは成長につながる刺激に富んだ体験だということを知ってほしいと思います。また会員外の人たちにその魅力を知らせることも必要だと思います。
 ○建築士会の未来を考えよう
  ・地域貢献 これまでの私たちの活動においては自己研鑽と親睦が中心になっていました。会員になることによって自分にプラスになるものを受け取りたいという所属意識がメリットの有無という理屈を導いていたと思います。しかしこれからは、地域に対する貢献奉仕が求められてくるのは確実な方向性だと思われます。ということは、自分が受け取るということではなくむしろ自分から提供するという姿勢が必要だということになります。組織の体質転換のために一人ひとりの意識変革が求められているということがわかると思います。
 ・柔軟な組織 少子高齢化や環境対策などが大きな話題になり、建築に対する需要の状況は大きく変わりつつあります。大きな異変でも起こらない限り社会のニーズは縮小していく流れの中にあります。また、急激な制度変化の直後ではありますが、建築士や団体組織に係わる制度がさらに変更修正されていくかもしれません。建築士に求められることもそれに伴うことになると思われますし、団体としての体制や活動のあり方も変容していくことになるかもしれません。私たちはつねに周囲の状況変化に対して俊敏に反応できるように備えていなければならないでしょう。
■当面の課題
 ○新公益法人制度改革への対応
  新公益法人制度改革が進められる中で、長野県建築士会は「公益社団法人」として公益性のある活動に積極的に取り組んでいくのか、或いは「一般社団法人」として建築士同士の活動を主軸にしていくのか、ということを自分たちで判断しなければならない状況に置かれています。このことについては、これまで組織運営検討特別委員会によって調査研究が行われてきました。しかし、内容面でまだ不確定な部分も多く、継続的な研究課題となっているものです。5年後に新たな法人組織運営をスタートさせるというスケジュールだけは確定事項となっていますが、できるだけ早いタイミングで方向性を出していかなければならなくなると予想されます。引続き同委員会を中心に検討を進めますが、本会と支部の関係や運営の根幹に関わる悩ましい問題も含まれているようですので、会員各位の率直なご意見をお聞きしつつ方向を集約していきたいと考えています。
 ○元気を出して
  建築士を取り巻く環境はすっかり閉塞的なイメージになってしまいました。確かに定められた法制度には従わなければなりませんが、そのために萎縮してしまってはならないと思っています。建築士の仕事は依然として夢を創造する大切な仕事であることに変わりはないはずです。いつも明るい気持ちを持ち続けたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2009年7月1日掲載

就任にあたって  

■就任あいさつ
 去る5月30日(土)に波田町アクトホールにて開催された第59回通常総会において第12代会長に選任されました。どうぞよろしくお願いいたします。出澤前会長は、構造計算書の偽造事件に端を発する激動の法制度改革を受け止めながらも見事に組織を運営してこられました。その堅実な運営を継承するというだけでも十分な緊張を覚えますが、加えて空前の不景気状況や差し迫っている懸案事項のことを思うと強い重圧を感じます。
■課題1 公益法人制度改革について
 建築士会にとって現段階での最大の課題は、新公益法人制度改革への対応ということに尽きると思います。具体的に言うと、公益法人法の改正に伴って、これからの建築士会は「公益社団法人」として公益性のある活動に積極的に取り組んでいくのか、「一般社団法人」として建築士同士の活動を続けていくのか、ということを自分たちで判断しなければならないということです。この件については、これまで組織運営検討特別委員会によって調査研究が行われてきました。しかし、内容面でまだ不確定な部分も多く、継続的な研究課題となっているものです。5年後に新たな法人組織運営をスタートさせるというスケジュールだけは確定事項となっていますが、できるだけ早いタイミングで方向性についての結論を出していかなければならなくなると予想されます。引続き同委員会を中心に検討を進めますが、本会と支部の関係や運営の根幹に関わる悩ましい問題も含まれているようですので、会員各位の率直なご意見をお聞きしつつ方向を集約していきたいと考えています。
■課題2 対外的な活動について
 建築士法が改められたのに伴って、「建築士のための定期講習」や「すべての建築士のための総合研修」などを定常的に推進していかなければなりません。指定登録機関に指定されたことによる建築士の登録に関する業務もスタートしています。CPD制度も行政(長野県)業務受注にあたっての評価項目のひとつに加えられるようになりましたし、景観法に基づく景観整備機構についても各景観行政団体から順次指定を受けています。今や建築士会は自己研鑽や親睦といった仲間同士のコミュニケーション団体という域を超えて、非常に社会性の強い体質に変貌してきています。組織としてとても大きな責任を背負うようになったということを、会員一人ひとりが改めて自覚していかなければなりません。資格委員会を常設化したのはこういった背景があるためです。社会貢献委員会の活動においても、建築士に対して地域社会が何を期待しているのかを探ってみたいと思っています。

(社)長野県建築士会:「ホームページ会長メッセージ」2009年6月5日掲載

就任あいさつ

 このたび第59回通常総会席上におきまして、(社) 長野県建築士会の第12代会長に選任されました。どうぞよろしくお願いいたします。
 出澤前会長は、誰も予想していなかった建築関係法制度改革という空前の厳しい状況に翻弄されながらも、私たちの組織を少しも脇へ逸れさせずに着実に前進させて来られたと言ってよいと思います。その堅実な運営を引き継ぐということで、強い緊張感を覚えているところです。今後も新公益法人制度改革への対応といった大きな課題が控えています。このことについては会員の皆様の率直な意見をお聞きする機会も設けていきたいと考えております。会員各位の熱いご理解とご協力をお願い申し上げ、就任のご挨拶とさせていただきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2009年6月1日掲載

改正建築士法を読みましょう・・・

 構造計算書の偽造事件以後、建築基準法・建築士法が大きく変わりました。国民を守るために事件の再発を防止するという一大目標を掲げて「改正」された法律の内容は、建築士のプライドを足元から崩したと言ってよいほど厳しいものであったと思います。その後食品分野等でも発覚した偽装事件を見るまでもなく、どの分野にも“善良”から“悪質”まで大きな質の開きがあるのは残念ながら厳然たる現実なのだと思います。どこにいるかわからない“悪質”を取り締まるための法律というものは、すべての人(ここでは建築士)を監視せざるをえないという側面があります。
 新しい建築士法は、資格を規定する法律という従来の性格にとどまらなくなりました。例えて言えば、道路交通法と同じような取締りのための法律あるいは責任を特定するための法律という様相を強く帯びたものになりました。このところ頻繁に開催されている講習会では、変更追加された法文について詳しく説明が行なわれています。私もそうした際の講師の役目を負う立場となっていますが、私がいつも壇上から申し上げているのは、「建築士法」を最初から最後まで読んでみてください、、、ということです。その理由は、そこに書かれていることが十分に理解されているとは言い難いという実感があるためです。建築士が受講しなければならない講習会のことや契約に付随した説明義務などの業務に伴う重要な内容についてすらまだまだ浸透していないように感じています。建築士が死亡した際には相続人が届出なければならないことを知らない人もいたりします。この法律に書かれている内容を知らないでいたり忘れていたりすることは、建築士にとって今や命取りとなりかねないものとなっています。決められたことを怠った場合には懲戒処分が定められており、業務停止から資格停止までの処分を受けることとなります。「転ばぬ先の杖」の例えの通りです。
 私からこのようなことを申し上げるのは大変僭越なことだと承知していますが、まずは法律を守らなければなりません。机上の法律に現場の実情を反映してもらうのは、少し先のことになることでしょう。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:かすがい2009年3月31日掲載

建築士会CPD制度・専攻建築士制度の経過と実状ついて

 (社)日本建築士会連合会の提唱によるCPD(継続能力開発)制度及び専攻建築士制度の源流は、澤田会長当時の「新しい建築士像」にあると言ってよいのではないかと思う。当初私たちがその言葉を耳にした時には、これから模索していこうという段階で、あまり具体的なイメージやビジョンはなかったと記憶しているが、建築士を取り巻く社会背景が変化していることへの反応として時宜を得たものであったと思い返すことができる。
 日本の戦後経済は高度経済成長を経てバブル崩壊に至ったが、実は、建築士の歩みはその誕生時点から経済の隆盛とぴったり符号している。いま、建築士を取り巻く業務環境においては、成熟化した社会情勢を反映して様々な変化が起きている。例を挙げれば、
 ・建築士数が増大し、社会の要請を満たして余るようになった
 ・建築物のスペックが多様化複雑化し、構造・設備をはじめ様々な専門分野の人の関与が必要とされる場面が増えてきた
 ・交通や通信の世界における急速なイノベーション(技術革新)に伴って、建築設計活動のテリトリーも日本国内にとどまらず世界に拡大してきた  等々
 こうした動向に対して、わが国の建築士資格制度は制定されて以降格別な変化もなく、すでに実態を表さないものとなってしまっていた。制度見直しの動きは建築家協会、建築士会等の団体から始まった。日本の建築士制度は設計と施工を分離しきっていないという独自性において海外の建築家資格の内容と大きな相違があることも次第に浮き彫りになってきたが、だからと言って日本の建築士制度を一挙に転換するということも易々と実現できるわけではない。そこで、海外でも通用するAPEC要請等に対応する動きが出てくる一方で、日本の建設界の実状により相応しい制度を模索する方向も出てきた。CPD制度は海外の制度の中で行われている自己研修制度を採用したものであり、専攻建築士制度は日本の建築士をそれぞれが携わっている業務の分野に合わせて分類整理を試みたものととらえることができる。斯くして「新しい建築士像」は、社会から信頼され必要とされる専門資格者ということになった。建築士会にとっては、団体の存立基盤である現行建築士制度の有意義性を高めつつ、社会との連携を強化する戦略として位置づけられるものとなった。
 連合会の主導によって推進されてきたこれらの制度を、長野県建築士会がどのように受け止めていくのかについては議論が繰り広げられた。筆者は当時、その制度の意義を認めつつも、「専攻建築士制度とCPD制度を一体化するのは便宜的すぎる」等々の独自の解釈をしていた立場なので、ここでは深く言及することは控えておきたいところだが、「もう少し地方の実態を見据えてほしい」という思いは、今も変わらぬところではある。
 その後、連合会方式の制度導入に向けた特別委員会が設置されて、南安曇支部の岡江委員長、当支部の林辺委員長が推進役となって準備が整えられ、平成17年4月から本格的なスタートとなった。CPD制度の実施にあたって、長野県では支部活動中心の独自状況に対応すべく、連合会による事業本位性のバーコード方式を採用せず、独自に自分本位性のQRCコード方式を採用した経過があるが、この自分本位性の採用の決断は今むしろ注目を集めており、その先見の明を自負してよいと思う。
 二つの制度は、スタートしてからは順調に推移していると言える。現在の時点で3年目になるが、参加者数も年々伸びており、これからいよいよ社会に向けて認知を得られるようにアピールしていこうという段階まできた、というのが実感である。特に、長野支部の会員の積極的な制度参加は県全体の牽引力になっていると考えられる。私の持論では、CPD制度はすべての有資格者にとって義務に近いものと考えており、今後もより多くの方々に自己研鑽に取り組んでいただきたいと強く願っているところである。
 この間に発生した構造計算書の偽造事件によって、不変だった建築士法が突然大きく変貌することとなった。施政側からも専門分野へ視線が注がれ、構造設計一級建築士や設備設計一級建築士が法定化されるに至った。これも一歩の前進であると解釈することもできるが、私たちの目標は「社会に受け入れられる建築士像」を確立することであると考えれば、まだまだ課題は山積みであるとも言えよう。これからは、制度の普及に加えて、制度の内容の精査や充実向上が求められてくる、ということを私たちは認識しておかなければならない。 

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」200号2008年9月1日掲載

平成19年度の活動について

 ここまでの活動を振り返ってみると、講習会ばかりが思い起こされます。なんと言っても、改正建築基準法の内容や手続きに関連したものが多かったわけですが、他団体との共催や行政主催のものまで含めて、支部活動に関連したものは十回余になります。
 ・4月20日         長野市建築基準法関係法令及び要綱集改正等講習会(建築士会、防災協会、住宅センターと共催)
 ・5月29日午前・午後  改正建築士法・改正建築基準法講習会(建築士会と共催)
 ・6月14日午前・午後  建築基準法等の改正政省令、指針、建築物の安全安心確保の推進講習会(建築士会、防災協会と共催)
 ・10月23日午前・午後 改正建築基準法の確認申請手続き等説明会(地方事務所)
 ・10月24日午前      同上
 ・11月1日         長野市景観計画・確認申請構造計算適合性判定等の講習会(建築士会、防災協会と共催)
 ・11月13日        長野県木造住宅耐震診断実務講習会(長野県木造住宅耐震診断推進協議会)
 ・11月16日        構造計算適合判定機関の指導指針  支部技術講習会
 ・12月26日        建築確認手続きの円滑化に係る対策等講習会(長野県住宅部)
 どれも関心の高い内容でしたので、大変大勢の方々に受講していただきました。この他にも商品説明会、中越沖地震後の住宅相談対応、建築士事務所キャンペーン+e-NAGANOフェスタ協力などがあり、集まる機会の多い年でした。
 3月には久々に、千葉県幕張~木更津~東京都内方面に研修旅行を行いました。最後まで、例を見ない多忙な一年であったと感じています。

(社)長野県建築士事務所協会:「しなの」2008年4月掲載

厳格化の影響

 新年あけましておめでとうございます
 ここ数年間、経済不況という寒風の中で年頭の祝賀挨拶にも何かしら力がこもらないと感じていたのですが、今年はそれ以上に晴れやかな気分が希薄なのではないかと思います。その原因は言うまでもなく、建築基準法の改正に伴う厳格化や着工停滞といった厳しい現実にあります。
 今回の一連の法改正を総括してみると、目的は地震時における建物の被災防止、目標は責任を負うべき建築士の特定化、方法は建築士の資格及び確認申請手続きの厳格化ということになるのではないかと思います。その動機と目的ゆえ誰もが甘んじて受け止めざるを得ないのですが、実務に対して想像以上の影響と混乱を招くに至っています。円滑化という後追い対策が発表されているものの未だ混乱は収まらず、建前的な机上の理論だけでは事態は硬直化するばかりだという気がしています。設計作業や建設現場の最前線に要求される臨機応変な対応をある程度まで広く許容しない限り、現状を打開することはできないのではないかと思います。
 こうした激動状況を受けて、実は昨年の当支部の活動はいつになく忙しいものとなりました。通常の事業に加えて法規講習会等が何度か実施されました。また木造住宅の耐震診断も急激に増えて多くの方々に協力をいただきました。本会関連で、中越沖地震に伴う住宅相談や建築士事務所キャンペーン+e-NAGANOフェスタにも協力してきました。その都度多くの方々にご尽力をいただいて感謝に耐えません。この後も懸案の研修旅行の企画を進めていますので、その節には積極的にご参加いただきたいと思います。
 今後、建築士法や業務報酬規定なども改正されて引き続き慌しくなると考えられますが、こうした際にこそ前向きに協会の事業に関心を持っていただきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:かすがい2008年1月30日掲載

現実離れした改正建築基準法

 新春のお喜びを申し上げます。
 通例であれば、ここで新年の抱負や期待等を述べるべきところかと思いますが、建築設計実務の最前線にいる私たちにとって、改正建築基準法の施行に伴う業務停滞は過ぎ去った年の話では済まされないというのが実情です。それどころか、この年においても最大の課題であり続けるだろうと予想されますし、これから更に建築士法の改正情報等が加わってくることを考えると、なんとも頭の痛くなるような年頭です。
 今回の法改正は、その動機を考えると早急に対処する必要性があったと認めますが、空前の大規模改正の割にはあまりにも性急であったと受け止めざるをえません。度々講習会が開催されましたが、そう簡単に浸透するとは思えませんし、その後も、円滑な運営のためと称して朝令暮改のごとき修正が続いているため、混乱は倍加するばかりです。
 今わが国の社会秩序が責任転嫁型から当事者責任型に移し変えられようとしていること等の背景も考え合せれば今回の改正が目論んでいる方向性も理解できないことではありません。しかし、ただただ残念なのは、厳格化の内容がきわめて形式的な理念形でしかなかったという点です。建設実務の実態を全くと言っていいほど反映していない現実離れしたシステムである、と評価せざるをえないと思います。すべての実務者にとってなんともやり切れない思いを与えるものになっている、とあえて断言してもよいと思います。パソコンに例えれば、パソコンのことはよくわからないがとにかくセキュリティレベルを最高に高くしておけば安心だというような安直な発想で、個別にウィルスを駆除する方法はいくらでもあるということに意を払っていない、というようなものではないかと思います。設計者は、まるで腕の悪いハッカーのように適合性判定というファイアウォールを目の前にしてうろうろと思いを巡らせながら手探りで設計を進めなければならない状況ですし、施工現場においても不経済を承知でかたくなに設計図通りに作業を進めるしかないという国家経済に影響を及ぼすほどの不合理な状況が拡大しつつあります。現在の状況は、国民であれ実務者であれ行政であれ、誰にとっても全くメリットがないと言っても過言ではないと思われます。厳格化という言葉に振り回されて国家経済が硬直停滞疲弊してしまうことが本意であろうはずはありませんから、実務現場の声を反映した適切な修正を早急に検討して、より洗練された法律としていただくことを強く望みたいと思います。
 昨年は建築界だけでなく、食品製造界においても多くの“ごまかし”が発覚しました。法改正というものは、こういった状況に対する対策として再発防止を目的とします。建築士法の改正においても不心得者を取り締まることに法の重心が移るはずです。しかし、こうした状況追随型の発想だと、なぜ偽装が起きたのかといった社会に潜んでいる問題の本質的な解決はなされていかないのではないかという気がします。問題は実務者だけではなく、行政や国民自身にも深く潜んでいると思われます。そろそろそうしたところに気付いていかないと、新しい自己責任型日本社会の確立は難しいのではないか、と思います。

㈱長野経済新聞社:長野経済新聞2008年1月5日掲載

平成18年度の活動について

 長野支部の最も華々しい事業は毎年年頭に実施される「新春名刺交歓会」(1月10日メルパルクNAGANO)です。他団体も合同で開催しており、正会員・賛助会員等合わせて200名程の関係者が一堂に会します。今年は初めて、鷲沢長野市長や柳澤県建築設計事務所協会長にも出席していただくことができ、盛大で熱気あふれる集まりになりました。
 会員の研修的な活動として実施しているのは、恒例となっている技術交流会や賛助会員企業による商品説明会などです。今年の技術交流会(11月29日若里市民文化ホール)は前橋工科大学の信澤宏由教授をお招きして「コンクリートメーソンリー建築」についてのお話をお聞きする機会を得ました。日頃接することの少ない建築構造ですが、基準が変わり地震にも強いタイプについて解説していただきました。同時に開催した商品説明会では、最近話題になっている外断熱製品等の説明がありました。この説明会は毎回二社程度に限定し、密度の高い説明をきくことができるようにしているところが特徴ではないかと思っています。コンピューターがあればどんな情報でもとることができると思いがちですが、目の前で詳しく聞くことは重要なことだと思います。
 対外的な活動として無料住宅相談を行っていますが、昨年秋からは長野市の消費者センター事業の一環としての住宅相談に対して相談員を派遣する形で協力しています。

(社)長野県建築士事務所協会:「しなの」2007年4月掲載

信頼回復へ さらに体質改善へ

 謹んで新年のお喜びを申し上げます。
 姉歯元建築士らによる数多くのマンション・ホテルの耐震偽装が発覚し社会問題化してから1年少々が過ぎました。これに対応した法制度改定への取り組みは、予想外の勢いで進められました。社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会を軸に検討が進められ、建築設計事務所協会をはじめとした設計関連団体への意見聴取及び各団体からの要望提出などの応酬が急ピッチで繰り返されました。国のスタンスは建築物の安全性確保と建築士制度に対する国民の信頼回復という大義名分なので、最終的な改正建築士法の中で団体側の懸案事項的な主張や要望のすべてが実現したわけではありませんが、
 ・建築士事務所協会の法定団体化
   建築士事務所の登録更新事務及び社会への閲覧提供(指定登録法人制度)
   建築士事務所所属建築士に対する定期講習の実施
   建築主等からの苦情処理
 ・管理建築士の要件強化
   実務経験等の要件付加
などが私たちの団体に関連した事項として組み入れられました。その他にも、
 ・建築士試験の受験資格の見直し
 ・高度な専門能力を有する建築士=構造設計一級建築士・設備設計一級建築士
 ・アカウンタビリティ(説明責任)の義務化
などの大きな変化が起きることになりました。
 また、建築基準法の改正においてもすでに罰則強化が示されていますが、続けて構造計算基準やプログラムの見直し、構造計算適合判定機関を加えた構造チェックシステムなどが具体的に検討されているところです。
 現段階では、政省令レベルの詳細な内容が見えてこないので、具体的にどのような状況になっていくのかは不明ですが、私たちがそれぞれの事務所の立場においても団体の立場においても足元から体制再固めをしなければならないのは必至です。個人的な見解をお許しいただければ、急を極めた今回の一連の法制度改正が、施工まで含めたトータルな視野からの根本的な問題解決になっていないこと、実態に合わない形式論的な部分が散見されること、行政の責任が依然として明確でないことなど不満を感じる部分も多々あるのですが、それはともあれ様々な視点から自身を見直すよい機会にはちがいありません。
 考えるまでもなく与えられた仕事を正確に遂行することは当たり前のことですが、日本人の甘えの体質や規制緩和などの動きが今回のような最悪の状況を引き起こしてしまったのではないかと思います。そう考えるとこうした状況が起きる可能性は設計業界内にとどまらないと思われます。責任を他人に転嫁して済ませる体質を脱却し、国民一人ひとりが自己責任という体質を身に付けていくきっかけになることを念願して止みません。
 この年の皆様のご活躍を祈念申し上げ、年頭のご挨拶にかえさせていただきます。

(社)長野県建築設計事務所協会長野支部:「かすがい」2007年1月  日掲載

新しいスタートの年

 謹んで新春のお喜びを申し上げます。
 過ぎし年を振り返ってみると、設計関連の当事者である私たちにとっては建築士に関する法制度が制定されて以来の大激震の年であったと感じています。日本中を不安と不信と怒りで覆い尽くした構造計算書の偽造事件は、そもそも一部の建築士やデベロッパー等の不誠実な行為に端を発したことですが、結果的に、建築確認申請のチェックシステムも含めて、関連団体からの要請にも拘わらず制定以来なかなか動じなかった建築士制度が国の主導によって大きくしかも予想を超えた迅速さで変わることになりました。
 建築基準法にせよ建築士法にせよ改正された法律は、建築のプロフェッショナルとしての建築士がそれぞれ担当している業務分野に対して強い責任を持つことを求めています(担当行政が事件に対して何ら明確な責任をとっていないことに対する強い不満の声も聞かれます)。それと同時に建築士事務所協会に対しても法的な存在根拠が与えられ、団体として新たに重大な使命と責任を負うことになってきます。私たちの団体は、これまで同業者の集団として業務を取り巻く諸問題の解決に向けて活動努力してきたわけですが、今後は建築士事務所登録更新手続きや建築士事務所の情報管理・閲覧などの大変重要な事務処理に取り組んでいかなくてはならなくなりました。現時点では、具体的にどのようなことをしなければならないのかについては何もわかっていませんが、(社)日本建築士事務所協会連合会や長野県本会のみならず各支部の運営においても、同調した新しい取組みが発生する可能性があろうかと思われます。建築設計事務所協会(建築士事務所協会に再変更予定)にとっては、新しい歩みのスタートの年になるのだろうと思います。体質、組織、活動、管理などに及ぶ全面的な見直しが必要になってくるのではないかと思います。
 私たちの団体は耐震偽装事件以前から、社会に貢献する開かれた組織であるための改革を進めてきました。情報提供の推進、研修機会の拡大、CPD制度の導入などがすでに実現されてきています。支部レベルではたやすくない実情もありますが、木造住宅の耐震診断業務への取組みや長野市における住宅相談窓口への協力なども積極的に行っています。組織内部の倫理意識向上への努力も含めて、社会に対するより一層のイメージ向上に努めていきたいと思います。皆様からのご支援をお願いすることにあわせて、本年が皆様にとってよい年になるよう心より祈念申し上げ、年頭のご挨拶にかえさせていただきます。

㈱長野経済新聞社:「長野経済新聞」2007年1月5日掲載

建築士の行方

 昨年末の構造計算書偽造事件が起きて以来、同資格者による社会に対する不始末の後処理の第一歩として、私たちは自ら毅然として業務に臨まなくてはならないと襟を正したものでした。ただ、社会はそうした精神的自省だけで納得するものではありませんので、行政による法制度の改定が進められ、このほど最終的な答申案がまとめられました。
 答申をまとめるプロセスにあっては建築関係団体などの意見を聴取したものの、今回の答申検討にあたってはあくまでも消費者としての国民が納得できるものを目指したと見ることができます。したがって、各団体からの意見や要望の反映について一喜一憂しても仕方がないように思っています。
 資格に直結した部分における答申案と現行制度との最大の違いは、建築士の専門能力に関する部分です。発端が構造計算書の偽造ということでしたので当然の帰結とも言えることですが、一定規模以上の業務の遂行にあたっては構造・設備に関する高度な知識や技能を持った専門技術者の関与を明確にしなければならなくなります。この点に関して、答申案は素案の時点から大きく変わっています。素案ではレベルアップと称して格上の建築士(講習と修了考査あり)資格が提案されその中に構造・設備の資格者が位置づけられていましたが、答申案では既存建築士の枠内での上乗せとして位置づけられおり、建築士会による専攻建築士制度に通じるものとなっています。ただ、設備専門技術者について構造専門技術者と同格に論じられていることは、法律学者的な解釈による理念形として理解することはできてもやや非現実的な印象を免れない(設備専門技術者の多くは電気・機械分野からの参入であり建築士を兼得している者はきわめて少ないことや他の分野に比して広い習得範囲や経験が要求され相当な難関レベルになることなど)ものとなっていることも事実です。
 これまで陽の目を見なかった専門技術者の存在を浮上させることは建築士事務所から発注者に向けた情報開示や説明責任の一環と考えることができますから、設計に対する安心を回復する方法の一つになると思われます。ただ、現状では資格は信頼獲得要因というよりも単なる業務独占要因であり、法的適合性の信頼を担保するものは資格よりも確認申請に負っているのが実情です。その確認申請をチェックする側の体制や資質も今回の事件の一面でありましたが、この点に関する対策は答申案の中では簡単に触れる程度になっています。
 今回の答申案を総括すると、建築士の職務を「設計・監理と施工」あるいは「意匠と構造と設備」などに細分化することによってそれぞれの職能を国民の前に公開するという側面と、同時に責任の所在を明確にするということになるのだろうと思います。これは建築基準法の罰則強化に並行して、トラブル発生時の取締的な性格を強めたものと解釈することができますが、建築物の安全性確保という根源的な命題に対してはあくまでも対症療法的対策であり、本質的で必要十分な対策とは言えないという気もしています。資格者はあくまでも技術の範囲でしか責任を負うことはできません。ビジネスの中では経営者や発注者の意向や指示に従わなくてはならないケースもあるはずです。資格者の社会的な権威の確立と日本国民に巣食っている「自分だけは・・」、「これぐらいなら・・」、「最後はだれかが責任をとってくれる」といった甘えの体質から自己責任の体質への転換が必要な時がやってきたとつくづく思ってしまいます。
 今後、法律レベルの改定に関しては、この答申に沿って進められることになります。これからは、政省令レベルの議論にシフトしていきますので、引き続き意見や要望を提出していく必要があります。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2006年10月1日掲載

デジタル地盤データ集 手づくり奮戦記

 IT化というとインターネットとかLANとか電子メールといったような電子的な情報交換に関する環境整備を思い起こす人が多いと思われますが、今回はやや趣をかえて建築士会の会員が自ら取り組んだデジタル情報ソース作成事例を紹介したいと思います。

 (社)長野県建築士会長野支部では、このたびCD-ROM版の地盤データ集「長野市地盤データ集2003年版」を作成しました。これをあえて紹介する理由は、このCD-ROMに納められた地盤データ(ボーリング調査による柱状図)の表示方法がユニークであるという点にあります。つまり、デジタル画像(あるいは写真)化した地盤データをリストインデックスから探し出して一つづつディスプレイに表示するという印刷書籍風な表示ではなく、ブラウザによってマップインデックスと地盤データを瞬間的に切り替えたり重ねたりしながら表示できるというデジタルならではの爽快な操作感を味わえるものになっています。インターネット上でデモを体験することができますが、ここではその作成の様子などをお知らせしてみようと思います。
■過去
 長野県には、(社)長野県建築士会が昭和48年(1973年)に発刊した「長野市地盤図」という書籍がありました。長野市の地盤状況についての解説やボーリングデータ(柱状図)などを掲載しており、内容も体裁も立派なものでした。建築士にとっては重宝なものであったにちがいありませんが、さすがに今では伝説的な存在になってしまいました。なかには大切に保管している人もいるようですが、現時点での実用性を考えればやはり物足りなさを感じてしまうのは仕方のないことだと思います。
■動機
 それから約30年経過した今日、欠陥住宅を始めとした建設界の一部関係者による杜撰な実態が社会的な問題となり、建設界に対する社会からの要請や評価はシビアになりつつあります。建築士事務所・建設会社などの業務責任や建築士のモラルなどについて追及される事態も発生しています。こうした情況に対するリアクションとして「住宅の品質確保促進に関する法律」なども制定されてきました。
 私が(社)長野県建築士会長野支部長に選任されたとき、近年増加しているとされている地盤や基礎に関するトラブルを少しでも回避できるようにするために、かつての「長野市地盤図」の改訂版を発刊できないものかと考えました。しかしそのためにはかなりの労力と費用が必要であるということが容易に予測できましたので、ずっと躊躇していました。支部の役員や理事たちに気持ちを伝えて2003年度の支部事業計画のひとつに「長野市地盤データ集」の作成を掲げた時点でも、予算や方法などの具体的な方策はなにも考えられず、内心不安を抱えたままの状態でした。
■行動開始
 具体化への第一歩として、まず意匠設計者・構造設計者・施工者・地質調査者などによる分野混成の特別委員会を構成し、利用者としての立場も兼ねて自由に意見を述べあってもらいました。
 最初のうちは、データをどうやって収集すればよいか?印刷書籍化するのかそれともデジタルデータ化するのか?等々について議論が行われました。ボーリングデータの収集についてはデータを蓄積している行政や公共的な機関に依頼して提供してもらうことにしました。収集してみるとそれだけでも約400箇所、約900データになることがわかりましたので、2003年版としてはこれらをすべて掲載するということになりました。そして、現在あるいは今後の設計環境の流れを考慮してパソコン環境下での作業に対応しやすいCD-ROMに納めることに決定しました。
 また、作成のために準備できる費用がまったくないことに対する対策も検討しました。当然のことながら、外部の専門業者などに依頼するというような安直な発想は許されませんでした。結果的に、今回の地盤データ集の作成に当たっては委員自らの手で作業を分担することになり、いよいよ作業が開始されました。
■手づくり作業
 収集された柱状図をデジタル画像化するのはよいが、印刷書籍よりも便利且つ合理的に活用できるようにするということが、今回のデジタル地盤データ集作成に当たっての核心的なテーマでした。
 表示方法や操作についての具体的なイメージが最初からあったわけではありませんが、作業を進めていくうちに次第に固まってきました。結局、インデックス用のマップ上にデータのある地点をプロットし、そこをクリックすることによってその地点の柱状図が瞬時に表示できるようにするということになりました。また、実務においては複数の地点の柱状図を比較する必要もあり得るので、ディスプレイ上に複数の地盤データのウィンドウを並べて表示できるようにするということにもなりました。こうしたアイディアを実現するためには、参考事例がないためすべて自ら考えなければなりませんでしたが、幸いなことにデジタルテクニックに精通した当支部の会員たちによって具体化されていきました。市販の表計算ソフト・CADソフト・ブラウザソフトなどを駆使してオリジナルの柱状図を段階的にデジタル加工し、最終的にインターネットエクスプローラーでもネットスケープでも見ることができるようにしました(具体的にどのようにしたかについては企業秘密となっています)。
 各委員は自分の仕事の合間を縫って担当する作業をボランティアで取り組んでくれました。委員会を構成してから約1年間を要しましたが、最終製品化の工程以外はすべて会員の手づくりによって完成したのです。
■まとめ
 この作業は最初から無謀とも言える内容だったと思います。しかし、想像をはるかにこえた会員のアイディアと実行力によって所期の目的を実現することができました。いずれ遠くない時期にデータ数を追加してバージョンアップしていくことも考えられます。また、他地区の地盤データ集の作成を引き受ける(有料)ことも可能だと思われます。
 建築士会活動の大きな目的のひとつに会員同士の親睦があると考えられますが、もうひとつに専門家としての技術の研鑚があると思われます。今回の企画と作業はまさにその部分に当てはまるもので、私たちは意義深い建築士会活動を体験したように思います。
 最後に、この地盤データ集はすでに好評のうちに活用されていますが、まだ若干部数が残っていますので、希望者は下記にお問い合わせください。また、以下のURLからデモを体験していただくことができます。
URL:http://www.nagano-kenchikushikai.org
  名    称:長野市地盤データ集2003年版
  発    行:(社)長野県建築士会長野支部
  連 絡 先:長野市大字鶴賀緑町1613長野市役所建築指導課内
          〒380-8512
  電    話:026-228-6963
  ファクシミリ:026-228-7197
  電子メール:aba-nagano-c@bg.wakwak.com
  頒布価格:9450円/枚(税込価格・但し送料は別途)

(社)日本建築士会連合会:「建築士」2004年7月1日掲載

CPD制度・専攻建築士制度がもたらすもの

 (社)長野県建築士会では、今年元旦からCPD制度(継続能力研修制度)をスタートさせました。連合会方式を元にしているものの一部に特徴的な部分があるため、その経過や特徴や手続などについて県内各支部で説明をしてきました。
■CPD制度の理念
 CPD制度は法律に基づくものではなく、職能団体が提唱して会員のうちの希望者が取り組む自主的な制度です。しかし、この制度の本来の意義は、建築士がその資格に見合った能力や時代に即した資質を維持するために行う自己研鑽努力及びその進捗状況のディスクロージャー(情報公開)をサポートするというところにあります。したがって有資格者は全て取り組むべきであるともいえるほど身近で大切な制度なのです。
 そんなことを言われなくても勉強しているとか、忙しいのでいまさら新しいことに取り組むのは面倒だと思う人もいるかもしれません。わざわざそんなことをして何の役にたつのかと考える人もいると思います。
 しかし、現代の日本は社会システム・ライフスタイル・価値観などの面でアメリカ型化しており、自分を正しく評価してもらうためには、自分自身の能力などを数値化するなどの工夫をして他人にわかるように表現しつつ同時に責任をも担うという考え方が主流です。
 専門家に要求される資質とは、技術面における知識や経験などと、人格面における情熱やモラルなどがあります。建築士が欠陥住宅などによって信頼を損なわないためには、その両面の資質維持がなされなくてはなりませんが、CPD制度は技術面をサポートしています。
■CPD制度の方法
 CPD制度では、自己研鑽努力の結果を、学校教育と同じような「単位」という形に置換して視覚化しています。講習会や見学会に出たり、建築士会の諸活動やまちづくり活動などに参加したり、自習などによって単位を取得できます。
 セミナー開催の専門業者がいて頻繁にセミナーが開催されているというアメリカのような状況はまだ整っていませんが、決して難しくはありません。単位取得の記録をとるという手間だけは新たな努力ですが、自己研鑽のチャンスは身の回りに意外とたくさんあるのです。
 5月末(予定)には、連合会によるeラーニング(有料)が始まります。これは、ホームぺーじからテキストをダウンロードして自分の都合のよい時に見て、確認テストに回答すれば所定の単位を取得できるというシステムです。講習会などの機会が少ない人にお勧めします。
 この制度に取り組むことによって、これまで無頓着だった自己研鑽への意欲が触発されれば制度の意義や効果を実感してもらえます。
 ストックされた単位に応じて認定証が発行されますので、クライアントや第三者に説明や報告をする際に有効活用してください。
■CPD制度がもたらすもの
 社会資本の充足・情報化の拡大・不景気といった状況下での今日の社会情勢は、高度経済成長時代と大きく変わりました。クライアントがイニシアティブをもって建築士を選択する時代です。ですから、この制度によって建築士が自分の有様を正しく表現すれば、相互のニーズが合致してきます。
 これまで建築士事務所や建設会社に対する能力評価は、売上金額や建築士数などの経営規模に基づいていました。しかし、CPD制度によって各建築士の資質がわかれば、ありのままの能力実態に対する評価が行われることも可能になります。
 また、建築士事務所における管理建築士の資格要件についても、経過年数だけでなく研鑽実績によって判断することも可能になると思います。
■CPD制度の今後
 この制度はまだまだ途上のものです。実施しながら修正していくという感覚ですので、地方の声や施工分野の声などを広く反映できるようにしたいと思います。
 文頭で述べた連合会方式と長野県方式の相違の特徴的な部分というのは、単位取得に要する期限にあります。APECなどの水準に附合させるために期限と目標を設けている連合会に対して、長野県では期限を設けていません。その理由は、単位取得の機会に恵まれない会員であっても意欲があるならこの制度に取り組んでほしいと考えたためです。説明会では「ウサギとカメ」に例えて話をしましたが、職場環境に応じてマイペースで研鑽していけばよいという考え方です。これはプライマリーなCPD制度であるといえます。単位取得の機会に比較的恵まれている設計分野の人や雇用側にある人などにとっては影響が少ないと思いますが、時間の融通がしにくい施工分野の人や被雇用側の人にとっては取組みやすいはずです。ただ、これはあくまでもそうした仮説に基づいていることですので、実施してみて大半の人が連合会水準をクリアできるということでしたら、柔軟に再検討する必要があるのかもしれません。
 この制度によって資格や資質に関する責任が全てクリアできるわけではありません。欠陥住宅や違反建築などの温床には、無資格者による業務実態などもあるようです。社会にむけての信頼確立がテーマだとすれば、技術面だけでなく、人格面の資質チェックについても何らかの対応が望まれます。
■専攻建築士制度の理念
 CPD制度と並ぶ専攻建築士制度というのは、専門分化や高度化が進む建設界において、各建築士が実務実績に応じた専攻分野を社会に向けて表示していこうというものです。
 連合会では、まちづくり・設計・構造・環境設備・生産・棟梁・法令の七専攻領域に分けています。こちらも希望者が取り組むことになっていますが、専攻が認定されるためには、業務の実績とCPD制度による研修(資格取得後十五年を超える十分な実務実績のある場合は実務実績のみで可)が必要になるとされています。
 この制度によって個人の能力を明示することができるにしても、それに伴う業務上の責任などについては今後の課題だと思われます。
■始めてみましょう
 二つの制度は全く別の理念に基づくものですが、同時に進行していることや専攻建築士の認定にあたってCPD制度を借用していることから、正しく理解されていないのかもしれないと、最近になって感じ始めています。
 つまり、専攻建築士を取得したいがためにCPD制度に取り組むと考えている人が圧倒的に多いと思えるからです。状況から言ってそう理解する人がいても不思議はありません。しかし、ここに混乱の原因があるのも事実です。専攻建築士の取得を希望しない人はCPD制度も希望しなくてよいというわけではありません。注意深くみていくと、CPD制度のほうが専攻建築士制度よりも包括的な性格であることがわかります。住宅に例えると、専攻建築士制度は二階に相当します。CPD制度はあくまでも一階であって、二階へ上る階段ではないのです。CPD制度は義務化してもおかしくないものですが、専攻建築士制度には任意性があります。
 CPD制度は建築士にとっての基本と考えて、年限と関係なく地道に継続することに意義があります。専攻建築士はその結果によって産みだされるものです。

㈱新建新聞社:「新建新聞」2004年6月4日掲載

継続能力研修(CPD)制度の実施にあたって

 建築関係の各団体において、建築士資格を取得した後どのようにして自己の能力を維持向上していけばよいかということについて議論が行われています。そのために標記の制度が整備されつつあるのですが、内容をよく知らないという会員も少なくないと思われます。非常に重要なことですので、以下について熟知していただきたいと思います。まだ不完全なところがあるかもしれませんが、よりよい制度を目指していきたいと思います。
●建築士の現状
 日進月歩の時代にあって、建築士は建築に関するプロフェッショナルとして大きな期待と責任を背負うようになってきました。私たちは業務上の必要から自分自身のアップデートを繰り返しているのですが、そうした状況を整理してみる努力をしてきませんでした。これからは、クライアントの信頼を得るための材料を用意していこうというわけです。
●CPD制度の意義
 CPD制度は、建築士の生涯学習的な研鑽状況を自分自身で確認することと、それを他者に説明できるようにすることを目的としています。具体的には学校の授業のように、研修実績を「単位」に置き換えて積み重ねていく形式となっています。単位数の積み重ねは自己研鑽によって建築士としての資質を維持し続けていることの確認と証明になるものです。積み重ねられた単位数に応じて発行される証明書は、クライアントや社会からの要求に対してアカウンタビリティ(説明責任)を果たすためのかつてなかったツールということができます。私たちは今、器としての“資格”の取得に加えて、中身としての“資質”を問われているのだということを深く認識しておかなければなりません。
●長野県建築士会によるCPD制度の特徴
 先に試行されている日本建築士会連合会によるCPD制度では、期限内に一定の単位数をクリアしなければならないことになっています。しかし、研鑽のための環境条件は地域や職場や担当分野などによってかなり個人差があるため、研鑽意欲があってもクリアできない状況も予想されます。長野県建築士会としては、実務を単位に換算せず参加型・活動型・自習型の研修による単位取得のみを認めることにしましたが、期限を設定していませんので誰でもマイペースで研修を積み重ねていくことができるようになっています。そもそも研鑽とは自分自身を磨いていくためのものですから、自分の実情に合わせて焦らずに取り組めばよいと思います。単位数の積み重ねも自由形式の自己管理としています。
●参加の手続
 CPD制度への参加は任意で、平成16年1月1日以降、いつからでも始められます。制度の実施要項と仕組を示しますので、支部事務局で登録手続をして下さい。
●専攻建築士制度について
 日本建築士会連合会ではこの制度と連動して建築士の専門分野を表示する新たな制度を実施しようとしています。この制度については期待と不安が交錯するなかで議論が続けられている状況にあります。長野県建築士会としては、これから特別委員会を設置して研究していこうということになっていますので、今後の情報にご注目いただきたいと思います。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2004年1月1日掲載

建築士事務所協会の気概

 総会が続く時期になると年末のようなあわただしい気分になります。四日も続けて総会に出席しているなどと言えば職業を勘違いされてしまいそうですが、当会の平成15年度第28回通常総会は5月23日(金)、松本市のホテルブエナビスタで開催されました。
 第一部の総会議事は、事業報告・決算報告・事業計画案・予算案についての説明があった後、定款の一部改正と続きました。膨大な内容について説明を聞いているうちに、この先さらに厳しくなることが予想される周囲の状況に対応したより先見性のある展望を明示していかないと、会の維持はおろか建築士事務所の存在すらおぼつかなくなるような危機感を感じてきました。そんな思いで会場から発言させていただいたのですが、原稿依頼を受けたのを機に、我田引水で意見要旨をまとめさせていただきたいと思います。
 ――建築士会や建築家協会では資格制度の検討を進めており、専攻建築士制度とCPDという具体的な方針を示しています。ただ、専攻建築士制度は分業化の進んだ都市部の大規模事務所などには適しているかもしれませんが、ローカルな小規模事務所にとっては馴染まない制度のようにしか見えません。専攻建築士は法的根拠のない資格制度であるとは言え、意図とは別に容易に数値比較指標に姿を変え建築士事務所の序列化や分類化を引き起こすと予想されるのですが、今のところ対岸の火事のようにしか認識されていないのではないかと感じています。建築士事務所の業務というのは様々な分野の情報をアッセンブリして建築や街なみを創造することですから、規模や業績などによる数量的な判断ではなく、むしろ総合的な“建築の質”や“業務の質”によって社会的な評価を受けるべきだと思います。建築士事務所協会としては、専門技術者集団としての自信と自負を持って、業務の維持や拡大に結びつくような具体的な評価指標(例えば管理建築士の資質や資格者の学習集積など)を早急に確立してオープンにしていかないと、外部で決定された結果だけを甘んじて受け入れることになってしまうと思います。――
 第二部では14名の退任役員に対する感謝状贈呈と、建築作品表彰が行われました。懇親会席上では、厳しい情勢下での業務や会務に関する情報交換・意見交換なども行われていたようでした。
 不透明な状況が続き、団体の活動にも展望が見えない中で、団体に所属していることや団体活動そのものの意義が問われているように感じています。業務の改善のためには社会に向けた行動が不可欠ですが、そのためには団体としての理念を再確認し将来的な目標を明確にして具体的な行動指針を打ち出していく必要があります。これは会員一人一人に突きつけられた課題だと思います。
 個人的な視点からの報告で失礼かと思いましたが、蓄積する不安に背を押される思いで私見を恥じずに綴らせていただきました。

(社)長野県建築士事務所協会:「しなの」2003年 月掲載

二期を終えて

 (社)長野県建築士会長野支部長に着任して、四年が過ぎました。
 着任して早々、既に動き出していた建築士会全国大会(長野大会)の開催準備を引き継ぎ推進しました。これは長野県下の建築士会会員が一丸となって取り組んだものですが、当支部は開催地ということもあって、たいへん大勢の会員に具体的な作業をお願いしました。甲斐あって、大会当日は全国各地から5000人余の会員が参集し、盛会裏のうちに終了することができました。
 やっと大事業を終えてほっと一息ついたと思ったら、こんどは(社)長野県建築士会の創立50周年記念式典の開催担当ということになり、これまた大勢の会員にご尽力をいただきました。おかげさまでこちらも無事に終了することができ、ここに改めて感謝申し上げたいと思います。
 こうした大型のイベントは周到な準備と具体的な労力を必要とします。日常的な建築士会活動とは全く異質のものですが、会員が連帯していくためにはよい機会となっているのだろうと思います。
 通常活動の中で特筆すべき成果は、「長野市地盤データ集2003年版(CD-ROM)」をリリースできたことでした。これは30年ぶりのデータ更新(デジタルデータ化)となる快挙で、全国的にも類を見ないユニークな出来栄えであると自負しています。作成にあたっては長野県、長野市他の関係諸機関からご協力をいただき、誌面から深くお礼を申し上げたいと思います。また、「地盤データ集作成特別委員会」及び作業を分担していただいた会員の皆様には思わぬご苦労をおかけすることになってしまい、感謝の意を表するとともにお詫びを申し上げます。ただ、時代のニーズにあわせたこのようなタイムリーな事業はきわめて有意義な成果であったと言えます。会員の皆様にも大いに活用していただくようお願い申し上げます。
 他に、賛助会員の皆様との交流を図るための「新春交流広場」や「CAD講習会」なども実施したところ、大変な好評をいただきました。IT化もスタートすることができました。当支部の活動はどれもアイディアにあふれていると思います。建築士会の活動を楽しみながら育てていくような雰囲気に満ちていて、感慨深い四年間でした。
 ただ一方で、企業年金会の解散や建築士制度の改変といった課題にも向き合わざるをえませんでした。楽観的な未来観によって現実を見失うことのないように、しっかりと足元を見つめていかなければならないのだろうと思います。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2003年5月15日掲載

建築の命

 パソコンのメールをチェックしていると、次のようなコメントが入ってきた。
 「村野藤吾設計の出光佐三公邸―松寿荘を見たくて探し回り、ようやくたどりついたら解体の重機が入っていた。向かい側にある同じ村野藤吾設計の指月亭は無事のようだが、村野、森建築事務所の関係者と思われる人をホームページで探して、取り急ぎメールで知らせた。」
というような趣旨であった。
 この訃報は私にとってかなりの衝撃であった。このような事態が起きた経緯について何も知らなかったので、どうしてそんなばかなことがおきてしまったのだろうと、おろおろするばかりであった。松寿荘というのは、村野藤吾がその同郷の友人であった出光佐三の私的なレセプションハウスとして設計したもので、規模はそれほど大きくないが、洋風と和風が渾然と融合した晩年の集大成のような名作であった。私が村野・森建築事務所の大阪事務所に在籍していたときに、かなり苦心して模型を作った非常に思い出深い建築である。完成した際に見学させてもらう機会があった。隅々まで実に密度の濃い建築であった。私にとっては直接的にかかわりのあった建築であったので、悔しく歯がゆい思いでいるのだが、広く建築関係者が聞いても一様にショックを受けることだろうと思う。
 メールは、「宝塚の村野藤吾邸が阪神大震災によって倒壊したことも、ホームページを見させてもらって初めて知った。こうした名建築の滅失についてあまり社会に知らされていないのではないか。」とも書いていた。
 少し前には正田邸や豊郷小学校の保存騒動がマスコミで報じられ話題になった。しかし、このように住民運動にまでなるものは氷山の一角でしかないのかもしれない。
 松寿荘はレセプションハウスといっても、プライベートな性格の建築であって、その存在すら社会に知れていないかもしれない。だがこうした名建築が完成して25年足らずの後に人知れず解体されてしまうというような情況には放心するばかりである。(写真は後日私が東京に出かけた際に現地で撮影したもので、周辺の環境から判断するとこれから高級マンションでも建てられるのではないかと推測される。)
 まちづくりに関わっていると同じように古い建物が解体されるというような場面に直面して寂しい思いをすることもあるが、この“松寿荘事件”は建築の寿命について改めて考えるきっかけを与えてくれた。もちろん永遠の存在などということはありえないことであるが、かといって無常論で考えたくもない。建築を生み出す動機は明白だが、建築を消失させる動機(あるいは判断)とは一体何なのだろうか。時代を表象する文化として社会的に認知された建築であれば保存運動もおきてくるのだろうが、そうした評価が固まる以前に解体される名建築も多い。経済や政治の前に引きずり出された建築は何とも無力な存在である。私たちは日常的に建築を生み出す仕事に関わっているが、消失に関して相談されることすらないのが実情ではないか。物理的な存在としての建築の寿命ではなく、産み出す際に吹き込まれた建築の「命」について真剣に考えざるを得ない。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2003年3月20日掲載

気になる「制度」

 新年あけましておめでとうございます。皆様には健やかなお正月をお迎えのことと思います。世情の厳しさは変わりませんが、いつも希望だけは持っていたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 新年は気持ちを新たにする節目であるというばかりではなく、自分自身の社会観を総括する良い機会でもあるのだろうと思っています。過ぐる一年間に起こった様々な社会事象を振り返ることを通して、その底部にゆっくりと流れている波長の長い大きな潮流(=ストラクチャー)をつかむことができると思うからです。もちろん私は社会学者でも経済学者でもありませんし増してや評論家でもありませんから、所詮素人の浅はかな視点しかありません。ただ、流れの内側にいるよりも流れの外側から少しクールに眺めてみることが好きなのかもしれません。建築を見たり設計したり語ったりする上においても、時代の潮流を自分なりに認識しておきたいと思っています。
 このところ、私にとって最も気になっているキーワードは「制度」でしょうか。法律や制度は所詮人間のつくったものにすぎませんが、社会そのものに直接的な影響を与えるものです。今その制度がめまぐるしく変えられています。建築基準法の内容も大きく変わりましたし、住宅の品質確保促進法、消費者契約法などの新しいタイプの法律や条例も施行されています。また組織や資格に関する制度、教育や生活に関する制度、環境保護やリサイクルに関する制度などにおいても変化がおきたりおきようとしたりしています。
 こうした制度の新設や改変のモチベーションになっているものの一つに「一般社会あるいは生活者からの視点」があると考えています。この点において制度の内容や性格はいままでと大きく異なっています。いままでは社会の開発をフォローする発想がベースにありましたが、生活をフォローする発想に変わってきています。必要以上に進みすぎた開発に対する自省と自制が蠢いています。結果的に、開発側に立っていた人たちは大きな方向転換を強いられ、いわゆる「痛み」を伴う場面も多いのだと思います。しばらくはこうした転換が社会のあちこちで起きてくるでしょう。ただ、生活と開発は互いにリンクしてこそ社会発展を導くもので、そもそも敵対するような関係ではないはずです。人間同士の信頼関係を築けず、「制度」に依存する寂しい時代背景が見えてきますが、これからの制度改革においてはトータルに社会を見渡す広い視野があってほしいと思っています。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2003年1月15日掲載

制度改革とプロフェッション

 新年あけましておめでとうございます
 昨年は、国家レベルの構造改革がなかなか進まないのをよそに、制度改革が着実に進行していった年であったと感じています。それに伴って社会のさまざまな局面で、具体的な「痛み」を耳にしたり実感したりすることも多くなってきたように思います。
 今日まで、日本の産業や金融は全て制度によって守られてきました。制度や法律は産業等を擁護することが柱になっていました。日本経済が順調に成長してきたのはこうした状況によるものだとも言われています。
 しかし現時点では、頻繁に起こる不祥事報道などによって、産業はその分野を問わず少なからず悪者視されています。企業の社会貢献を認めないわけではないが、陰では責任をごまかしたり自己の利益ばかり追求して卑劣なことをしているらしいというようなイメージがつくられているようです。社会は産業から擁護のベールをはぎとろうとしています。
 産業の外側つまり生活側からのそうした不信感が制度改革という現象を生みだしているのだろうと考えられます。これまで業務や資格に伴う責任や使命はプロフェッションとして認識され、誇りと羨望の対象でしたが、最近では規制緩和という政策が進行し、そうした専門性は業務独占という皮肉な表現に置き換えられてしまいました。
 本来であれば、規制緩和の先に現出するであろう日本の社会像についてきちんと論じておかなければならないのでしょう。この点はあいまいなままだと認識しています。議論のステップとしては最初に緩和すべき分野とそうでない分野をきちんと区分けしておかなければならなかったのだろうと思います。個人的には、技術分野におけるプロフェッションの世界は安直な緩和には適していないのではないかと感じています。社会の信頼にこたえ続けていくためには、もっと厳密な議論をしていかなければならないのではないでしょうか。また規制を緩くするということは、一方で管理やチェックを厳しくしなければならないという事態を引き起こします。むしろ、これまで以上に自律性を強めていかなければならない現実があります。
 いずれにしても、建設産業はこうした社会の情勢に対して封建的で隠蔽的な体質を改めながらもプロフェッションの重要性を正当に理解してもらうように社会にむけて情報を開示していかなければならないと思います。
 今、(社)日本建築士会連合会が進めている専攻建築士制度・継続能力開発制度という制度があります。拡散する建築設計の業務内容にしたがって建築士の専攻分野を外部に発信するために資格化しようという内容で、それを担保するために単位取得を仕向けていこうという内容になっています。現状の資格規定でよいと言い切ることは難しいと思いますし、実態や社会のニーズに合わせていく姿勢は必要だと思います。しかし、私は専攻をあえて資格化することの必然性に疑問を感じており、むしろそれよりも現行の建築士資格制度が見て見ぬ振りをしている問題の解決をしなければならないと思っています。つまり、現状では無資格者でも建築士の名義を使えば建築をつくることはいくらでも可能です。制度上では建築士のプロフェッションが確立されているかに見えますが、実際にはあいまいな状況が許されているのです。こうした状況を果たして規制緩和として認識してよいのでしょうか。あやふやな緩和が違反建築や欠陥住宅をつくりだす温床になっていると言えないこともないのです。デザインする無資格者にはなんの規制や能力義務もなくて、技術者(建築士)だけが継続学習を義務づけられるという矛盾した状況は説得力がないと感じるのは私だけではないと思います。私は業務独占的なプロフェッションの世界を主張しているつもりは毛頭ありません。プロフェッションの責任と使命に込められた意味を再確認したいと考えています。
 私たちはこれからもめまぐるしく改革されていくであろう制度の背後に潜むシステムをよく見極める目を持っていなければならないと強く考えさせられます。

㈱建設タイムズ社:「建設タイムズ」2003年1月1日掲載

専攻建築士制度・継続能力開発制度の動向

 このところ、専攻建築士制度と継続能力開発制度(CPD)のことが、にわかに話題になっている。しかし、「それは一体何のことだろう?」と思っている人も多いと思う。そこで、この二つの制度についての説明から始めなければならない。
 私たちは現在、建築士法に定められた資格によって業務を行っているが、専攻建築士制度というのは、著しく多様化・専門化している今日の建築界の状況に鑑み、建築士が一級建築士資格取得後の実務状況によってそれぞれの専門分野(現時点における案では統括・構造・環境設備・建築生産・行政・棟梁に分類されている)を明らかにし、少しでも社会の人たちに理解を深めてもらおうというものである。また、継続能力開発制度というのは、建築士資格取得後の資質維持や向上を図るべく継続的に研修や学習に取り組み、必要単位を取得する(現時点の案では5年間で250単位)ことによって5年毎に専攻を更新していこうというものである。
 この二つの制度は国土交通省による法制度ではなく、(社)日本建築士会連合会によって立案されている。そして、この二つの制度は、現時点の案では互いに関連づけられた制度として位置づけられている。今年度末までに試行案を決定し、一年間の試行の後に本格的に運用されることになってきたため、あわただしい動きになっている。
 私はこうした状況に対して二つの疑問を提示したい。一つはこの制度自体の妥当性についてである。専攻を社会に対して披露していくこと自体にはなんら問題はないが、それを制度化(専攻認定は有料)する必要があるのだろうかということである。これまで個々の建築士に関する情報開示をしてこなかったので、情報開示は早期に実行するべきであると思うが、開示すべき内容は専攻のみでは不十分で、社会の要求に即して考えればより詳細な開示項目が必要になる。具体的に言えば、どんな規模の設計をしているのか、木造とRC造のどちらが得意なのかといったようなパーソナリティに関する内容項目をも含めなければ、社会との距離は縮まらないと思われる。重要なことは、そういった情報を社会に向けて正しく開示することであって、専攻を制度化することではない。また、もうひとつは適用を受ける会員に対する情報発信の不足についてである。外国の資格制度への対応のタイミングも絡んでいるため一方的に状況が事実化されていくばかりで、会員はこうした重要な制度の内容について思考の暇もない。
 従来の制度を保持するだけでは、これからの時代や社会の要求にこたえられなくなっていくのは事実だろうと思う。しかし、自分本位で的外れな答えをすることは新たな困惑を生み出すばかりだと思えてならない。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2002年11月15日掲載

専攻建築士制度を考える

 建築士制度の改変議論が、いよいよ具体的になりつつある。建築設計資格に関する議論は、昨今始まったわけではなく、JIAはその前進時代から、建築士という資格と別に、外国におけるアーキテクト等の資格と対等視され得る資格=建築家の確立に向けて活動を続けてきた。しかし現実には法律の枠外でそうした資格を確立することはきわめて難しい所作であった。
 (社)日本建築士会連合会が、他団体との協議を経て来年度から試行しようとしている専攻建築士制度の内容についてご存知の方は果たしてどれくらいいるだろうか。一口に建築と言っても、今日の状況においては、超高層ビルや巨大空間建築から一般的な住宅までとタイプも拡大しており技術の進歩も著しい。現在提案されている制度は、極度に分業化している建設産業の実態を考慮して複数の専攻分野に建築士資格を細分化しようとするものである。この部分だけを個人的立場に当てはめて字句通りに受け止めれば異論はないかもしれない。しかし、資格制度というものは専門分野における個人の質的な力量保証であると共に、社会からの質的・量的な力量評価を受けるという関係において成立している。社会が資格制度をどのように利用するか考えた時、問題が見えてくる。
 そうした視点に立てば、検討されている制度は、一級建築士に専門性を加算することにより、建築家資格の確立における行き詰まり状況を打開し、海外における設計資格と対等視される日本方式の資格を確立しようとするものであることは理解できると思う。だが国際的な市場を求めて国際資格を必要とする大型建築士事務所と、地域の建築やまちづくりのために真剣に取り組んでいる圧倒的多数の建築士との間にある意識の乖離は避けられない。専攻資格が質的基準に留まらず、外部から量的基準として利用されるのは必至だと捉えれば、この制度は新たな囲い込み制度そのものとして機能するように見えてくる。素朴に考えても、専攻とは顧客に対して提供するべき必須情報項目の一つであって、あえて資格化する必然性は薄い。
■私の提案
 建築士に関わる資格や業務形態を社会にわかりやすくするために整備しなければならないと思われることを整理してみる。
 ・建築士の情報開示・・社会が建築士について知りたいことは専攻だけではない。むしろ建築士個人の人柄や得意分野等をも知りたいと思っている。そのため専攻等に限らず、各建築士の幅広い活動実態を公開していく必要がある。
 ・建築士制度の一本化・・建築士と建築家が共存する社会は紛らわしい状況になると予想されるので、建築士の制度内でよりわかりやすい体系を整備するのが妥当だと思う。
 ・国際建築士資格の確立・・海外における建築設計に取り組みたい場合には、自動車の国際免許に例えられるような国際建築士資格を所持すればよいと思う。
 ・管理建築士資格の確立・・管理建築士は建築士事務所内における地位というにすぎず、一級建築士であればいつでもだれでもなることができる。経験も能力も無関係だから有名無実の管理建築士や名義貸等の悪用手法も蔓延している。管理建築士は事実上設計監理における技術面すべての責任を負っているのだから、統括性の強い建築士資格として位置づけるべきだと思う。
 ・設計と施工の分離・・設計監理と施工を区分けすることによって、誤解や混乱をなくしそれぞれの責任を明確にする。
 ・オープンな設計プロセス・・一部を除けば、住民や市民が近所に建設される建築について事前に情報を得る機会は少ない。まちづくり的な視野から考えれば建築デザインのプロセスに住民が参加できるシステムが好ましい。また環境や福祉関係者の意見等も積極的に採用できるシステムを構築していかなければならないと思う。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2002年10月1日掲載

建築士試験に思う

 秋から冬にかけて、毎年恒例の建築士試験の結果がわかってくる。数字で示される受験率や合格率を見ると、全国的に年々低下しているのは明らかである。残念ながら長野県は他県との比較において、なぜかいつも劣勢を決め込んでいる。
 聞くところによると、日本の社会全体において建設に対する需要が低下している上に今後も低下し続けていくことが予想され、高度経済成長期のように建築士を「大量生産」する必要はないとの政策的判断があって、試験の難度が引き上げられ、結果として合格率が低下するという現象が起こっているらしい。この考え方はまことに合理的で、非の打ち所もないように見える。
 だが、何となく他人事のように受け止めているこの状況について、冷静に考えてみれば疑問を感じないわけではない。
 日本における建築士事務所制度は、管理建築士として責任ある建築士資格者が一人でもいればその周囲で実働する者は資格を取得していなくても済んでしまう。そうであれば敢えて大勢が資格を所得しなくてもかまわないという考え方も成立する。しかし、社会は建築士の資格に付随する専門的な知識や経験に安心感を感じるであろうし、資格を取得した者はそのことによって自らの責任を自覚するようになる。建築士の資格は建築士事務所に所属する資格者数だけを問題にするクライアントのためにのみあるのではない。
 今後、建築士試験における不合格者が蓄積されていくことが予想される。一方、大学や高等学校、最近では専門学校も加わって受験資格者を送り出している。そうした建築士予備軍に厳しい試験を課せば、結果として多くの無資格者が実際の建設現場に携わっていくことになる。そうした状況で、建築士事務所も建設会社も社会からの信頼を保持していくことができるのだろうか。有資格者がきちんとした仕事をしていくということをおろそかにしてよいのだろうか。また、今からおよそ20年くらい経った後に、精鋭?建築士だけで社会のニーズにこたえていくことができるのだろうか。
 建築士の人数を制限するにしても、長期的で総合的な戦略がなければならないと思う。そして同時に建築士制度の改変についても議論していくことが必要だと思われてならない。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2002年9月15日掲載

地域社会へ

 去る5月16日(木)には支部通常総会、続く18日(土)には県建築士会第52回通常総会、創立50周年記念式典及び記念講演が開催されました。例年と違って私たちの支部にとっては大きな行事が続いてあわただしい事態になってしまいましたが、大変多くの会員諸氏のご参加ご協力をいただき、無事に全ての日程を終了することができました。長期に渡る準備や当日の悪天候にも関わらず精力的に各々の役割をこなしていただき、心より厚く御礼申し上げます。式典に参加された方々から、ねぎらいとお褒めのお言葉を頂戴しておりますことを報告しておきたいと思います。
 支部総会に前後して約35年に及ぶ企業年金制度の終了を決定しました。不景気のため生命保険会社からの配当が極端に低下しており、当初のようなメリットを得られなくなりました。寂しく思う方も多いと思いますが、時代の趨勢で仕方のない状況だと思います。
 新年度にむけては、懸案のホームページ開設と長野市地盤図集を実現したいと考えています。必要経費について検討しなければなりませんが、いずれもニーズは高いと思われますので、皆様にもご協力をお願いいたします。 
 これからの建築士会活動は自己研鑽や親睦などの次元に甘んじているわけにはいきそうにありません。資格制度の改変についても巷間取り沙汰されていますが、必要性や方向性に関する基礎的な論議も希薄なまま唐突に皮相的なアイディアだけが浮遊していて当惑している人も多いと思われます。既存の資格制度の改変は建設界に限らず広く社会全体に影響を及ぼすもので、もう少し多面的な視点から意見を交わしていかなければならないのではないかと感じているのは私だけではないと思いますが、社会に対する資格内容の透明化と責任の明確化が進行していくことは確実なベクトルだと思われます。そうだとすれば、建築士は自己研鑽した成果と親睦のネットワークを活かし、社会を対象とした具体的な活動に積極的に取り組んでいかなければならないと思います。個々の建築士が仕事を通して個々のクライアントの信頼を得るようにすることが基本だと思いますが、建築士会としても資格そのものの意味・価値・責任などについて地域社会に伝えていかなければなりません。さらに言えばそうしたプロパガンダ的なことを超えて、資格に付随したボランティア活動などの実質的な社会貢献活動についても検討していかなければならなくなるでしょう。社会からの期待や要請は確実にレベルアップしています。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2002年7月15日掲載

建築士のフィールドと総合性

 今年は(社)長野県建築士会が創立50周年を迎えるという。第二次世界戦争後に建築士の資格や団体が整備されて華やかな高度経済成長期やバブル期を過去とした今、建築士のフィールドが拡散している。高度経済成長期を経て社会資本の量的な整備がほぼ充足し、バブル期には単純にコストをかけて質の充実をしたかに見えたが、今ではそうしたことが夢幻のように思えてくる。
 経済不況だから建築をつくらないという表層的な状況のせいではなく、充足してしまったという構造的な閉塞状況のせいで、建築を産み出す必然性ですら揺れ動いている。よしやつくる動機があっても、テーマは大きく変化している。近代技術に裏付けられた開発的建設手法に内在する人間の傲慢さへの自戒概念が登場してきた。エコロジー、省エネルギー、サステイナブルデザイン、まちづくり、保存再生、福祉、健康、癒しなどこれまで接したことのなかったテーマが次々と建築に対して持ち込まれてくる。建築士が取り組む業務も技術プロパーだけでは済まなくなってきた。
■コラボレーション
 モノとしての建築という実在を完成させるためには、技術面での充分な知識がなければならない。建築士の資格は専門技術的側面のみを規定するものとなっている。かつては技術をベースに建築の内的プログラムを構築し、美しい建築を完成させるのが優れた芸術的建築家であった。しかし、今時の建築は内的なプログラムとは無関係な外的要因によってプログラムが規定されることが多くなっている。先述したような環境やエネルギーあるいはまちづくりなどは建築の上位概念となっていることが多い。そうしたことに関する専門的な知識や情報については、外部の人たちやユーザーのアドバイスが有効である。ネットワーク的コラボレーション体制が重要性を増してくる。
 建築士の役割はトータルプロデュース的色彩を濃くしていくのだろう。様々な専門分野の知識を建築空間におきかえていかなければならない。
■資格と責任
 こうした状況に並行して建築家資格、建築士資格の相互或いは単独の資格制度のあり方について検討されている。資格と実務内容を符合させるために、資格分野の細分断化が行われようとしているらしい。状況の分析としてはよいが、現在の建築設計の状況をみると、そうした皮相的な判断だけでは意味が希薄であると思わざるを得ない。それは内的な状況整理にしかすぎないからである。資格制度の見直しは、新秩序の構築である以上、個人資格への影響にとどまらず、企業においても受注資格等に関して大きな影響を及ぼすと考えられるが、目指そうとしている方向が見えない。
 今必要なことは、資格の見直しより建築を社会に産み出すシステムそのものを見直すことかもしれない。今は資格による閉鎖的独占性の中だけで建築が産み出されているが、もっと広い視点を集約しながら建築をつくる開放的な仕組を確立するほうが重要かもしれない。申請等に関する方法論も併せて研究したい。要は建築をつくるために求められる様々な判断をオープンシステム化するということである。そのことは資格や判断に基づく責任を浮かび上がらせることにもなるだろう。現行資格の中で義務や権利は規定されていても、結果に関する責任は明確にされているとはいえない。建築士の無責任による不備や不正、あるいは建築士の見識の欠如や独善による社会不適合建築などは後になって問題になってくるが、建築の存在の社会性が大きくなればなるほどそうした状況を未然に防ぐシステムが必要ではないか。
 建築に対する認識が高まるほど設計者のセンスやモラルだけに頼ることは許されなくなる。総合的な建築システムの確立とそれに適した資格や責任について検討しなければならないと思う。

(社)長野県建築士会:「建築士ながの」2002年5月1日掲載

デジタル時代のマイスタイル

 マニュアル本を脇にひろげて人差し指でパソコンのキーボードをたたきながら、「昔は体力と笑顔があれば乗りきれたんだぁ!」と忌々しく思っている人も以外にたくさんいるのではないでしょうか。私たちが「時代は変わった」と言う時、一体なにが変わったというのでしょうか?
 結論的に言ってしまえば、変わってきたのはテクノロジーです。もっと限定して言えば、人間が使うツールが変わったのです。全てのツールは人間の頭脳や手足や目や耳等の延長機能と考えることができます。人間は手を使うことによって文明の第一歩を踏み出したのですが、原始的なハンドメイド作業は生産性向上を求めて次第に機械に置換され、産業革命を経て工業化時代が開花しました。そして20世紀には機械によるメカニズムは頂点を極め、電子技術の進化によって、多くの経済学者や未来学者が予言していた通り、国際化・情報化時代の様相が確立されてきました。ツールはあくまでも人間の操作の範疇にありますが、テクノロジーは電子化によって完全に不可視化してしまいました。冒頭のジョークのような嘆きが他人の悲鳴のように聞こえながらも多くの人をうなづかせる背景には、ブラックボックスの前に座らされているいらだち感があるのだと思います。
 建設関連産業においても様々な局面において合理化がなされてきました。職人の経験と腕に依存して伝承されてきた古来の技術が、工期短縮と品質向上を目指して機械化され、総合的な管理体制整備を目指して電子化が推進されてきたということができるでしょう。
 ですが、こうしたテクノロジーの変化はあくまでも現象的なものととらえることができます。つまり、人間の行動や思考や感情は歴史を通してみても特に変わってきたというわけではないのです。むしろなにも変わっていないと言ったほうが納得できる表現なのかもしれません。21世紀に入った今、私たちは人間に内在している生物学的な部分と、それとは対極方向にあまりにも乖離したテクノロジーとの狭間に生きていると言えるのではないかと思います。
 私たちがこれからどのような歩みをしていくことになるのかについて少し考えてみたいと思います。
■デジタルで行こう=第一のシナリオ
 「デジタルってなに?」と聞かれても理論的に正確に説明できる人は多くないと思います。でも私たちの身の周りには通信や映像のためのデジタル製品が氾濫しているのが実状です。
 デジタルテクノロジーの効用は大別して二つあると考えられます。
 一つはデータ作成とその管理(ストック)の合理化です。タイプライターやワードプロセッサー或いはそろばんや卓上型電子計算機に変わって業務シーンの主役となったパソコンですが、少し前まではオフィスオートメーション(OA)のためのツールでした。導入の主たる目的は所属者・顧客又は経理・業績等のデータ管理であったと思います。この時点ではパソコンは管理担当のごく一部の人たちが使うツールで、使えない人は正に体力と笑顔で乗りきっていたのかもしれません。しかしその後、パソコンはマルチメディアツールとして異常なほど急速なスペックの向上とソフトの充実に支えられて、文書作成や統計計算の域をこえ、デザインや編集などのビジネス面においても、ゲーム等のパーソナル面においても、従来とは比較にならない圧倒的なデータ処理能力をもって、史上経験したことのない利便や痛快を提供してくれるツールとなりました。文字通りパーソナルなツールとして増殖しています。
 もう一つはデータの相互通信(フロー)です。手紙や電話に変わって主役となったパソコンや携帯電話等は、インフォーメーションテクノロジー(IT)のためのツールとして定着してきました。インターネットは想像を絶する早さで爆発的に拡大してしまいましたし、モバイル型デジタルツールを愛用する人たちも急増しています。ITはデジタルテクノロジーのきわめてユニークな特徴と言うことができます。ITによってネットワークというフラットなストラクチャーが形成され、作成された情報データを即時に多元的に共有化することが可能になりました。ITはこれまでヒエラルキー的なストラクチャーを維持してきた階層的な情報伝達形式を切り崩していくことになるかもしれません。
 デジタル化は建築設計の作業形態も変容させました。パソコンは設計をサポートする重要なツールとして浸透しています。今は主にCADによる図面作成やCGによるプレゼンテーションやシミュレーション及びクライアントや施工者とのデータ交換のためのツールとして活用されていますが、データ作成とITの複合的な活用を目論むCALSも実用化されようとしています。
 2003年4月7日は手塚治虫の科学漫画の主人公である鉄腕アトムが誕生した日です。ストーリーの中では人工頭脳が活躍していました。現実はストーリーのようには進んでいませんが、人工頭脳が量産される日もそう遠くはないのかもしれません。デジタルの守備範囲は人間の意思を正確に反映するためのツールから、人間の意思が介在しないソリューションメソッドにまで拡張することになるでしょう。
■アナログで行こう=第二のシナリオ
 デジタル化が加速度的に進む一方で、パソコンだって万能ではないのだからそうはいかない部分だってあると誰しも思うかもしれません。人間が感情の動物であり、建築が文化的芸術的な色彩を帯びた行為であることを考えれば、デジタルテクノロジーだけで建築が出来上がるわけはないと考えるのは当然です。
 建築をつくりあげていくプロセスは実にアナログ的なものです。そのことは私たちが日常的に体験していることだと思います。人間の脳ほど非論理・不条理であるものもなく、人間の目や手ほど脳の指示に俊敏に反応できるものはありません。デザインや設計を職人的な作業行為としてとらえれば、アナログを切り捨てることはできないはずです。むしろそうしたあいまいとしか表現できないひらめきに似た部分を許容してきたことが今日の文明や様々な文化を築いてきたのだと考えることもできます。
 アナログをアナクロと断定することはできないでしょう。情報をデジタル化することはできても、情報源となる人間の営為はアナログの世界です。建築のものづくり的側面において直面するマテリアルやテクスチャーの決定には、人間の目や経験に基づいた感性が不可欠だと思います。また建築士としても次第に関わりが深くなってきているまちづくり、環境保全、景観育成、福祉充実等においてもケースバイケースの試行錯誤が繰り返されています。人間の生活や諸活動は決して乾いたものでもヴァーチャルでもなく、うるおいやリアリティのあるフェイストゥフェイスのコミュニケーションを欠かせないのは将来においても不変だろうと思います。
■マイスタイルで行こう=第三のシナリオ
 冷静に考えてみると、私たちは心の片隅で振幅の大きい過渡的な現状にずいぶん戸惑っているのではないでしょうか。パソコンや次々に登場する様々なデジタルツールを自由自在に駆使できないと時代の潮流から取り残されてデジタルリテラシーに陥ってしまうかもしれないという不安感と、デジタルなんかなくてもアナログだけで生きていけるという開き直りの間で逡巡しながら、不安定な精神状態になっている人も多いのではないかと思われます。情報化時代を驀進させている目に見えない力や他人の言動に翻弄されていると、私たちは自己を見失いがちです。私は、デジタルに乗り遅れるという状況よりも、むしろこのブラインド状態の方がデジタル時代において危惧される部分ではないかと感じています。めまぐるしく変わるテクノロジーやツールに振り回されることなく、自分の人生、建築づくり、組織や社会等に対する信念や哲学を自分の中に沈殿させていくことが今最も求められていることではないでしょうか。言いかえればマイスタイルを持つということです。それによって始めてデジタルやアナログの価値や意義を解釈し、自分なりに判断ができるようになるのだと思います。情報を正しく判断するためには、時にスローなテンポや立ち止まってみることも必要でしょう。
 今は、単純なドグマに沿った近代建築のように、内的なプログラムのみで建築をデザインすることはできなくなりました。現代建築においては造型に対するイデオロギーよりも環境や景観などの外的なファクターやエンジニアリングとの融合を試みていかなければなりません。そこには建築士として新たな役割と責務が発生してきます。私たちはデジタルかアナログかといったオルタナティブでは割り切れないものづくりの原点を軸に自分自身を喪失しないようにしなければなりません。
 所詮アナログである人間にとって、デジタルに対する恐怖心や不安感はあって当然です。それをなくすためには、親しい友人になることしか近道はないのだと思います。他人よりやや多くの時間を要するかもしれないにしても、自分からアプローチすることによってデジタルは反応してくれます。デジタルテクノロジーはつまるところ人間のためにあるのです。情報化時代或いはその次の時代がどんな時代になっても主役は人間なのです。

(社)日本建築士会連合会:「建築士」2002年6月1日掲載

ざ・いらい工法の家

 先に上梓した「信州の建築家とつくる家」を見ると、私たちの仲間の多くは木造住宅に強い関心をもっていることが示されています。私は鉄筋コンクリート住宅を掲載することが多いのですが、木造住宅にも関心があることをお断りして、以下に進めたいと思います。
 私たち自身の関心もさることながら、木造住宅は社会全体の気運としてフォローウィンドを受けています。一口に木造と言っても様々な工法が割拠しています。工法そのものがシステム化・パッケージ化されて商品になっていることも多いようです。そうした状況ではありますが、私たちが最も愛用しているのは、昔から着実に職人の手によって受け継がれてきた在来工法と呼ばれている木造です。そもそも工法とは構造体の存在形式のことをいうのだと思いますが、その構造体が空間や造型を規定してしまうことも多い中で、私たちが在来工法を多用する最大の理由は、設計の自由度つまりイメージした空間をそのままに近いところで実現できるということにあるのだと思います。(もしかしたら、そういう工法でしか発想できなくなっているのかもしれません。)
 大きな地震を経験して以来、建築基準法が改められたり性能表示制度が導入されたりしているので、自由なはずの在来工法と言えども厳しい制約を加えられることになってしまいました。しかし、建築家も職人もそんなことに屈してはいません。在来工法は、特定のメーカーなどによって囲いこまれておらず、例えて言えばパソコンのフリーウェア(使用料不要なアプリケーションソフト)のようなものです。使用権利も技法も自由であるということは、自分のイメージを実現しやすいばかりでなく、クライアントの要望や依頼にも応えやすいということです。このことは実はとても重要なことだと思います。なぜなら、それは家を買うのではなく、家をつくるということに直結しているからです。私たちは当たり前のように在来工法を用いて設計をしていますが、改めてその自由であることを認識すると在来工法は、クライアントの依頼や建築家の期待に応えやすい「ざ・いらい工法」と言い換えてもよいものなのだと思います。
 一方で県産材の利用促進も強い社会要請になりつつあります。私たちは「家をつくる」というスタンスを保持するためにも、県産材の利用促進のためにも、在来工法に磨きをかけていかなければいけないと感じました。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」2002年5月1日掲載

「信州の建築家とつくる家」発刊

 私たちは2年前に「愛と情熱の家づくり」という一冊の本(A4版144P)を上梓しました。それは会員有志の住宅作品などを一般社会に向けて紹介したものでした。初めての企画だったので紆余曲折を経て実現したものです。発刊後に「住宅部会が発刊した」という信じられない内容の記事が機関誌に掲載されていたのを思いだしましたが、ここに正確を期したいと思います。
 そしてこの度、その続刊である「信州の建築家とつくる家」という本(A4版184P)を上梓しました。タイトルは改めましたが、内容は前回と同じように各自の住宅作品紹介が主体です。より正確に言えば参加者32名の仕事ぶりをさらけだしたものになっています。前回は2ページだった個人の持分を4ページに増やし、同時にそれを各自が責任編集するという大胆な方法を導入したので、質量共に充実したものになったと自負しています。また作品やワークスタイルという側面だけではなく、実用的なアイディアコーナーもまとめました。
 今回のねらいは、社会から遠い存在だと思われている建築家のありのままを誌面にさらけだすことによって、地域の建築家こそが本物の住宅づくりの要求に応えていける身近な存在だということを示したいというところにありました。一般社会が求めている情報に対して、建築界から提示されている情報はかなり偏ったものだと言わざるを得ません。私たちは出版という方法によって、建築家の存在と職能に対する正しい理解を求める動機づくりをしていきたいと思っています。
 不景気な時代で、住宅着工戸数も減少傾向というような局面ですが、皆様のアドバイスを頂きながら、さらに充実した内容に育てていきたいと考えています。

JIA関東甲信越支部:「Bulletin」2002年4月15日掲載

参加は権利

 会員のみなさんには、いつも委員会またはブロックなどの活動にご参加いただいてありがとうございます。支部の約700名の会員がすべての事業企画に参加するなどというのは所詮無理なことですが、一生懸命企画してくださっている責任者の方々の熱意が伝わって各事業にたくさんの方々が参加してくださっていることについて、支部長の立場としても大変喜ばしいことだと思っています。
 今年度は昨年に引続き開催したCAD講習会や、善光寺の山門及び周辺の見学会などが特に好評だったようです。新春交流広場も昨年に増して大勢の方々に参集していただきました。ブロック主催のわかさぎ釣なども楽しかったようです。
 このように、私たちの支部の活動は研修・懇親を問わず若い世代の参加が多く、充実感のあるものになっています。
 ところで、当支部に限らず一般社会ではどんな団体も会員の減少や事業の低調などが課題となっています。原因は経済情勢ばかりでなく、所属意識の変化といった局面もあるのだろうと思います。それはなかなか厳しい現実ですが、私はいつも所属と活動について考えさせられています。
 なんのために団体などの組織に所属しているのでしょうか?なんのたびに活動しているのでしょうか?事業企画のたびに大勢の参加を呼びかけています。でも、本当は団体に所属しているのは、会員にとっては特権なのです。非会員では受けられない権利を受けられるのだという点が大切です。事業に参加するのは義務とか、自由意思とかいうことではなくて、会員としての権利の行使なのです。参加する権利は所属と同時に与えられています。会費を納めるのは義務感がありますが、そうである以上権利は有効に活用していただきたいと思います。
 今後もいろいろな事業について参加の呼びかけがあると思います。様々な志向の会員に対して数多くのメニューを用意するのは不可能ですが、最近は研究会といった活動の場も準備しています。総会も権利を行使する貴重な場です。活動によって様々なメリットが自然にうまれてきます。仲間も自然に増えてくるでしょう。
 とにかく参加は義務、、、ではなくて参加は権利だと考えること。これは意識の問題です。なにごとにおいても構造改革ならぬ意識改革をしなければ、今のような厳しい時代を生き抜いていくのは難しいのではないでしょうか。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2002年3月15日掲載

私のホームページづくり

■準備:
 私がパソコンの前に座るようになったのは、そう古いことではない。今から1年半くらい前ではなかったかと思う(パソコンはずっと前から机の上に座って私を待っていた)。必要に迫られて電子メールを始めなくてはならなくなったのが直接的な動機だった。
 以前から自分のホームページをつくりたいという気持ちはあったので、友人に聞いたり本を見たりして研究した。すると、どんな内容(コンテンツ)にするかが一番問題だということがわかった。ホームページを見て設計依頼がきたなどという話も聞いたことがあるので、作品紹介コーナーはつくりたいと思った。また書き溜めたエッセイもウェブ画面で見てもらおうと考えた。個人建築家のホームページによく見られる設計監理料の自己弁護的解説などはそちらを見てもらえばいいと思ってやめた。大企業ではないのでマイルーム的な雰囲気が強いものになってしまうという思いもあったが、むしろそうした自己紹介的な方針でいこうと決めた。そうするとなんとなくメニューが固まってきた。だがずっとワープロで作ってきた各種作文や竣工写真をデジタル化しなければならなくなった。数がたくさんあったので想像以上に大変な作業になってしまった。でもこれで準備オーケー。
■作製:
 まずは勧められていたホームページビルダーなるソフトを購入した。
 チュートリアル(操作解説)を見れば自分でもなんとかできそうな気がしてくる。写真家などのホームページはずいぶん参考になった。容量の大きな写真をアップすると重いので見るほうは時間がかかって大変だということもわかった。いきなり高度な表現を欲張っても無理なので、稚拙な表現でも構わないと考えて徐々につくることにした。
 トップページのデザインは早く表われることを心掛けた。だから写真は1枚にしようと思っていた。それから見やすいメニューを入れること。シンプル指向が強いので、装飾的な要素はなくストイックな画面になってお世辞にも見栄えが良いとは言えない。
 次にサブページはインデックス化した。各種の写真やエッセイなどをトップページから続けてリンクさせていくこともできないので、サブインデックスをつくっておいて選んで先に進めるようにした。数が多い場合にはこうしないと見るほうが大変だと思う。
 写真ページはキャプションのみで文章はつけない。エッセイページは同じフォームで統一する。個々のページは次々にリンクする。実はハイパーリンクはよくわからずに苦労した。初めてとはそんなものかもしれない。未完成だったがオープンしたのは、作業開始から半年後の今年の4月。もっと簡単にできたと思うが、かなり欲張ってしまった。
 その後は時折追加をしている。建築のエッセイばかりでは硬いので、風景や旅先の写真コーナーも新設した。最近は現場の進行状況を見れるようにもした。こまめにリニューアルしていくこともホームページづくりのポイント。皆さんもつくってみませんか?
関建築+まち研究室 http://www.avis.ne.jp/~kuniseki/

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:「かすがい」2002年1月25日掲載

長野県建築士会総会と創立50周年記念式典の運営

 あけましておめでとうございます
 皇室の祝賀ムードにしばらく浮世を忘れていてもふと冷静になってしまうほど今の不況の暗雲は厚いのだと感じています。アメリカ同時多発テロ事件や狂牛病も追い討ちをかけていて、今年は一体どうなってしまうのだろうかと不安感がつのる年頭です。
 そんな社会経済環境ではありますが、昨年中私たちは積極的に活動を続けてきました。新しい委員会体制においてはフレッシュなメンバーにも加わっていただきました。仙台の全国大会にも多数ご参加いただきましたし、CAD講習会なども大盛況でした。それは組織維持のためだけではない目的的な情熱ある思いの表われであろうと思っています。
 また昨年は支部にとってのIT元年となりました。一挙に推進することは到底できませんが、それでも将来への小さな一歩となっていくはずです。会員サービス向上を目指すものですが、定着するまではその効果は実感しにくいかもしれません。ご理解下さい。
 さて、本年は当支部において二つの総会を行うことになりました。一つは支部としての通常総会ですが、もう一つは(社)長野県建築士会の通常総会です。毎年県内各地を巡回していてその節は会員の皆様にもご参加いただいてきたのですが、今年は当支部の担当となりました。同時に(社)長野県建築士会創立50周年記念式典も開催されることになっており、式典のあとには見城美栄子さん(青森大学教授、エッセイスト、ジャーナリスト、元TBSアナウンサー)による記念講演会も計画されています。記念すべき創立50周年記念式典が当支部で開催されるのは会の歩みに残る大変名誉なことであると思いますので精一杯の体制で取り組んでいきたいと思います。年末に実行委員会体制を組みました。皆様のご協力によって成功させきたいと思いますので、なにとぞ宜しくお願いいたします。
 支部通常総会  開催日時 5月16日(木)  会場 ホテル信濃路
 本会通常総会・創立50周年記念式典  開催日時 5月18日(土) 会場 ホテル国際21

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2002年1月21日掲載

戒めと癒しの時代

 新年あけましておめでとうございます
 ミレニアム初年は、日本総不況的様相に終始しました。特にアメリカでの国際的テロ事件は世界中に深刻な影響を及ぼしました。世紀末よりもさらに重く暗い雰囲気が漂っています。
 せめて年頭くらい明るい話題がないものかと考えてみてもなかなか方向が見えないのが現時点での一般的認識ではないかと思いますが、建築業界の展望を考えるためのキーワードについて少し考えてみようと思います。
 20世紀は文字通り激動の世紀で、度重なる戦争、高度経済成長やリゾートブームなどの舞い上がったエネルギーによって断続的にバブル的経済状況を維持してきました。しかし現在、そういったうねりは過去の幻のようになってしまいました。むしろそうした時期における傍若無人ぶりへの戒めの気配を強く感じています。
 私たちが経済発展とか文明といった名の下に平然と痛めつけてきたものからの反撃が始まっています。現代文明が弱点を露呈し、自然環境や歴史文化などが悲鳴をあげ、そしてついには人間自身も痛めつけられているという実感を伴って、過去からの戒めを噛みしめているというのが現在の状況ではないでしょうか。
 私たちは自然環境を単なる物質的存在としてしか考えてこなかったのだと思います。大義名分の影で企業としての利益を追求することによって土建国家などと言われるようになり、都市から山や海へと土地利用を拡大し国土全体が建設のキャンバスになってしまいました。それは言い方を変えれば破壊行為そのものでもあったのです。振りかえると荒れ果てた環境が目の前に残されていました。私たちは必要以上に開発を進めてしまったのかもしれません。
 また科学技術に夢を託していた時には、未来につながる新しいものだけが価値であり、古いものは伝統習慣も文化も建築もなにもかもが無価値だとして破壊されてきました。ずいぶん痛んでしまったところで、取り返しのつかないことにふと気がついたのです。大切なものが消えうせていく危機感を感じたのです。
 幸いなことにそれらは完全になくなったり痛んでしまったというわけではありません。まだなんとかなりそうです。今はそうした状況に対して修復の取組が始まっています。新しい展望も見えないまま行き詰まった現在、戒めに対して私たちは遺産活用を思いつきました。遺産と言っても壮大な文化遺産のことではなく、土建全盛時代以前に先人が着実に積み重ねてきた身近な財産などのことを言っているのです。痛みかけている自然や歴史を現代風にアレンジして再利用する方法が注目されています。特に各地で取り組まれているまちづくりなどにおいては、古い町並みや旧家などが保存されたり修復再生されたりして観光資源にもなっています。単なるブームとも言えず定着した方法になりつつあると感じています。また偉大な業績を残した有名人のメモリアルなども注目を集めているようです。こうした動きはいわゆるストックの活用というものに当たります。方向性の見えない社会における藁のような方法論であるかもしれませんが、かつてのように新しいものばかりを求めている時代にはなかった発想です。
 こうした多局面における修復作業が多くの人々に好感をもって受け入れられるのは、疲弊した心に癒しとか和みとかいっている安堵感を感じさせてくれるからなのです。そういったテーマを取り扱う雑誌なども増えてきています。個人の生活も企業従属でなくなり、それぞれの人生観を強く反映したものとなってきました。人間の心の修復も進んでいるのです。
 私たちはこういった社会の大きな方向性をきちんと認識しているべきだと思います。自然や歴史を修復していくための思想・智恵・技術に取り組んでいくということ自体が新しい方法論なのだろうと思います。かつてのようなパワー主義の論理だけでは通用しないのは確実です。私たちの社会貢献の根本はなんであるのかについて改めて考えてみなければならない時ではないかと思っています。

㈱建設タイムズ社:「建設タイムズ」2002年1月2日掲載

全国大会仙台大会 情報フォーラム報告

 去る10月5日(金)は東北、仙台市において全国大会が開催された。私は日本建築士会連合会の情報部会のメンバーなので、毎年情報フォーラムの世話をすることになっている。今年はフォーラム・式典・懇親会を一日で実施するというタイトなスケジュールだったが、フォーラムは9時30分から15時30分まで例年より多くの時間をかけて行われた。
 ネットアラカルトでは、CGの活用事例やCALS/EC対応CADのJWB2002の紹介などが行われた。ネットトークでは芝浦工業大学の衣袋洋一教授の「進化するDAD」、元CADデータ交換標準開発コンソーシアム運営委員の木原範昭氏の「CADとCALS/ECの将来」と二つの興味深いテーマの講演が続いた。建築教育や業務の中でデジタルなシステムが制度化されていくことにもっと鋭敏にならなければならないと感じた。
 長野大会から公式行事になった情報フォーラムが定着したところで、連合会としては総合的な情報戦略を整備していこうと考えている。それは建築士会にとって新しいパラダイムに対する体質改善である。様々な功罪もあると思われるが、今重要なことは議論をこえた実践ではないかと思っている。

(社)長野県建築士会長野支部 「つちおと」2001年11月15日掲載

CPD単位申請をお忘れなく!

 今、私たちは実に真剣にCPDに取り組んでいる。
これはそもそも建築家資格の確立を目指す方針のなかで浮上してきたテーマである。それぞれの建築家にとって資格の獲得がゴールになるのではなく、その後も研鑽を続けて資格に伴う資質を維持していかなければ社会の信頼を得ることはできないという考え方に基づいている。その自己研鑽状況を単位という数字で示すことにより、社会に対するアカウンタビリティにしようというものである。逆に言えば、単位が不足している者は自己研鑽を十分に行っていないとされ、建築家資格を剥奪=JIAの会員でいられなくなるという仕組なので要注意である。現在は試行期間であり、2002年度から正式にカウントが始まる。建築家資格そのものが目標としてしか位置付けられていない現時点の状況から言えばCPDの強制力は弱いが、近い将来、建築家という資格が単なる呼称ではなく職能を果たすための資質として認知されてくれば非常に重要なものとなってくる。
 昨今は情報化が促進され、建築設計監理を巡る諸制度も目まぐるしく変わりつつある。これからはその変化に対応していかないと取り残される。CPDもまさにそうした制度の一環として位置付けられるものだと思う。
 長野県クラブとしてはいち早くこの制度に反応した。すでに河野進副会長や大宇根弘司CPD運営委員長を招いて勉強会を開催した。そして本年度は会員委員会が中心となって認定プログラムを備え、単位取得の機会を準備している(下記スケジュール参照)。具体的に単位を取得するためにはJIAのCPD評議会が認定したプログラムを受けるか、個人的に建築見学や読書をしたり、他団体を含めた職能活動などに参加してもよい。ということは私たちの日常の仕事の中で行っている研鑽がCPD単位に置き換えられるということになるので、それらを極め細かくカウントしていけばよいとも言える。着実に仕事や団体活動をこなしていればほとんどがクリアできるはずなので、申請を怠らないことである。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」2001年11月1日掲載

建築士事務所のディスクロージャーとエンクロージャー

 わが国は外国に比べてIT化着手にかなり出遅れてしまった。そうした経緯はともかく、政府でも電子政府や住民基本台帳の全国ネットワーク化などを考えている時代状況である。情報と言ってもその内容や質においては実にさまざまなレベルがあるが、今やあらゆるジャンルにおいて情報はどんどん開示されつつある。「ディスクロージャー」とはいわゆる情報開示のことを意味している。パソコンや携帯電話などの普及と通信の高速化が、こうした傾向の進化に益々拍車をかけている。
 ディスクロージャーは時代の要請であるが、現在の動向の背景にコンピューターテクノロジーがあるのは否定できない。古来、人間は言葉によって情報そのものを作り出し、音声によって伝達してきたが、印刷機械の発明によって文字をペーパーに印刷して広く伝えたり記録したりすることが可能になった。テレビやラジオなどの電波による画像情報伝達ツールもマスコミュニケーションを促進する上では大きな役割を担ってきた(いる)が、今はマルチメディアであるコンピューターによって文字、画像、音を含む情報が一期に電子化されネット上に掲載されていることが多い。このことは、情報伝達形式が、ペーパーという媒体の上に印刷して配布するという形式から、パソコンという媒体の上に電子化して配信するという形式に転換されたことを意味している。情報はワールドワイドに発信され、しかもダイレクトに伝えられる。ペーパー情報の場合には発信者と受信者が結び付くまでに多くの時間がかかっていた。電子情報の場合にはタイムロスはない。つまり、ディスクロージャーは理論的には最大の効率を目指している。しかしパソコンがパーソナルなツールであることを勘案すれば、IT化が遅れているわが国ではそのメリットは活かされていない。
 次に建築士なり建築士事務所の立場からディスクロージャーについて考えてみなければならないだろう。仕事に必要な行政関連情報を例にとってみても、今までは上位下達でペーパーによって通達されてきた。しかし今ではそうした情報はネット上に並べられている。公共建築の発注情報や入札結果をネット上に掲載する行政庁も登場してきている。CALS/ECによる電子入札が実施されるのも間もなくのことである。私たちの業務に直接影響のある部分がどんどん電子化されている。
 ところが、一方で情報を活かせないでいる人や建築士事務所が多いのも実態である(斯く言う私もつい最近まではパソコンを飾り物にしていた)。CADは日常的に活用しているけれどインターネットや通信は経験がないという人も多い。パソコンリテラシーが新しい事態を引き起こしている。かつては文字を読めない人たちがたくさんいた。今はパソコンを動かせない人たちと言いかえられる。かつてアジアやアフリカの諸国のことを文盲率が高いとか後進国と言ってきたが、今や日本はパソコン盲率が高い国というわけである。むしろ韓国やインドなどの国々がはるかに先進国であるのが実態である。
 ディスクロージャーは全ての人に公平に情報を開示することを目指している。だがそれに対応するには受信者の主体性が必要になる。ツールを使いこなせるか否かでグループ層が形成されてしまう。これが「エンクロージャー」である。かつて建設業界は技術力によって囲いこみが行われていたが、今は情報によって囲いの中にいる人たちと外の人たちと区別される。場合によっては情報入手の速度によってチャンスが活きたり活きなかったりする。私たちの生き残りはネットに入りこむところから始まる。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:「かすがい」2001年10月25日掲載

「男たち」の家づくり

 かつて家長などという言い方をされて父の権威が強かった時代には住宅の問題に限らず家庭内のすべての問題は父の独断で決定されていた。父は住宅普請についてもかなりの素養や見識を身につけていた。しかし女たちにとって決して使い勝手のいい住宅ではなかったのも事実。時代が変わり、いつしかお父さんたちが経済の歯車に翻弄されてほとんど家庭にいない状況になると、家庭内の家事や育児などは全面的にお母さんまかせになっていった。お母さんはかつての住宅に対する反動のように明るく機能的な住宅を求めた。田の字型や中廊下形式のプランは敬遠され、こぎれいなキッチンや家事室、プライバシーを守れる寝室や子供室、メルヘンのような外観などが要望された。女性コンシューマー向けの華やかな住宅雑誌や可愛いインテリア雑誌などが数多く書店に並んだ。男たちが住宅に無関心で何も期待していないとなれば、住宅は必然的に主婦と子供の のとならざるを得ない。結果的にフィジカルな豊かさは実現したが、女性の潜在的な願望を具現化したファンタジックなイメージがカテゴライズされていった。住宅は人間形成の空間というよりも使いやすいファンシーな道具(つまり商品)としての様相にとどまることになった。
 ところが、最近は男性雑誌が頻繁に住宅の特集を続けている。「Pen」、「Memo」、「一個人」などはそもそも住宅専門雑誌ではないが、男のライフスタイルを取り扱うことをコンセプトにしているらしい。その一貫として住宅もスポットを浴びているというわけだが、女性雑誌とは対照的にスピリチュアルな豊かさを感じさせる個性的な空間が登場する。狭小敷地に工夫して建てるとか昔懐かしい民家の趣を再現するとか、、、。建築専門雑誌の目線とは違っている。建築表現の芸術性追求ではなく住まい手の生活という視点から住宅を見ているところが今までになかった着眼点で好評なのだと思う。
 最近の男たちは仕事だけを生きがいにしていない。休日など自分の時間を上手に活用できる若い世代が育ってきた。家にいる時間が長くなると、自分の居場所のないことに気付く。リフォーム?建て替える?予算はない。個性のない商品住宅では納得できない。自分のライフスタイルにあった家とは何か?そこで登場するのが「先生ではない建築家」といったパターンのようだ。インデックス化された建築家の中から自分の好みにあうタイプを探す。これが最新の図式になっている。
 今、男たちは失った自分を探し始めている。女たちも社会に出るようになり同じように自分の存在について考えている。住宅は道具的様相を脱却し、癒しの場であるとともに精神を醸成する場であることを期待されつつある。だから素材や空間にこだわる。形式的なパターンにこだわらない。家族という人間関係に対する価値観も地域における人間関係も変化している。住宅建築における従来の意識が少しづつ変わり始めているのを実感している。

新建新聞社:「新建新聞」2001年9月21日掲載

IT化に着手

 通常総会が終って新しい年度が始まったと思った途端に、計画されていた様々な事業が活発に動き出してきました。そうした活動に影響されて、支部の組織維持に関しても変化が起きようとしています。今後よりよい組織維持をしていくための良い機会だと思われますので、積極的に取り組んでいく必要があると受けとめているところです。
■会員データ管理の再構築
 これまで当支部会員に関するデータは平成4年に市役所内事務局にパソコンを導入した際にアンケート調査を行い、パソコン内に保存されてきました。日々の会員入退会はここで管理されています。会員の皆さんには2年に一度発行される「会員の手引き」という冊子にしてお手元に届けさせていただいています。また県本会から発行されている「長野県建築士会員名簿」にも掲載されています。
 その「長野県建築士会員名簿」の刊行は、1999年の建築士会連合会全国大会を主管するにあたり諸般の事情から休止されていましたが、4年ぶりに再開されることになりました。今回から「勤務先のTEL・FAX」といった新しい項目が追加掲載されることになったとの案内がきています。このためにはここ数年間の会員入退会や異動に合わせて、掲載項目を確認して届けなければなりません。そこで支部の皆さんに対して実状確認のためのアンケートを行なったというわけです。住所変更や勤務先変更などの異動が結構多いのはこれまでの経験の中でわかっているのですが、その都度届けていただいているわけではないようなので、会として把握しきれていないのが実状です。ちょうどよい機会のように思いましたので、支部会員の現状把握をすることにしました。そしてアンケートデータを元にして、支部の既存の会員名簿を修正していきたいと思います。
■会員データ管理方法の改良
 先述した通り、当支部事務局のパソコンは導入以来久しい状況で、ハード・ソフトともに限界にきています。したがって、会員データを再整備するといってもこれをいれかえる必要があるということがわかりました。そこでパソコンの入替を行いました。
 一方、支部として独自に発刊してきた「会員の手引き」があるのですが、県本会と支部の二つの名簿の発行が同時期になることに伴う業界案内集めに要する労力などを勘案し、「会員の手引き」を中止し、パソコン管理に集約していきたいと思います。名簿の必要な会員にはパソコン上で名簿を送ることにします。印刷物と違って常に最新の内容を見ることができるようになります。もちろんパソコンを使っていない会員には要請にしたがってプリントしたものを渡すことができます。
■IT化を活用した会員データ伝達
 もうおわかりかと思いますが、今回のパソコン入替によって、懸案のメールやホームページの活用を実現することが可能になりました。メールを活用することによって事務局からの会議通知などが簡単に送れるようになります。支部ホームページも研究会のメンバーによって準備が進行しています。これからはかつてのOA化的な発想からIT化に向けて体制を整えていきたいと思います。
 情報管理については細心の注意を要する時代でありますが、会員間のより充実したスムーズなコミュニケーションの促進のために、IT化を推進していくことにご理解をたまわりたいと思います。以上の情報環境整備については過日の理事会において承認をいただいておりますので、ご報告申し上げます。
 ご意見があればお寄せいただきたいと思いますので、宜しくお願いたします。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2001年9月20日掲載

次世代建築士

 去る5月16日(木)の第51回通常総会が私にとって二期目へのスタートとなりました。役員も一部交代しましたし、ブロック長や委員長にも交代がありました。旧役員・理事の皆様方には大変お世話になり厚くお礼申し上げます。そして心新たに支部発展のため努力して参りたいと思いますので、会員の皆様のご理解とご協力をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 長い歴史を持つ建築士会の活動ですが、これまでの自己研鑚と内部的な親睦を主体とした体質から明らかに変更を要求されています。その原因は、ここにきて急激に建築士に関わる制度が大きく変化しているからです。例えば、個人に関わる資格、継続研修、業務における法律改正、ISOや電子入札、PFIやNPO、団体における法人格の体質修正などがそうですが、かつてない囲い込みの時代が現実的にやってきそうな気配がただよっているのです。ネット型社会への移行と並行して進められているので状況が見えにくくなっています。ネット型社会というのは待っていれば上位下達式に情報が伝達されてくるという社会とは全く異質のもので、自分がネットに入りこんで求めれば伝達されてくるという社会のことですから、ネットの外にいると身近な問題が自分の知らないはるか遠くで知らないうちに決められているといった情況もおきるわけで、距離感や現実感がなくなってしまう危険性を充分にはらんでいます。したがって状況の変化にきちんと対応していかないととんでもないことになってしまうというわけです。
 私はこうしたシビアな囲い込みに対して高い問題意識を持ちながら、良質なサービスを提供できる主体的な姿勢の建築士だけが次の時代を担っていくことになるだろうと考えています。制度の変化は社会が私たちに求めているニーズの変化と言いかえることができます。私たちは社会の期待に答えるために迅速かつ正確に情報をキャッチし、それをベースにして生き残りをかけた新たなる自己研鑚にウェイトをおいていかなければなりません。
 状況として個人としての課題、業務としての課題、団体としての課題がそれぞれあるわけですが、建築士会の当面の活動としては総括的に状況推移を見渡すことと意識の高揚に照準をあわせていかなければならないのではないかと思っています。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2001年7月25日掲載

建築士事務所協会とビジョン

 最近は建築関係にとどまらず、どんな団体でも組織の維持に頭を抱えている。会員増強が合言葉になっているものの、むしろ減少の勢いのほうが強い。退会防止が合言葉に置き換わっている。建築士事務所協会でも状況はまったく同じで、その成果は芳しくない。
 現状では確かに、いつ回復するとも知れない不景気の影響も大きいと思われる。会費に応じた実益を感じることは実質的に不可能になっているから、団体離れも仕方がないと思っても無理はない。小規模事務所や若年者にとって会費納入に大きな負担感が伴うのもうなづける。
 だがそうだとすれば会費を低額にすれば退会を防止できるのか?無料にすればいくらでも増強が促進されるのか?誰しも会費が安いに越したことはないが、会員増強が思うようにいかない最大の原因はもっと根深いのではないか?表面的にはそうしたことを原因として挙げても、本質的には団体の魅力というか意義そのものが見えにくくなっているというところに大きな理由があるのではないかと思う。
 多くの人にとって団体に所属することにはそれなりの期待が伴う。なんの期待であるのか?
 そもそもは個々人ではその発言にパワーが生じないが、集団になって意思統一ができればそれは大きなパワーになって現象するというところに業務系団体の設立意義があったのだと思う。かつてその成果がはっきりと確認できた時代もあった。しかしこのところその成果が確認しにくい状況が続いている。最近はそうした状況がクールに評価判断されてしまう。外から見れば無気力な団体にしか見えないのかもしれない。
 建築士事務所協会の場合には、建築士事務所という業務の社会的認知を確立することを目指していたし、今もまだ不充分な部分が多いからそれを継続している。確かに設計や監理の意味すら理解していない人が世に多いのが実状である。では今後もこれだけを目的としていけばよいのか?
 私たちは今、団体の進むべき方向について改めてきちんと考え直なければならない重要な時に立たされている。漫然と歩むだけでなく、現状の問題を正しく解釈し将来のビジョンを持たなければならない。組織維持のためのルーチンワーク的な運営ではなく、どうしたら建築士事務所の体質の向上や業務の向上がはかれるのかといった根源的なテーマに回帰する必要があるのではないかと感じている。
 とても難しい問題ではあるが、個人的には「形式から実質へ」を指針とし、社会に向けて積極的に接触を求めることを戦略としていかなければならないだろうと思っている。会員事務所の業務向上に結び付く内部的な活動も依然として大切にちがいないが、公共・民間を問わず設計や監理の重要性をより正確に認識してもらうべく表面的ではなく実質的な成果のあがる外部的な運動をしていかなくてはならないだろう。具体的な戦術的行動についてはディスカッションをすべきだが、現在の事業の内容を見直してこれから必要な事業や体勢を創案していくことも真剣に考えなければならないと思う。形式という器を整えるとともに実質的な中身をも整えることによって、会員それぞれにとっての具体的な益部分をつくっていくことが大切だと思っている。
 共感できる活動であれば会員は増強されるはずである。建設ブームが過去となった今、これからの世代にとっては少ないチャンスを活かすために自分の存在を認めてもらうことが最大の欲求であると思う。建築士事務所協会がそうしたきっかけになり得ると理解されれば団体組織としての前進がある。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:「かすがい」2001年7月25日掲載

建築士事務所協会の具体性

 建築士事務所とか建築士事務所協会という名称から一般の人たちはどんな業務をイメージするのだろうか。アンケートでも実施してみれば詳しく実態がわかるのだろうと思うけれど、恐らく具体的に仕事内容を理解できている人というのはあまりいないのではないかと思ってしまう。私たちはよく「設計士さん」と呼ばれることがあるが、設計とか監理といった作業内容をおぼろげに了解していても正しく理解しているとは言えないように思う。いざ設計を依頼されていても、作業途中で思わぬ理解不足を経験することも案外多いのではないかと思う。個々の事務所に設計を依頼してくる人たちは既に設計・監理の内容についてある程度の知識があって依頼してくるので良いとしても、社会の多くの人々は理解していないと言ったほうがいいかもしれない。
 私が最近考えていることは、建築士事務所が行っている業務内容に対する理解がなかなか社会に浸透しないという状況にどのように対処していけばよいかということである。基本的には個々の事務所が誠実な仕事をして、その結果としてその価値を認められていけば最も望ましいことである。建築士事務所とか建築士といっても世の中には欠陥建築づくりに加担していたり道義的に不正な行為をしているような輩もいることがテレビや新聞でも報道されたりしているので良くないイメージもできているが、建築士事務所がそれぞれの立場でできることは倫理を崩さず顧客満足度の高い仕事を積み重ねていくことであろう。だがそれは広く理解を得ていくためには閉鎖されすぎている。時間もかかりすぎる。
 そこで建築士事務所協会という団体組織の活動にいま改めて期待がかかる。建築士事務所協会の現状はと言えば、外部に向けての活動はやや低調と言わざるを得ないように思われる。組織維持の基盤が弱体化してしまっている(どの団体もある程度似たような状況かもしれない)のも事実であるが、やはり社会とのコンタクトをどのようにしていくのかは大切な課題である。先ほどのように個々の事務所では取組みにくいテーマに対して組織力をもって推進していくことができるというかやらなければならない存在だからである。
 今までにも団体としての取組みがなかったわけではないことも承知している。でもなかなか成果として顕著ではなかったというのが事実なのではないかと思う。厳しいこんな時代であるからこそ、これまでにも増して前向きに行動を起こしていかなければならない。思うにこれまではだいぶ抽象的なアピールだったのではないか。いまはもっと具体的に私たちの「顔」を見せていかなければならないように感じている。建築士事務所の作業のチャートや報酬などを示していくこともベーシックなこととして必要だと思うが、いまの社会が求めているのは、具体的に会員の「顔」や「腕」を見たいということではないか。
 例えば、私たちは多く住宅設計を手掛けている。最近はその住宅の設計や施工が幅広い方法に拡散している。だから一口に設計といっても一般の人たちから見れば理解しにくいのが実状だと思う。一般の人たちは設計という行為とは別にどんなデザインや仕事をしてもらえるのかを情報として知りたいと思っているはずである。いままでのアピールではそうしたことは基本的に意図されてこなかった。公益法人という性格上、あまり過度なことはできないにしても、社会の求めに応じていく姿勢を整えることは急務ではないか。建築士事務所協会が設計仲間からの求心力をもって存在し、発展的に活動を持続していこうとすれば具体的に会員の仕事ぶりを紹介するとか作品と言えるようなものを見てもらうようにするとかいったこと(他にも方法はあると思う)を積極的にして実行していかないと、いつまでたっても霧がかかっていて建築士事務所の実態が見えないままになる。世の中はいま透明性を求めている。隠しているような気配だけですら敬遠されてしまう。具体的な方法論について意見を出し合ってはどうか。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:「かすがい」2001年4月25日掲載

JIA長野地域会クラブ情報化への取組

 しばらく前は情報化社会の到来といっても、テレビでリアルタイムに海外からのスポーツ中継に接することができるようになったとか迅速に世界の現代建築情報に接することができるようになったというような感覚で、何気なく認識していたように思います。それは地方にいるせいなのかメディア中心の情報だったせいなのかよくわかりません。しかしこのところパーソナルなレベルでもインターネットなどが普及し、急速にその渦中に巻き込まれたように実感することができます。
 今年度JIA長野県クラブでは「情報特別委員会」を設置し、クラブの情報化について取り組んでいます。私どものクラブは正会員約80名と賛助会員約80名で構成されています。専任の事務局員がいてパソコンも導入されています。会員においてもこのところパソコンによるインターネットや電子メールを利用するケースが増えているようで、そうした状況をクラブとして有効に活かし、時代の動向に対応していくことを課題としてこの特別委員会が設置されたのです。
 早速全会員に対して情報環境アンケートを実施し、リスト化しました。メールについてはかなり多くの会員がアドレスを取得しており、会員相互の連絡ネットとしても期待できます。またクラブとしてのホームページもオープンしました。今のところクラブの活動紹介・事業案内・会員リンクが掲載されています。まだ満足のいく内容ではありませんが少しづつ充実していきたいと思っています。合わせて会員リンクを機能させるために会員独自のホームページのオープンも働きかけています。昨年私どものクラブでは「愛と情熱の家づくり」という本を出版しましたが、会員リンクもこの本同様に親しまれるものになってほしいと考えています。

JIA関東甲信越支部:「Bulletin」2001年3月15日掲載

建築士事務所協会と情報発信

 いよいよ21世紀です。20世紀の終盤には、来る世紀はどんな様相になるのかといった予想やビジョンが流行のようになっていました。その大方は、浮かれたものではないにしろ安定したイメージのものだったように記憶しています。しかし、実態はなかなか厳しい幕開けです。
 一連のトレンド予想のなかには情報時代の到来というのがありました。今日、私たちの身の回りには情報があふれています。情報のツールであるパソコンや携帯電話が爆発的に普及し、手段もパソコン通信からインターネットに移り、情報が日々大量生産・消費されています。
 一方で建設業界はほぼ全面的に暗いイメージの雲に覆われています。培われてきた着実な技術が活かされず、欠陥建築が横行する社会になってしまいました。そうした不行き届きはごく一部のことであるのかもしれませんが、一般社会からかなり厳しい評価をされているのは事実です。品質確保促進法などの法律の登場は象徴的な証拠といわざるを得ません。
 こうした状況を重ね合わせて考えると、私たち建築士事務所を一般社会から正しく理解してもらうために効果的な情報発信をしていく必要を感じとることができます。これまでメーカーなどは企業としての情報戦略に基づき社会に対してメディアを媒体とした宣伝広告をしていますが、建築士事務所は全くといっていいほど情報発信をしてきませんでした。単体の個別設計をしているのでアピールする材料が整いにくいのも事実かもしれません。暇も費用もないのも事実かもしれません。でも本質的にそういう意識が欠如していたとも言えそうな気がします。
 考えてみればこれまではあまりにも閉ざされた業種でした。社会から見ればブラックボックスであり、近寄りがたい世界だったのではないでしょうか。建築士事務所どころか建築士といった呼称すら理解されていないのに、自己満足的な仕事をしてきただけなのではないでしょうか。私たちは世の中の特殊な人たちのために仕事をしているわけではないのに、世の中からはそう思われているのではないでしょうか。今必要なのは建築設計や監理についての正しい情報を社会に発信することです。あるいはというかむしろ誤った認識を是正していくことです。
 私たちはだれのために仕事を通して社会貢献をしているのか再認識するべきでしょう。私たちが地域社会の中で密着しながら仕事をしようと考えるなら、地域とのパイプをもっと太いものにしていかなければなりません。
 IT化などと言われている風潮に流されることはありません。問題は情報の内容であり質だと思います。しかも一般の人たちがわかる言葉で語り始めなければなりません。
 こうした問題に対してはすでに個々の事務所で取り組んでいるかもしれません。しかし、私がここで言いたいのは団体組織としての情報発信です。個々に実施しているだけでは単なる宣伝でしかないと思いますし、専門家集団として業務内容についての正しい理解を求めていくことに重要な意義があると思うのです。情報戦略をもった組織になることがサバイバルの条件だと思います。そう考えるとこれは支部だけのテーマではないのですが、まず小さなところから動きだすことも必要です。アピールできる内容は十分そろっていると思います。手段や機会については研究しなければなりませんが、いくらでも利用できるものはあるはずです。
 これまでの無発信状態から動き出すことは時間もエネルギーも要ることですが、今からでも始めなければならないと思っています。いかが。

(社)長野県建築士事務所協会長野支部:「かすがい」2001年1月25日掲載

建築士の原点と未来

 謹賀新年!謹賀新世紀!
 いよいよ21世紀です。それぞれに新しい世紀に期待を膨らませていることと思います。
 新世紀を迎えるに先だって社会的にいろいろな動きが目立ちました。21世紀元年を迎えた今、そうした様々な動向を見ていくと建築士の原点と未来が見えてくるように思えます。
 責任社会への移行はやや唐突な登場の仕方でした。欠陥住宅などの社会問題化という前兆に続いて、品質確保促進法や新しい建築基準法がそうした状況を明確に浮き上がらせました。沈黙していたクライアント側からの発言を契機に、つくり手としての責任が問われることになりました。もちろん私たちが無責任につくっていたわけではありませんが、緊張感に欠けた部分があったとしたら引き締めなければならないでしょう。曖昧さを許容し合う状況のなかで日本人のムラ的信頼関係が築かれてきたことも事実ですが、時代はそれを変えようとしています。建築士とはそもそも誰のために何をする資格(責任)なのかについて今改めて考えることが求められています。この問いかけは私たちに原点を思い出させるきっかけでもあります。私たちの仕事は自己の営利や自己実現のためだけではなく、その専門的な知識や経験をクライアントのために役立てることが基本です。そこには責任と信頼関係が両立していなければなりません。責任は確かに重要なことですが、もう一方で互いに意気投合した信頼関係のなかで関係者全てが「満足できる建築」を実現していくプロセスに私たちの仕事の価値があるのだと思います。そうして完成した建築は、商品としての建築を超えて建築文化をつくり出すことになっていくのだろうと考えています。
 また、私たちはクライアントに対すると同時に、広い意味での社会のため、言いかえればまちづくりや環境に対しても重要な使命を負っています。クライアントへの責任や信頼と同時にそうでない範囲の人たちにも責任と信頼を果たさなければなりません。これらは法律などで支えられるものではありません。建築士の良識と社会性が問われています。ここに建築士の未来が見えているのではないかと思います。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2001年1月25日掲載

21世紀に期待されること

 21世紀初年、謹んで新春のお喜びを申し上げます。
 私が「自然体」と言って、(社)長野県建築士会長野支部長をお引き受けして二回目の新年を迎えました。私たちを取り巻く状況は就任当時と変わらず厳しさが続いています。したがって「がんばらない」的精神に沿った「自然体」の姿勢が相変わらず相応しい社会情勢です。
 しかし、言うまでもなくその言葉はただ単に自己ヒーリング的な姿勢を意味しているわけではありません。確かに団体組織という性格を考えると依然として活動内容は厳しい自制のうちにあります。しかし「自然体」とは実は情況に柔軟に対応する流動性を含む表現であって、来る21世紀にむけて私たち建築士はかなりがんばらなければならないという側面も強く実感しています。最近の建設界はあまりよい評価ではないように思うのは私だけではないでしょう。建設すること自体が環境保全や景観維持などに反すると言われたりマナーについても厳しい評価を受けているようです。「がんばる」ということの真意は自分だけが生き残るために企業論理を優先して力づくで社会に立ち向かうという意味ではなく社会が求めている方向や進むべき方向を察知しながら建築士としての総合的な判断をもってそれを推進するという重要な社会的役割を果たしていかなければならないというところにあります。従属的ではなく、むしろ建築を通して社会や生活をつくるとか文化をつくるという大切な使命をしっかりと受け止め、社会をリードする立場と責任を背負っていかなければならないのです。
 こうした使命は職能といわれています。今私たちががんばらなければならないという理由は、この職能が圧迫されていると感じられるからです。昨今はマスコミにおいても立法においても消費者論理が強く聞こえてきます。これはある意味で全く妥当なことで、そのこと自体は異存のないことです。しかし、その論理の実態は経済性と責任の追及だけに集約的に表れています。これでは決して望ましい姿とは言えないのではないでしょうか。本来の消費者論理が目指すところは、その生活の器である住まいの質の向上を実現していくことにあるはずです。そうした本質的な部分にふれず、表面的な保護策によって対立的な構図を浮き上がらせたことで良い結果を導けるのか?建設会社や職人までもが萎縮して仕事をするような状況になっています。先ほどもふれたようにそもそも建築士と消費者(クライアント)は向き合う関係ではなく、協同して夢をより素晴らしい形で実現するパートナーでなければなりません。
 大切なことは社会と建築士の関係、クライアントと建築士の関係のあり様ではないかと思います。それは身勝手な消費者論理を甘受するということではなく、パートナーとしての信頼関係を築くことが必要だという意味です。個人の人格において、また建築士の資格において品性と熱意を持たなくてはなりません。
 建築士が専門家として社会から信頼を得るためには、時代をキャッチする目線と自己研鑚が必要になります。21世紀の入り口に立った今、環境・福祉・景観などといった新しいものさしが定着しつつあります。こうしたものさしは建築に密接に関係があるため、建築士としては大いに「がんばって」研鑚しなければならないと思うのです。
 これまで建築士は社会に対する発言や行動が上手ではありませんでした。社会の期待とはかけ離れた次元で自己満足していたのかもしれません。従っていろいろな誤解を生んでいます。これからは自己研鑚したことを大いに発信していく必要があります。あるいは社会とともに歩むことも必要です。こうした部分はまさに建築団体の使命ではないかと思います。私たちが能動的に社会に働きかけることによって信頼関係を築いていくしか方法はないでしょう。社会の期待や信頼に応えることはたやすくありませんが、今こそ「がんばって」実行することを期待されているのです。

㈱建設タイムズ社:「建設タイムズ」2001年1月2日掲載

21世紀に「建築文化」を築けるか

 確かに社会は時代に即したニーズをもって旧態依然とした建設産業界に変化を求めているが、建築の創造に関わる設計セクションに関して言えば、法定化された性能基準や煩雑化する制度などによってむしろ閉塞化させられているように見える。建築家が自己満足的なデザインを展開して景観を破壊したり安全を無視するようなことをよしとするわけではないが、責任を強調するあまり建築文化を創造していく行為そのものの矮小化が顕在しているというのが実感ではないか。時代を導くデザイン論自体も新しい展開を見ないまま、外部からも圧迫されつつあるのが現状である。時はまさに21世紀である。この機に「建築文化」を築くという基本を正面から考えないと建築そのものが疲弊して無気力に状況に押し流されるだけになってしまう。今しなければならないことについて考えてみたい。
■内的要素1 建築家としての「品性」の確立
 建築の品質が施工の良悪にかかっているのは事実だが、品質確保はすでに設計時点から始まっていることを考えれば建築家の品性の再確立が重要である。自らの設計が単に経済行為ではなく社会にとってまた文化形成にとってどのような価値や意義があるのかについて理解するよう努めなければならない。日本建築家協会は建築家資格を確立しようとしており、その一環として自主継続教育制度を導入し始めた。その核心に自らの独立性や品性に関わるものがあってほしいと思う。品確法以前に「品格法」がなければならない。それとともに建築家は時代の価値観を機敏に読みとらなければならない。つまり、環境、景観、福祉などについて自己の問題意識と品性ある解決の方法論を持たなければならない。
■内的要素2 建築設計団体が動く
 建築設計者の団体組織はそれぞれ活動の趣旨は違うものの、建築文化創出のための対外的な活動に本格的に取り組まなければならない。建築家が社会のことを考えながら「わたし」のために何をしてくれる存在なのか理解を深めてもらわなければ、建築家が建築文化を創造していくステージすらできない。組織力の有効活用がキーになる。
■外的要素1 法律や制度に対してものを言う
 法律や制度、資格などは社会のニーズに従っているとすれば、今の社会は建築文化を築くことを期待していないように見える。例えば部分的な性能を要求しても住まい全体としての住みよさの体感を期待してはいない。(最近の法律や制度などの影には行政人の余生の保証が潜んでいたりする。)それでも法律はモノづくりに大きく作用する。創造する立場から社会にむけた意見の発信が必要になっている。さもないとじりじりと追い詰められた創造になってしまいそうだ。最近、設計変更手続などによって工事監理が後退しているとの指摘があるが、設計に伴う多様な手続によって設計創造行為が後退しているとも言える。
■外的要素2 設計者選定に質的ものさしを加える
 公共建築の設計者選定方式としてプロポーザルやコンペが採用されている。しかし、現実には数字で示される要素や実績主義で選定されていることが多いと聞く。これで建築文化が築けると考えられているとしたら遺憾なことだ。長野県はまだまだ建築によって文化を創造していくという意識には乏しいのか。行政ばかりでなく民間でも設計者の「建築文化貢献力」ないしは「建築文化貢献可能性」を選定材料として加えるべきであると思う。
■第三者的要素 ジャーナリズムの役割
 ジャーナリズムが単なる情報伝達産業であっては物足りない。産業フォロワーではなくむしろオピニオンリーダー的な姿勢が期待される。自ら建築文化をものさしとした評論精神を持ち、一般社会に広く働きかける機能を維持してほしい。新建新聞への期待は大きい。
 建築設計の目的は単に機能充足にあるのではなく、建築文化を創造することにある。21世紀に真の建築文化を築けるかが私たちの生活や長野県の社会を豊かにできるかを決定づけるのだと思うと改めて身の引き締まる思いに駆られる。

㈱新建新聞社:「新建新聞」2000年10月27日掲載

変わりつつある建築家の周辺

 支部の幹事として役員会に出席しています。地域にいるとわかりにくい状況についてお知らせします。
 最初にJIAの公益法人化という状況があります。そもそも私たちの団体は専業の建築設計者が建築家の資質向上及びその業務の進歩改善を図ることによって公共の福祉の増進に寄与することを目指してきました。いわゆる同業者の集団であり、社会から見ると閉鎖的な団体としかみえません。これからの私たちの団体はもっと公益性のある活動をしていかなければならないという認識から公益法人の道を選んだのです。定款上では本部理事の中に正会員以外の外部者を入れるということになりました。団体の存在意義自体がかなり大きな変換をしたわけですが、これまでの活動の中にあった公益性を維持強化していくということになるのだと思います。
 村尾会長は建築家資格・教育制度を2年後に実現したいとしました。近畿支部が先行しているのは周知のことですが、国際的に通用するレベルで全国的な制度として整備されようとしているのです。これは自分自身の問題ですから、本部の議論と並行して自分たちなりにしっかり考えていかなければならないと思います。
 継続教育(CPD)は建築家資格の一環ですが、制度制定に先だって10月の支部アーキテクツガーデン及び内子大会においてテストランが行われようとしています。建築家としての資質を維持するために日頃から自己研鑚しなければ社会的信頼を得られないという発想です。所定の単位を終了しないと建築家資格を剥奪されてしまいます。詳細はこれから示されます。
 昨年のことになりますが設計者選定の新方式も提案されてきています。JIAはこれまでプロポーザル方式を提案してきた経緯もあるのですが、さらに改善を追及する立場から資質評価(QBS)方式が提案されるに至っています。設計者に対して面接を重ねて選定するという方法です。支部でも情報化推進特別委員会が設置されました。ホームページの開設やメール環境などが整備されます。
 住宅品質確保促進法のスタートに際して弁護士会の要請により紛争処理委員としてクラブから松下・出澤・高橋・羽生田・三浦・関が選任されました。専門家として社会の信頼を得られるようにしなければなりません。
 こうした重要度の高い事柄に目を留めて自らの立場を再認識し社会と向きあっていただきたいと思います。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」2000年9月1日掲載

刹那的時代と建築文化

 新年明けましておめでとうございます。本年も皆様にとって明るいよい年でありますよう心よりお祈り申し上げます。
 昨年は第42回建築士会全国大会長野大会を開催するに当たり、会員の皆様には各々の立場でご尽力をいただきありがとうございました。当支部にとっては開催地地元ということもあり、企画から運営に渡って細部までフォローをしなければならない立場だったわけですが、皆様の快いご協力により無事成功したばかりでなく高い評価をいただいたことは私たちの誇りです。皆が結集してつくりあげた全国大会は私たちの財産でもあります。
 そして大行事が終わった後の2000年。巷間ではミレニアムなどと表層的に騒ぎ立てていますが、20世紀末の日本建築産業を取り巻く環境は依然として険しい状況で、新年を迎えた爽やかさと交錯していつになく複雑な心境です。社会経済構造の根本的な改革は簡単に実現しそうにありませんが、建築士会の活動の原動力は社会全体の活力ですから一日も早い回復が強く望まれるところです。
 こうした社会状況もさることながら、建築士を取り巻く身近な状況においても厳しい様相がみられます。一部の人たちの技術やモラルの欠落によって欠陥工事などが露呈して社会問題化するに伴って、資格者全体に対する信頼の低下も起きています。時代の価値観や判断がおしなべて刹那的になるにつれて、確実な仕事を通して社会(施主)との間にじっくりと信頼関係を築くという職能よりも、自己本位な目標優先のために信頼を切り捨てる現象が起きているのです。このように、ややもすれば建築士という資格に伴った社会的役割が矮小化しかねない社会状況に対して、私たちはこれまで以上に社会に対して責任をもって信頼を回復していかなければならないと思います。そしてさらに建築が刹那的消費に終わる容器ではなく時代をこえて生き続ける文化になり得るモノであることを認識し、同時に私たち建築士がその一端を担っているという高い意識と情熱を持ち続けることが大切だと思います。刹那的社会においてあえて刹那的価値観に流されず、文化としての建築をつくろうとする姿勢をもつことこそ新しい世紀にむけて求められる建築士の資質ではないかとふと真剣に考えてしまうのです。
 本年も「自然体」で建築士会活動に取り組みたいと思います。ご理解とご協力をお願いし、新年のご挨拶に変えさせていただきます。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」2000年1月15日掲載

第42回建築士会全国大会長野大会を終えて

 第42回建築士会全国大会長野大会が無事終了しました。全国各地から5000人以上の仲間が長野へ集まり、ビッグハットでの式典はもちろんのことフォーラムや懇親会などの諸行事も大盛会でした。支部の皆さんにはそれぞれの立場で事前の準備や当日の裏方として奔走していただいたり、ご都合をつけてご参加いただいたりして本当にありがとうございました。また賛助会員や行政を始め関係各方面から多大なるご協力をいただきました。紙面にて恐縮ですが関係した全ての方々に対して心より感謝申し上げたいと思います。
 私個人の立場を申しますと準備の途中で異動がありましたので、大会への関わり方も余儀なく変更されました。最初はNAGANAOやまなみフォーラムのフォーラムⅣとフォーラムⅡに携わっていました。支部長をお受けすることになりましたが、支部として担当していた式典部会は依田前副支部長が継続してくれましたので、私はフォーラムⅡに専心することができ、むしろ流石・酒井・寺澤副支部長にすっかり迷惑をかけることになってしまいました。ブロック長や委員長始め多くの方にも支えていただき、改めて建築士会の仲間を頼もしく思えた大会でした。支部長として十分な責任を果たすことができず申し訳なかったと思っているところです。
 私が関係したフォーラムⅡ「建築士がつくる街並みのしかけ」について簡単に紹介しておきます。開催地での事例ということで私の関わった善光寺門前大門町上地区のまちづくり(もう一つは松本の事例)を取り上げてもらうことになりました。フォーラム誌・ビデオ・スライドを準備するのは大変でしたが、おかげで自分のしてきたことを見直す良い機会になったと思っています。大会時には大門町の現地説明と、スライドによる事例発表とパネルディスカッションを担当しました。全国各地から集まった方々に理解してもらえたのか心配ですが、大門町や長野市のことを知っていただく良い機会になったのはとてもありがたいことだったと思います。
 二年ほど前から取り組んできた大会が終りほっとしています。近日中に反省会も行います。これで通常の活動に戻りますが変わらぬご協力をお願いします。少し気が早いのですが、来年はそろって鳥取大会に参加したいと思いますので宜しくお願いいたします。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」1999年11月15日掲載

全国大会長野大会に参加を!

 新しい理事や委員会の構成がほぼ決定され、活動が徐々に軌道に乗りつつあります。
 いま改めて一年間の活動計画に思いを巡らせているところですが、目前に迫ってきた全国大会長野大会(10月21日~23日)の成功に向けて支部の総力を結集して取り組むことが当面の目標となっています。支部としては記念式典や各フォーラムなどを中心にして、できるかぎり多数の登録をしていきたいと思います。また各部会からの要請にも協力していかなければならないと思います。会員一人ひとりの熱い理解と具体的な参加によってそれぞれにとって有益で思い出に残る大会にしていこうではありませんか。各ブロック長や委員長を通して具体的な説明や協力要請があろうかと思いますのでその節はお聞き届け下さいますよう宜しくお願いいたします。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」1999年7月5日掲載

新任ご挨拶

 去る5月13日にホテル信濃路で開催された平成11年第49回通常総会において、長い間支部をまとめて来られた鹿熊支部長の後任として支部長を引き継ぐことになりました。若輩で会員の皆様にご迷惑をおかけすることもあろうかと思いますが、新役員共々宜しくお願いいたします。
 私は今日まで様々な立場で建築士会に関わらせていただいており、自分なりに楽しく活動させていただいてきましたが、いよいよ支部長ということでその責任の重さをじわりと感じているところです。いきなり個人的なことになって恐縮ですが、建築士会と私の関わりは、東京・大阪での生活から長野に戻って間もなく多くの方々の計らいで建築士会に入会したところから始まります。支部総務委員長の時には野球大会の担当・会員アンケートの実施・「会員の手引き」の企画・会費の口座自動引落し制度などを実現し、副支部長になってからは女性建築士委員会を発足させることもできました。こうしたことによって少しでも会員の活動のフィールドが改善されたことをうれしく思っていますが、同時に多くの仲間と出会えたことはさらに有意義なことでした。これからは積み重ねられた連帯を活かしてなお一層の活動充実を計りたいと感じています。
 ただ現在は社会的経済的に大変厳しい状況です。団体組織のような任意の活動はどうしても停滞しがちです。このような時期に無理をしたり背伸びをすることが活性化になるというようにはなかなか思えません。といって悲観的に沈んでいるわけにもいきません。私がいつも大切にしているのは「自然体」という姿勢です。じっとしているという意味ではなく、できれば前向きの自然体がいいと思っています。建築士会の活動もそのような姿勢によって少しづつでも成長していければよいと思っています。
 当面私たちはこの秋10月21日~23日に予定されている建築士会全国大会長野大会のための準備に取り組まなければなりません。これまで本会のレベルで全体的な内容構成などについて協議を重ねてきていますが、当支部としては開催支部ということで全面的に関わっていかなければなりません。限られた人たちだけが頑張るというよりも、できるだけ多くの会員が少しづつ力を出し合って様々な形で参加してほしいと考えています。私たちはこれまで各地の全国大会に参加してきましたが、今年は立場が変わります。長野を訪れる全国会員のためにホスピタリティをもう一度(オリンピックに続いて)示そうではありませんか。長野支部初年度として21世紀の建築士会活動の活性化へのステップとなるような充実した全国大会にしたいものです。具体的なことは改めて示していきたいと思いますのでご理解をいただきたいと思います。
 最後になりましたが、支部活動に対する皆様のご協力をお願いしご挨拶にかえさせていただきます。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」1999年5月25日掲載

JIAと地域活動

 建築設計に関連した団体組織はいくつも存在する。JIAの他にも私たちに縁が深いところでは建築士会や建築士事務所協会や建築学会等がある。言うまでもなく各団体ともその成立の理念や資格等において独自性をもっており、活動の内容もその趣旨に沿ったものとなっている。それぞれの存在意義や区別についての議論は本旨ではないので別に譲るが、個人的にいろいろな団体に関わっていて感じるのは、団体としての内的活性化はある程度可能なように見えるが、社会性のある活動言い換えれば地域社会に対するアピールというのはなかなか難しいということである。そもそも団体というのは目的や構成も様々で、企業のように忠誠的に結集しているわけではなく任意に成立しているものなので、対外的な企画を実行し継続していくには相当なエネルギーを要する。
 JIAはその成立理念の一つに建築家としての職能の確立を掲げている団体である。このような団体にとって社会性のある活動は非常に意義深いことである。他団体に比べて成立が新しく、ましてや不況下で団体力が低下している折から対外的活動にエネルギーを注ぐのは困難を伴うが、言い訳をしているわけはいかない。
 JIAは既に建築家資格制度・プロポーザルのガイドブック・保存運動・アーキテクツガーデンなどの社会的活動に取り組んできているし、長野県でも文化講演会や学生卒業設計コンクールやまちづくりフォーラムなどは社会との大切な接点となっている。また、あすなろ巡回展や(仮称)建築家カタログへの取組みなども社会とのパイプになっていくことだろう。いきなり大きな成果をつくることは難しいが、着実に積み重ねていくことがいつか社会的認知を得る確実なプロセスだと思う。社会という抽象的な全体像を対象にしても切り口を見出すのは難しいかもしれない。JIAとの関係のなかでどういった層に働きかけていくことに意義があるのかについて少し分析的に検討してみることも良いのではないかという気がしている。行政、将来のクライアントになる?お父さんたち、女性たち、次代を担う学生や子供たち・・。
 私たちが建築設計という業務手段を通じて社会創造をしていくために、団体としての組織的地域活動がもたらす効果は確実にあると信じたい。組織として社会とどんな関わりをもてる活動をしていくのか。みんなでそのことを真剣に考えていく時がきている。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1999年5月1日掲載

建築家資格制度勉強会

 既に8年以上に渡って建築家資格制度の研究に携わってこられた椎名政夫先生をお招きして、懸案だった勉強会が開催された。出席者は約25名と少なかったが、講演は明晰な中にも熱のこもった内容で有意義であった。
 わが国では約50年前に建築士法によって建築士資格が定められているが、諸外国でいう建築家資格とはだいぶ趣を異にしているらしい。それに対する素朴な問題意識から議論が始まったのはJIAの前身時代にさかのぼる。団体内部での研究を経てJIAとなり、諸外国の調査、自主認定の提唱などの過程を経て行きつ戻りつしながら、今日では第三者認定による制度化を目指しているようであるが、まだまだ継続中の幅広く奥深いテーマになっている。現時点では建設省によるフレームワーク委員会やUIAの指針を待っている段階で、近い内に何らかの方向性が示されることになりそうだ。
 この問題を通して考えさせられることがいくつかある。そもそも「建築家」とは何かと改めて思う。我々の集団は自称建築家をもって成立しているというのが現状であるが、どういった基準をもって建築家を規定するのかはなかなか難しい。建築士の中のエリートを建築家と呼ぶのか?技術だけでなく資質や倫理を含めた資格だとすればふさわしい資質や倫理とは何か?専業建築家と兼業建築家の相違はどこか?建築家の責任とは何か?素朴で楽天的なナルシシズムや自己主張だけでは社会的に認知される存在にはなり得ないのではないか。
 また、建築家資格が制度化されると何がどう変わるのかがわかりにくい。単に名称が変わり、社会的地位が担保されるというような単純な問題ではないと思う。建築家と建築士の区別をどうするのか?設計監理と設計施工の境界はどうなるのか?構造や設備の専門家との関係をどうするのか?また設計や監理の発注の仕組みはどう変わるのか?大袈裟に言えば日本の建設産業構造が根底からくつがえされるような大きな変革を伴うことになるかもしれない。資格制度化の主張にはこうした社会システムに対する壮大なビジョン提案がないと説得力がないのではないかと思う。一般の人たちからみてもますます理解しにくい方向にいってしまうのではないか。
 私には建築家資格制度問題がますます身近なものに感じられた。みなさん、これは他人事ではありませんよ!

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1999年3月1日掲載

建築家に期待されていること

 繁雑な日常の仕事に忙殺されていても、私たちに何を期待されているのかとふと思い返す瞬間がある。それには二通りあって、一つは私個人に期待されていることであり、もう一つは建築家という立場に期待されていることである。個人への期待に対しては持てる能力を活用すればよいが、建築家という職能に対する期待に対しても仕事のみでなく地域に根差した様々な活動を通して応えていかなければならない。建築のもつ公共性ゆえにクライアントだけでなく社会や市民、行政からの期待も大きくなっている。景観問題、環境問題、福祉問題、まちづくり、再開発等についても発言や協力を求められる。しかし一方で果たして建築家や設計事務所は社会の信頼を勝ち得ているのかと思うこともある。「クライアントの希望を無視して他人のお金で奇抜なデザインをして得意がっている変わった人種」等と相変わらず思われているのではないか。私たちにとってクライアントに誠実に応えることが中心課題であるが、与えられた活動の機会の中で更に広い期待にも応えていかなければならない。知識や経験、独創的なアイディア、持久力も必要になる。ボランティア精神もリーダーシップもなければならない。そうした期待に押しつぶされないように頑張りたいものですね。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1997年10月1日掲載

やさしい住まいづくり 建築時のポイント

 連載が始まって10回目。いよいよ最終回です。これまでは住まいの中を場所(部屋)毎にわけて具体的にどんなことに注意したらよいかお話してきました。今回はまとめの意味で「やさしい住まい」に対する考え方についてお話してみたいと思います。
 今回の連載は高齢者に対するやさしさに関するものですが、人間に対するやさしさと言い換えることもできます。生まれた子はやがて元気な若者になり、アッという間に人生盛りの壮年期を過ぎて、必ず誰もが高齢者と呼ばれる状態になるからです。高齢者に対するやさしさとは他人に対するやさしさのことではなく、自らに対するやさしさを意味しているのです。ともすれば福祉とかやさしさという言葉は他人に対するまなざしとして使われているようですが、自分のこととして考えれば誰しも真剣にならざるを得ませんね。
 ただ、高齢者にとって暮らしやすい住宅がやさしい住まいであるとしても、その設計の最も難しい点は、人間の肉体的な面だけでなく精神的な面まで含めた個人差、また一人の人間をとってもその身体機能低下の内容や程度に応じて状況や対応がまったく違うところにあります。元気なうちから高齢化を予想してあらゆる状況に対応できるように設計しておくことはなかなか難しいことです。足腰の衰弱のため自力での移動が困難な状態、目や耳などの感覚器が衰弱した状態、痴呆状態、寝たきり状態等によって必要な設備や装備がかなり変わってしまいます。ある時期に必要でも少し経つと不要になってしまうこともあって、改造のために要する労力や経済負担は並大抵ではありません。
 そこで住宅を建てる際のポイント。機動戦士よろしく介助器具のフル装備を考えるより前に、平面計画をきっちり検討する必要があります。まず基本的にあまり細かく部屋を区切らず、できるだけ広いスペースとして融通性を確保すること。また移動に伴う負担を軽くするため、部屋間の移動距離をできるだけコンパクトにすること。そしてディテール(部分詳細)については必要幅の確保、段差の解消等に気をつけましょう。敷地条件や家族構成等も考慮しながらこうした点に留意して総合的に検討するには、専門家のアドバイスが欠かせません。介護の現実に対する知識や粘りつよいやさしさを合わせもった女性建築士たちは「やさしい住まいづくり」の良いパートナーになってくれるはずです。

㈱週刊長野新聞社:「週刊長野」1997年8月23日掲載

専業と兼業の境界

 徐々にとはいえ公共建築物の設計発注がコンペやプロポーザル等の方式に変わりつつある。低報酬のコンペ、ブラックボックスでコンペまがいの泥臭いプロポーザルが横行している現状において、こうした方式の確立は「長く辛い道」と言わざるを得ないが、最近はこれに加えて設計兼業者の設計参加も多く見られるようになった。
 新しい建築イメージや特殊技術を要する大空間建築等においては世界に誇る施工技術に協力を求めるのも納得がいくが、ただ単にローコストと設計費用の節減を目的にしたと思われるような安易なものまで登場するようになった。周到な検討や一定のガイドラインもないままに、なし崩し的に専業設計と兼業設計の境界が取り外されつつある。原因の一部は専業設計者の努力不足・勉強不測や受注に対する甘え等にもあろう。しかし、だからと言って機能の確保と経済バランスの実現に翻弄され、設計施工の「裏技」に期待し、本来建築に求められている時代の「文明」や地域の「文化」を切り捨てることによって、これからの「建築」がどうなるのか。専業設計の立場にある私たちは、これまでの自らの仕事について反省するとともに、改めて自身のつくる建築がこれからの地域文化を切り開いていくものであるという自負をもって研鑚していく必要があると感じている昨今である。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1996年4月1日掲載

刺激しあう友人でありたい

 このたび総会を前にして北信地区からクラブ副代表に就任いたしました。時期を同じくして関東甲信越支部の業務委員と、クラブ編集委員長を受け継ぎましたので、しばらく様子をつかめるまでパニック状態です。
 長野県は時間距離が近くなったとは言っても、広さに変わりはなく、地域性も様々です。また、クラブ会員にしてもその立場や、考え方の異なる人の集団です。私たちのクラブは全県一区ですから、そうした差異を乗り越えて、どのように会員を集結し、活動を維持していくかは常に大きなテーマだと思います。最近は新しい会員もかなり増え、組織として成長していることは喜ばしいことと感じていますが、反面活動への関わり方にアンバランスが出ているように思います。仕事も関心も共通する仲間ですから、互いに刺激し合う友人でありたいものです。
 そのためにはコミュニケーションや出会いの機会がたくさんあることが最も妥当な方法だと考えます。このたびクラブ会報の体裁を改めるに当って、内容も会員同士のコミュニケーションツールとして機能するものにしてみたいと考え、どんなことをしているのか知り知らせる場として大いに参加してほしいと切望しています。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1995年8月15日掲載

阪神大震災と木造住宅

 今から約20年前、私は大阪に住み天王寺にある村野、森建築事務所に通っていた。休日ともなれば京都や神戸に出かけて、建築を見て歩くのが楽しみだった。そんな思い出もあって、震災のニュースを耳にした時は、その被害規模の大きさに震撼すると同時に他人事と思えないものを感じた。しばらくは電話も通じず心配はつのるばかりだったが、宝塚市内にあった師村野藤吾(故人)邸の倒壊は私にとって最大のショックであった。村野の数多くの作品の中でも名作中の名作であったと認識している。これは河内地方の古い民家を解体して運びアレンジを加えながら組み立てたもので、人を魅了して止まない木造建築であったが、金物や筋交い等を使用していないというような弱点を合せ持っていた。2階に本を始め重量物が相当あったことも倒壊の原因の一つであったらしい。後に増築した住居部分や近隣の住宅は倒壊に至らなかったようなので、村野邸の場合は長スパンや民家工法ゆえの耐震性不足による被害であったかと推測される。再建は不能ということでやり切れない思いでいっぱいである。
 そんなわけでご家族への見舞いと被災視察を兼ねて3月中旬に神戸に向かった。
 神戸に近づくにつれてテレビや新聞で見ていた光景が現実に広がり始めた。古い住宅が傾いたり潰れたりしている。屋根瓦が下地の土と共にずれ落ちている。日が経っているので既にビニールシートで覆ってあるものも目についた。三宮に着くと大きなビルが潰れており、既に解体され始めているものもあって騒然としていた。元町商店街辺りになると被害は少ない。
 我々は限られた地区を見て回ったにすぎないが、被災の特徴は理解できたように思う。主たる原因は活断層や地盤状況に直結した「場所」と地震規模に対応できなかった古い「耐震基準」にあると思われる。先人は安全な場所に住みついたが、後から来た者は所構わずスプロール的に居住し始めた。また関西人はスクラップアンドビルドではなく、実利的な経済感覚によって古さを維持しながら文化を築き上げてきた。そうした古い木造住宅は現在の新しい耐震基準に準拠しているわけではない。京都の茶室始め日本の木造建築は柱と梁と壁と屋根がちょうど竹籠のようになって地震に耐えていると習った記憶がある。我々が専門家である以上、今回の地震による教訓は客観的に受け止めなければならないであろう。木造住宅倒壊の最大の原因は、老朽化と古い基準に基づく筋交いの不足・トップヘビーな屋根荷重にあろうと思うが、他にも固定金物がきちんと使われていなかったり、白蟻にすっかりやられてしまったような重大な欠陥のある家も見受けられた。因果関係の究明はそう単純ではない。早計な判断から在来木造工法はプレファブ工法より耐震性が劣るように言われているが、最近建てられたと思われる木造住宅が無事であるところを見ればプレファブ住宅だけが耐震性を備えているわけでもないと思う。断片的な情報や素人的な判断が増幅されることは危険である。このような比較は単一の指標だけでは無意味であって専門的な視点から総合的に裏付けられるべきだと考える。さらに言えばそもそも価値観の違うものを同次元で比較すること自体が無意味なことであるかもしれない。広報宣伝力に優れている大手メーカーのイメージは誇張され、そうした力のない在来工務店は為す術もない。しかし木造建築には日本人の生活に根ざしたもっと複合的な魅力があるはずである。木造建築の良さを活かしながら誠意を込めて欠点を改善していくという姿勢でなければクライアントのニーズに対して応じていくことはできないし、建築者としての責任を果たしていないことになる。

(社)長野県建設業協会:「建設しなの」1995年8月10日掲載

女性建築士委員会誕生の背景

 建築士会活動の活性化が叫ばれて以来、いろいろのことが検討されてきました。具体的には制度・組織・事業内容の見直し、高齢会員の優遇、青年会員の活動の場づくり等が挙げられますが、女性建築士の増加に伴う参加促進も大きな課題となっていました。本会(県建築士会)においても、先頃、青年建築士委員会の中に女性部会を発足させ、女性参加の器を整えてきました。相前後して各支部においても女性部会等の活動が表面化しています。女性の場合には仕事と家庭・男女格差等の共通の悩みを抱えていることが多いようですが、集まって語り合う中から親睦も生まれ、建築に対する意識向上も図れるのではないかと期待されています。最近では他団体や行政からも協力要請がくるような状況になっています。
 当支部においては、既に女性有志の皆さんによって他支部の仲間と合同で幾度か勉強会を行ってきた経過がありましたが、特に支部からの援助体制もなかったので、その活動にはかなり支障があったと思われます。このような背景を踏まえ、当支部においても本年度の事業計画の一つに女性建築士委員会の設置を掲げていたわけですが、先日、発足式を行い思いも新たに活動を開始しました。当支部においては委員会として位置付け、その独立性を保ちたいと考えていますが、今のところ女性会員の数が少ないこともあり、男性会員のバックアップも大いに必要かと思います。何卒皆様のご理解をいただきますようよろしくお願いいたします。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」1995年1月1日掲載

JIAリフレッシュセミナーに参加して

 11月7~9日の3日間、熱海市の熱海リフレッシュセンターにおいて教育研修委員会主催の「JIAリフレッシュセミナー」が開催されました。案内をいただき参加は了解したものの事前に送られてきた資料や内容を見ると、テーマもスケジュールもリフレッシュどころか頭が痛くなりそうでかなり不安になりました。メインテーマは「建築プロフェッションの変化と新日本建築家協会の戦略」となっており、更に「建築家資格制度について」、「建築家の業務基準について」、「地球環境問題と建築家について」の三つのサブテーマが示されていました。そしてそれぞれのテーマについて資料を基にレポートを準備してくるように指示がついていました。
 不安な思いで全国から集まったのは主催者・講師も合わせて36名でしたが、これは会場の定員によって決められたとのことでした。到着早々に各サブテーマに従い副会長の椎名政夫氏、業務委員長の橋本喬行氏、環境委員長の林昭男氏による講演がありました。そしてここまでの時点で参加者の意識は大きく覆されることになりました。日常の実務の中ではあまり意識されていない重要なテーマについての問題提起は大変インパクトのあるものでした。
 翌日は朝から10人づつの三つのグループに分かれてそれぞれのサブテーマについてのディスカッションを行いました。どれも大きなテーマでしたが、講師(講演者)の適切な指導もあって充実した内容となりました。個人的にもあまり意識化されていなかったテーマでしたので極めて有益であったと思っています。
 ディスカッションが早めにまとめられたので(予定外の)リフレッシュの時間ができました。熱海リフレッシュセンターはコンペによってできあがったもので、一階のアトリウムにはプールやバーデゾーンがありリラクセーションを満喫することができました。また夜の懇親会も熱気ある交流の場となっていました。
 最終日は前日のディスカッションのまとめが各グループごとに提言として発表されました。建築家資格制度については地域の大学等の教育機関とコンタクトをとりながら教育と実務のギャップをなくしていくことや社会へのアピールの必要性などが、また建築家の業務基準についてはJIA作成の業務基準を活用してクライアントとのトラブルをなくし妥当な報酬を得られるようにしていくこと等がまとめられました。地球環境問題については地球規模の問題について考えながら身近な省エネルギーや長生きする建築について取り組んでいくこと等が提言されました。
 最後に大宇根弘司氏による建築の寿命にまつわる講演があり、大分県立図書館や神奈川県立音楽堂の保存についての問題提起もありました。
 解散時には一同かなり頭のリフレッシュを受けて帰ることができました。継続的に開催されることになりましたら多くの方が参加されることをお勧めします。

JIA長野県クラブ:「JIA長野県クラブ」1994年1月1日掲載

成長の詩

■人生
人生で最も重要なことは何だろう
楽しい時間を過ごせれば良い・・・
経済的に恵まれれば満足だ・・・
出世をしたい・・・
社会や時代の背景によって左右される部分もあるが、
その人の価値観によって様々だ
私の人生で最も重要なこと・・・
それは自分自身の「成長」!
肉体的なことや社会的な地位などの外面的なことではなく、
人間としての内面性を高めることがテーマだ
笑わないで聞いてほしい
「青年」の部分なのだと思ってほしい
僕は「成長」することが人生で最も重要なテーマだと思っている
失敗しても良い
努力をすることが尊い
結果よりプロセスを大切にしよう
それこそが「成長」なのだ
「成長」するには自分を高めようとする意思が必要だ
何をすれば高められるのだろう
待っていてもだめだ
意思は積極的な行動を求める
学べ、弱さを補え!
考えよ、強さを伸ばせ!
安易な方法なない
辛いはずだ
ベストを尽くせ!
■仕事
多くの人の仕事は経済行為の追及だ
経済なくして生活は成り立たないのであるから当然である
重要なことであるし、努力をすることも必要だ
しかし、経済が単に経済であるなら
仕事での成功もゲームでの勝利にすぎない
人生の中で最も大きな位置を占める仕事・・・
何のために仕事をするのか
もう一度考えてみよう
仕事が生活のための手段であったらさみしい
仕事は量の問題ではないんじゃないか
仕事も人生のための手段であってほしい
仕事はその質を大切にされるべきだろう
仕事を通して自分を高めることはできないか
僕はそう考えながら仕事をする
人との出会いがある
協調を学ぶ
自分の不足を発見する
感性も刺激される
仕事は僕を少しづつ「成長」させる
そして「成長」は次の良い仕事を生み出すだろう
苦しくもあり楽しくもある
フィードバックは現在進行形だ 
ひとはJCに入って仕事をまかせることを覚えると言う
それによって企業が成長することは素晴らしい
僕はJCに入って自分がより仕事をすることも同時に覚えた
それによって自分がより「成長」できるように・・・
「成長」のために情熱を持とう
仕事が「成長」のための手段であってほしい
■JC
JCはそれ以前の僕になかった刺激を与えてくれた
良い先輩に恵まれた
有益な話を聞く機会もあった
いろいろな所へ行った
友人もたくさんできた
入会しなかったらできなかった経験も数多くあった
8年間、学び、考え、悩んだ
何日も仕事をしないでJCのレポートを作ったこともあった
自分の考えを多くの人の前で発表したこともあった
JCは僕を確実に「成長」させた
なにかをやり遂げる度に自分がふくらんだ
その実感がうれしかった
僕はJCを義務や責任でやってきたわけじゃない
あるがままの自然体でやってきた
それが僕のやり方だった
僕にはJCのみんなに伝えることができることなど何もなかった
だから僕はみんなと考えた
僕はみんなに考えさせた
考えずに頼ってくる者を突き放した
マニュアルだけを覚えようとする者を嫌った
一生懸命にやらない者を一喝した
これが僕にできる精一杯のことだった
僕にはJCを「成長」させるなんてことはできない
JCに対して僕ができたのは、
自分の生き様をさらけ出すことだけだった
そこには欠陥だらけの一人の人間がいた
でも、
それが僕の存在の証しだった
■まちづくり
JCは人間を「成長」させる魅力ある集団だ
しかし、それが目的の集団ではない
JCは研修所や経営者養成所じゃない
なにかを教わって終るところじゃない
マニュアル化したJC・・・Oh,No!
JCの基盤はまちにある
まちに向けて運動しよう
青年のパワーをまちに向けよう
自分の「背長」を自分のうちにとどめておいては意味がない
自分の「成長」と共に企業の「成長」をなし遂げ、
まちを「成長」させよう
他人がやってくれるわけじゃない
自分たちがやるんだ
自分のまちに対して意思をもった行動を起こせ
まちづくりにマニュアルはない
だから専門家でなくてもできる
だからJCがやるべきなんだ
JCのやり方でやるべきなんだ
JCの総力を傾けよ
まちづくりは事業の達成が目標ではない
まちの完成した姿を追い求めてもほとんど意味がない
まちが完成するわけではないのだから・・・
事業が完了したにすぎないのだ
まちは生きている
流動的な行動でも良いと思う
状況を見極める目があれば・・・
まちづくりはプロセスが重要だ
まちづくりにおいても「成長」がテーマだ
個人の「成長」とまちの「成長」が連係する
■再びJC
僕の実感として・・・
真剣に学ぼうとしているメンバーが少なくはないか
真剣に考えているメンバーが少なくはないか
真剣に悩んでいるメンバーが少なくはないか
青年らしい青年といえるメンバーが少なくはないか
長野JCは「成長」しているのだろうか
長野JCよ
心を燃やせ
命を燃やせ
「成長」しようとする意思があれば可能性がスタートする

(社)長野青年会議所:「創立90年誌」1991年1月19日掲載

だれもが恩恵を受けられるように

 情報網や交通網が整備され、私たちの暮らしのリズムがどんどん早くなってきています。暮らしが便利になり、生活水準の向上に伴って心の豊かさを求める時代へと変わってきました。
 新幹線をはじめ、高速道、空港などの高速交通網づくりは、21世紀を間近にして、長野県にとっては最も重大で緊急な課題だと思います。北陸新幹線は、軽井沢からはミニ新幹線ということでは、長野県にとってまったく意味がありません。やはり、従来の整備計画に基づく建設方式でお願いしたいものです。
 高速交通網の整備は、私たち長野県人はもちろんのこと、全国の人たちにも恩恵を与えてくれるものです。早期実現を強く望みます。

長野県:広報紙「ながのけん」1989年1月1日掲載

21世紀への建築士会活動

 建築士会活動の停滞化が言われて久しいが、これは建築士会活動に限ったことではない。社会全体が高度経済成長期を経て成熟化が進行するにつれて、社会の各分野において同様の現象がみられる。あちらこちらでこうした局面の打開への試みがなされているが、これといった決め手のないのが現状である。
 建築士会活動の活性化に向けて検討しなければならないことは二点あると思われる。一点は会の在り方の問題であり、もう一点は会員の会への係わり方の意識の問題である。相互に分離した問題ではないが、分かりやすくするために分けてみることにする。
 前者の問題については、現状の建築士会の存在と個々の会員の活動の関係が希薄であるという現象に現われている。入会と、主体的建築士会活動との間には何ら関係がない。今後は入会に伴う活動の義務と権利を形式的なものに終らせず、充実していかなければならないだろう。
 後者の問題については、入会と活動維持と二つのポイントがあるが、資質向上に伴う活性化の視点からみると活動維持への意識啓発が重要となってくる。元来、日本の資格制度は共通して技術のみを問う姿勢であるが、建築士制度についても同様である。建築士が量的に充実した現在、今後は技術に限定しない会員の質的向上が望まれるであろう。故村野藤吾が言った「建築をつくるためには『技術』と『哲学』と『感性』が必要である」という言葉を思い出すが、私は、技術は当然のものとして、哲学と感性と情熱(モノづくりへの責任)の三つを建築士の資質向上へのキーワードとしておきたいと思う。こうした意識を持った建築士こそが21世紀の建築士会活動を充実、活性化していくように思えてならない。具体策に向けて動き出す時が来ているのではないだろうか。

(社)長野県建築士会長野支部:「つちおと」1986年1月1日掲載